約束を果たすおじさん
「二人とも居たなら声掛けて下さいよ」
「すまんな! 今兄様と一緒に後片付けしてたからさ」
シスターたちは気を失った偽シンラを拘束し、魔法少女も拘束しようと捜索をしたが見つからず断念して燃やされた村の後始末に当たっていたそうだ。石造りの家が多く、木材部分は屋根のみで燃えたものの一撃目で崩し次の風神拳で更に追い打ちをかけ、湿気もあって燃え広がらず済んだらしい。
ティーオ司祭曰く大きな火災に見えたのはシンラの魔法による心理的影響を狙ったものでは無いかと言う。石に火は付かないしと言われ納得するとともにほっとする。風が吹けば火は余計燃え上がると思っていたので、燃え広がらずに済んで良かった。
例のゾンビたちはと言うと、ティーオ司祭たちの祝福によって魂は安らかになり破損してないゾンビたちはそれによって動きを停止したそうだ。それから穴を掘り一人ずつ丁重に埋め祈りを捧げ無事完了したと言う。
「有難う御座います。すみません寝てしまっていて」
「いえ良いんですよ。貴方は本当によくやってくれました。シンラを倒したのは貴方の御蔭ですからね」
「いや、風神拳はティーオ司祭たちでも打てたでしょう? 俺がやらなくても司祭たちが居ればなんとかなったんじゃないですか?」
「無理ですね。私たちは既にゾンビを機能停止させる為に魔法を使用し始めていて数も多い。貴方が居なかった場合にシンラと対峙しても、風神拳を打つような力は残っていなかったでしょう」
「シンラはそれを狙ってたんだと思うよ? ゾンビが居ればアタイたちがそれを止めなきゃならないし、その間に自分は目的を達成し勝ち誇って去れるっていう算段だった。しかしアイツにとって誤算だったのはそこに風神拳を打てるジンが居て、自らの動きを封じれるイグニが居た」
そう言われて思い出し、アリーザさんの手を引きながらシスターを負ぶった状態で立ち上がり、周囲を見ると奥の方でお兄さんが盛り上がった土の前で手を合わせていた。
「風神拳を会得することは出来ませんでしたが、それでも彼の目的を果たすのに役立って良かったです」
「……本当にシンラを倒せたんでしょうか」
「その答えは今は分かりません。ですがどちらにしても油断は禁物です。彼の仲間が黙っている筈はありませんからね」
「取り合えず仕事はひと段落したし、町長も先に引き上げているからアタイたちも帰ろうよ!」
シスターに促され準備を始め、イグニさんの前から去ろうとしないお兄さんも強引に回収してその場を後にする。村の調査の為に国から兵士が来ていてその人たちにも挨拶したが、何だか凄い緊張した面持ちで敬礼されてしまい、こちらも同じような感じになり返した。悪目立ちしていないのを願うばかりだし、何とか普通の冒険者に戻れると良いなと思いながら町を目指す。
シシリーはと言うと、道中確認したが涎を垂らしながら幸せそうに眠っていたのでそのまま起こさず連れて行くことにした。バレない様に気を付ければ問題無いだろう。
「兄者」
「ベアトリス……」
最初はゴネていたものの、これから暗闇の夜明けは俺たちを狙ってくるんだからベアトリスも狙われるし、一緒に居ないと余計危険に晒されると説得してルキナを連れて宿に戻った。兄を前にしてベアトリスはこれまで我慢していた寂しさが溢れ泣き出す。
ルキナも涙を流しながらベアトリスを抱きしめ、何とか兄妹の再会と言う約束を果たせて胸を撫で下ろす。夜も更けて来たので今後については明日となり、部屋へ戻る前にジョルジさんに果物籠を借りて部屋でシシリーをタオルに包み、その中で休ませ自分も鎧や靴を乱暴に脱ぎ捨ててベッドに入り就寝した。
「起きた?」
「え、起きたけど……痛い」
急に頬を叩かれて飛び起きると、空中でシシリーが腰に手を当て仁王立ちしていた。辺りを見渡しても何も無かったのでまたベッドに戻る。
「ちょっと! 寝ないでよ!」
「嫌だよ……まだ眠いんだよ疲れてるしさぁ。今何時?」
「もう朝!」
「朝はカーテンの隙間を見れば分かるよ朝日が差し込んでるもの」
「ジンって案外寝坊助なのね。シンラに捕らえられていた女の子のところに行かなくて良いの?」
「行くよ行きますよ……と言うかシシリー元気になったのな」
起きないと駄目っぽいので諦めて起き上がりベッドを出て着替える。シシリーはシンラの出す瘴気に当てられて大分弱っていたが、その瘴気が遠ざかった反動かとても元気で力が溢れているように見える。そう言うと本人も同意したので間違いないようだ。何だかいつもと様子が違うから、瘴気のせいで悪い影響があったのかと少し心配してしまったが心配無用で何より。
「おはようございますー」
「おはようございますジン殿。これから教会ですか?」
「はい。ルキナとベアトリスのこと、宜しくお願いします!」
「ええお任せを」
もうお兄さんが戻って来たのだから、これからは兄妹仲良く共にやっていくのが一番だろう。折角血の繋がった仲の良い家族がいるのだから一緒に居るのが良いんじゃないかと思う。家族が居ない俺からすると憧れるんだよなぁ血の繋がった兄妹とかさ。仲が悪い兄妹もいると聞くけど、良い時もあると思うしやっぱ心配したり思い出したりしてくれる誰かが居るってのは良いもんだよな……。
「ジン、何だか嬉しそうな寂しそうな感じ?」
「うん? まぁ寂しいけどさ、ベアトリスが幸せになるならそれが一番良いから嬉しいは嬉しいよ」
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