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村に現れる災厄

「……ジン、ここは駄目よ早く逃げないと。さっき村の方角からした血の匂いが今は全くしないのに、底冷えするような瘴気がこの辺りを覆っている」


 胸元に戻っていたシシリーを見ると身を震わせ背を丸めて蹲っていた。その異変を見て町長たちの元へ戻り、村の様子が変なので一旦村の外を探しましょうと提案する。皆で調べても何も無いのもあってすんなり受け入れられ、直ぐに全員村の外へ移動し始めた。


「何か来る!!」


 村を出た瞬間、シシリーが声を上げる。次の瞬間、村から突然火の手が上がり燃え広がっていく。爆風もほぼ無く場面が切り替わるかのように村の建物が火に包まれたのを見て、こんな真似が出来る人物は一人しかいないだろうと思い急いで周囲を確認する。


「やぁシゲン、よく穴熊を止めて出て来たものだ」

「シンラ!」


 ゆっくりと燃え盛る村の入口に舞い降りる赤いローブの人物。その身に纏う禍々しさからしてシンラなのは間違いない。初めて会った時よりはマシだが、それでも手に汗をじんわりと掻き動悸が激しくなる。師匠に鍛えて貰わなかったら立っていられなかっただろうと思うと感謝しかない。


「お前も居たのかジン・サガラ。大人しく町に居れば殺すまではしないでおいたものを」

「アリーザさんと接触させたくないっていうのは本当なのか?」


「誰から聞いたかは知らんが……いやそこの負け犬か。ならその答えは一応イエスと言っておこう。急に現れたお前によってこちらの予測を超えた状況が展開され続けているのでな。だが今回はそれを想定して早めに動いた。お前に対するこれまでの御褒美をやろう、受け取るが良い」


 シンラは右手を上げる。何か魔法でも放って来るのかと思い身構えていると、燃え盛る村の中から悍ましい叫び声がした。見るとゾンビが次から次と村の地面から這い出ていて、しかもゾンビの中に見覚えのある人が何人も居たし更に驚いたのは自警団のゾンビも居たのだ。


まさかアリーザさんもゾンビになっているのか!? 向かってくるゾンビを退けつつその姿を探すが見当たらない。早く姿を確認したくて動き回るも全く確認出来ず、焦りで思考が鈍る。


「ジン、焦ってはいけません」


 危うく噛みつかれそうになったところをティーオ司祭に腕を掴まれ引っ張られ難を逃れる。ゾンビは映画で見るようなゆったり歩いてくるのではなく、白目を剥きながら生きているかのような速度でこちらに近付き襲い掛かってくるので油断が出来ない。


「申し訳無いですが、貴方には頑張ってもらわないと。町の兵士たちが動揺しています」


 後方を見ると町の兵士たちは半狂乱状態で戦っていた。ゾンビの洋服は汚れが少なく、中には今日おろしたばかりの服を着ている人も居た。兵士たちの中にはこの村の人と付き合いがあった人も居るだろうし、明らかについさっきまで生きていたかのような人たちが殺されゾンビとなって向かってきている。死をより近くに感じ、恐怖して足が竦んでも仕方ない。


「うおおおおお!」


 町の兵士たちが冷静さを失って立て直せず、倒されていく者が出始める。このまま壊滅してしまうかもと思ったその時、雄叫びが兵士たちの後ろから上がった。場の立て直しを図るべく町長が前に出て来て、町の兵士に襲い掛かる村人ゾンビを大きな斧で斬り飛ばして行く。


「皆の者! 悲しみと恐怖で手を止めるな! 彼らを安らかに眠らせてやる為にも!」


 そう叫んで檄を飛ばす町長に駆け寄り、ティーオ司祭やシスターも含めた四人で兵士たちに寄ってくる村人ゾンビを殴り倒していく。暫くすると町の兵士たちも涙を流しながら得物をしっかりと握り戦い始め、何とか持ち直した。


「ジン、ここは任せてシンラを」

「修行の成果を見せて下さい!」


 町長やティーオ司祭にそう言われシンラが居る場所へと向かう。シシリーが怯えていた底冷えするような瘴気の正体は、恐らく村人たちのものに違いない。彼女を見ると鎧の端を掴みながら声を殺して泣いていた。


「ゾンビにする為に殺したのね……酷い……!」

「惨い真似を……村人だけでなく自警団まで。自警団はお前の仲間じゃないのか!?」


 ゾンビを退けシンラの前に戻ってそう抗議すると、大きな声を上げて笑い出した。これまでの重厚な感じと違い下品で不快な感じだ。ティーオ司祭とシスターから話を聞いて過去の件を気に病んでいるのではと思ったが、そんなものは微塵も抱いていないだろうと思わざるを得ない。もし抱いていれば、自ら奪った命に対して嘲笑するような笑い方はしないはずだ。


「すまんな、あまりにも面白くて笑ってしまったよ。こいつらが仲間だと? そんな訳は無いだろう。この連中はアリーザを立てて家の再興をするべく私たちを利用しようとしていた連中だぞ? その家を潰したのは私たちだと言うのに」

「利用価値が無いからゾンビにしたのか」


「このまま行けば余計な話をし兼ねないからな。証拠は消さなければならない。必要なものは回収した」


 そう言って左手を突き出すと、手の前の空間が割れそこから目を瞑っているアリーザさんが出て来る。ゾンビの中に居ないからもしやと思っていたが、生きていてくれて良かった。シンラに感謝したいところだがそれはアリーザさんを取り戻してからだ。


「危うく実験体を失う所だったが何とかギリギリで確保できて良かったよ。それだけでもこの国に来た価値はあったし損失を補填出来る」

「っあ!」


 いきなりシンラの横にイグニさんが現れ剣を振り下ろした。これにはシンラすらも驚きアリーザさんを出していた手をそちらに向け紋様を出し防ぐ。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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