諦めない者
「ジン、ご苦労様でした。まさかシンラを倒してしまうとは」
暫くシンラを吸い込み暗い色を帯び始めた空を見ていると、ティーオ司祭が近付き顔を覗き込んでそう声を掛けてくれたので微笑む。
「そんな……シンラ様が……」
「馬鹿言うな! まだ死んだと決まった訳じゃない!」
手を差し出されたが握る力も無く首を横に振ると、腕を引っ張り立ち上がらせてくれたが満足にたてもしないので、ティーオ司祭が肩を貸してくれて完全に寄りかかるように立つ。魔法少女たちを見ると膝を着き項垂れていた。
「その通りだぞお前たち。まだシンラ様は死んでは居らぬ、あの程度で死ぬはずがない。急いで北へ向かうのだ、他の者たちにも伝令を飛ばせ今直ぐに」
その声の方向を見ると例の偽シンラがアリーザさんの傍に立ちそう檄を飛ばした。技を放ちはしたが完全にシンラを倒しきれたかと言われると分からない。何しろ人間を超えた存在に放つのすら初めてなのでどれくらいの威力かも見当が付かないからだ。
「往生際が悪いですね」
「何とでも言うが良い。シンラ様はまだ生きているのは間違いないのだ。その証拠が色々あるのでな」
「アリーザさんから離れろ」
「ジン・サガラ、調子に乗るなよ? 今後はお前も我らの抹殺リストに加わったのだから、努々油断せぬことだ」
「聞こえないのか? アリーザさんから離れろと言っている」
「聞こえているが貴様の命令になど従う訳がなかろう? シンラ様を退けただけでいい気になるなよ! この女は我らの大事な実験体なのだから連れて行くのは当たり前だ」
木に寄りかかりながら座り込んで居るアリーザさんの腕を掴み強引に起き上がらせる偽シンラ。このままではアリーザさんも救えない。自分の体に力を入れるべく踏ん張る。入る気がしないがここで彼女を連れ去られてしまったら何の意味も無くなってしまう。
動いてくれ体よ……あと少しで良いから!
「うおおおおお!」
「チィッ! まだ動けるのか!? 化け物めが!」
ティーオ司祭の手を払いのけ、転びそうになりながらもアリーザさんと偽シンラへ向けて突っ込む。せめてアリーザさんだけでも助けないと、この戦いに何も救いが無くなってしまう。一人でもこの件でちゃんと助かった人間が居れば、村人が殆どゾンビになって仲間の兵士が何人も死んでいたとしても、一人は助けられたと少しでも前を向ける。自分の為だけではなく皆の為にも!
「ここで貴様を殺しておく!」
偽シンラは逃げずにこちらに右手を向けて、手の先に紋様を浮き上がらせる。氷柱が現れたとしてもそれ諸共ぶっ飛ばす!
「消え失せろ偽シンラ!」
「黙れ異物、貴様こそ!」
剣山のように紋様から氷柱がこちらに向けて生えて来たが、そんなものはお構いなしと言うか構う体力はもう残ってない。右拳に全てを託して振り抜く。
―足掻け、仁。自分に出来るものは全て足掻いて見せなさい。どうせ最後は皆同じなら全力で足掻くべきです―
不意に先生の声が聞こえた気がする……まさかこんな異世界で先生の声が聞こえるなんて。確かに自分の力が及ばない時もあるだろうが、先生の教え通り俺は最後まで足掻き続ける! 皆に支えられ鍛えられた心と体を信じて限界まで絞りだす!
「化け物……!」
右拳が中心の氷柱を破壊した勢いで周りの氷柱も壊れて偽シンラの顔面を捉えた。その衝撃でフードが取れ頭髪のスッキリしたおじさんが露になり、鼻血を流してそう捨て台詞を吐くと白目を剥いて後ろへ倒れた。
このまま共に倒れたいところだが、シンラを倒した後コイツが出て来たような事態にならないとは限らないので自分の体に鞭打って堪える。
「ジン、後はアタイに任せて」
シスターの声と共に掌が頭に触れると、視線が上に行きそのまま倒れるのが分かる。シシリーが胸に居るので何とか左肩から落ちるよう調整するのが精一杯でそこから先は意識が途切れた。
・
「いってぇ……」
何かが顔の上に乗り、御でこの辺りを引っ搔いた痛さで声を上げる。目を開けるとそこはさっきまで戦っていた場所だった。辺りを見回すと誰も居らず、まだ夢の中かと思い二度寝しようとして木に寄りかかると誰か隣に居るのを感じ視線を向けるとアリーザさんが居た。
驚いて立ち上がり周囲を警戒すべくぐるりと回ってみた。思う通りに動けているから夢じゃない気もするけど状況が分からなくて困惑する他無い。
「うう……」
アリーザさんが呻き声を上げたので急いで前に屈み膝を着いて見守る。ゆっくりと目を開け始め
「やはり貴方が私を救ってくれたんですね」
そう弱弱しく微笑みながら呟き手を差し出されたので
「恩義に報いるは騎士の務めですから」
と左手を腰に回し笑顔でそれっぽく答え手を取り一礼する。そんなこと無いっすよ! って普通ならするところだが、アリーザさんは酷い目に遭っていると思うし何か現実に戻る為に少しでも良い展開があって欲しいという願いを叶えようと思ってそう返した。
「おー、ジンがロマンチストだとは知らなんだ。アタイには冷たいのになぁ」
恨めしそうな言葉を吐きながらシスターが背後から俺に覆い被さって来た。
「ジンにしては気が利いていると思いますよ? 私はもっと面白味の無い対応をするかと思ってましたからね」
ティーオ司祭が楽しそうな感じで俺の対応を評価した。いつかこの二人に対してやり返したいものだ。
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