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勝利をこの手に

「に、逃げないとはな」

「今回は見逃してやろうと思ったが気が変わった。貴様らは最早一人たりとも生かしておかん。俺の姿も見られたしな」


「シンラ、貴方は人間を止めたのですね」


 驚き目の前の出来事を受け入れられずにいると、横に来たティーオ司祭はそうシンラに問う。だが俺にはその言葉は頭に入って来ず、どうやったらイグニさんを助けられるか必死に考えながらその姿を見る。イグニさんは吐血しながら俯き、自分の腹を貫通し血で濡れたシンラの腕を抜かせまいと身を屈め、両手で掴み踏ん張っていた。血の量や顔色を見ればシンラの腕を抜くと同時に死神に連れて行かれてしまうと分かってしまう。


それでも諦めてはいけないとは思うけど俺には救う手立てが思いつかない。俺が無力感に苛まれている間もイグニさんは腕を抜かせないよう拘束している。辛くて視線を落とすと、鎖骨と鎧の間に引っ込んでいるシシリーが震えながら俺の肌着にしがみ付いていた。シンラのあの状態は魔族ないしそれに近い者であるのは間違いないし、ゾンビだけでなくこの土地に漂う瘴気はシンラの影響によるものだろう。


体の大きな人間たちですらこの混沌とした状況に半狂乱状態になったりしているのだから、小さくて気の良い妖精であるシシリーが震えるのも無理はない。シシリーの為にもイグニさんの為にも、コイツは絶対に倒さなければならない。


怒りと憎しみでぐちゃぐちゃになりそうになるが、シシリーが小さな手で俺の胸を擦ったのを感じて邪悪な感情を捨て去り、ただ救う為に力を使うべく気を貯める。


「知れたこと。お前たち親子に勝つ為には俺は人を捨てねばならん。この世界はお前たちによって支配されている。だからお前たちは魔法を広く伝えるのを禁じた」

「まだそんな寝言を言っているのですか? マダラ国は貴方のその思い込みによって滅んだのは分かっている筈。それを償いもせず魔族に身を変え更なる混乱と被害を広げようとは」


「何とでも言うが良い。俺は俺の方法で理想を実現する。達せられた時、お前たちはその座を追われる」

「そうですか。私はその座と言うものが何なのか分かりませんし、御覧の通り只の司祭です。王様でも無いので追われたところで自由になるだけなので問題無いですが、ノガミの末弟として更なる混乱と悲しみを広げさせる訳には行かない」


「混乱と悲しみだと!? お前たち一族がしていることを顧みずによく言う!」


 シンラは顔に血管を浮き上がらせ目を吊り上げ怒りを露にし、ティーオ司祭に襲い掛かるべく乱暴にイグニさんの体から手を引き抜こうとする。だがシンラの体は動いても手もイグニさんも一切動いていない。


「なっ……何故抜けぬ!」

「抜け無いだろう? フェリックスの復讐を果たす為、ゲンシ・ノガミ殿に唯一教えて貰った中で身に着けられたものを応用してみたのさ。お前がティーオ司祭と喋っている間にやってみたが上手く行って良かった。覆気(マスキング)を反転させて臓器の修復を高速化する技で、お前が私を貫かなければ試し用も無かった。神は最後にやっと私に微笑んでくれたよ」


「貴様! 負け犬の癖に私の邪魔をするのか!? あの男を倒せば魔法の未来は!」

「ルキナ! コイツの腕を!」


 ルキナを探すと後ろの方でゾンビを切り伏せていた。声に反応しこちらへ走って来た。万が一に備えてルキナをフォローすべく涙を拭い気を体に纏い安定させる。


「イグニさん!」

「ルキナ!」


「おのれ負け犬共が!」


 ルキナはイグニさんの斜め後ろへ移動し、歯を食いしばりながら小さく飛び上がって振り上げた剣を思い切り下ろす。シンラの右腕は肘から先を置き去りにして漸くイグニさんの体から離れられた。無くした腕を抱え込みながらよろめきつつ下がるシンラ。


「ジン、止めを! 至近距離から風神拳を!」


 ティーオ司祭の声に反応し気を纏いながら間合いを詰める。


「させない!」

「させるかよぉ!」


 タイミング良く森の中から魔法少女たちが割って入ってくる。


「それはこちらの台詞ですよ」


 素早く魔法少女との間に入りティーオ司祭が遮ってくれた。これでもう邪魔する者は居ない!


「何故だ……何故私がこんなところで! お前の様な何の才も無い男に!」

「行くぞシンラ……迷わずいけ!」


 ただ打っただけでは逃げられると考え思い切り眉間辺りを右拳で強打。シンラはよろめき動きは完全に鈍り視界も一時的に奪った。今ならいける! 左足を前にして飛び込みながら左手でシンラの髪を掴み逃げられないようにし、左足で地面を踏みしめた。


「喰らえ! 風神拳!」

 

 右足で思い切りシンラの両足の間を踏み鳴らし、髪を掴んだ左手を離し引くと同時に全ての気と力そして想いを右拳に集中させ突き出す。鳩尾に拳が命中すると同時にシンラの体は浮き上がり、吐血しながらも呆然とした表情をしたまま、夕焼け色に染まった空へと吸い込まれていく。


余波で周りに突風が巻き起こり、村に燻っていた炎も掻き消された。余韻に浸る間もなく身を屈め周りを見ると、ルキナは転がりそうになるイグニさんを抑えて共に伏せている。イグニさんの取った行動は完全には許せないだろうが、あの捨て身を見て少しは自分の中で折り合いが付けられると良いなと願う。


風が治まり立ち上がろうとするも、全く力が入らず身を屈めたまま動けない。ありったけの力を込めた一撃だから代償としては少ないくらいなのかもしれないなと思いつつ、それでも何とか体を動かして仰向けになる。


読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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