最後の敵
イエミアは嬉しそうに遠くからこちらへ叫んだ。最悪のタイミングで全てが重なった結果、テオドールの魔法が成功し仲間たちがここへ来てしまった。
今からでも遅くはない、皆に指示を出して前へ出ないようにしなければと考え、急いで彼らのところへ移動する。
「全軍突撃! すべての敵を排除せよ!」
彼女にとっては千載一遇のチャンスなのだから見逃すはずもなく、すでに大軍は復活させ終えていたようで命令を下した。
ここは強引にでも向かい彼らに指示を出すべきか迷ったものの、シシリーが胸元から出て後ろを見て敵がそこまで来てる、そう教えてくれたので断念する。
向き直り敵を見ると全員が能力を再強化されており、遠くにいるイエミアは生命維持以外の力を放出したように見えた。
有無を言わさず戦うよう仕向けるべく、ここが勝負所と考え惜しみなく放出し仕掛けてくる。こちらも同じように考えており、気を増幅させ全力で技を連発していく。
「せ、先生!? 皆を助けるぞ!」
「大丈夫だ!」
距離が先ほどより近くなったことで、赤ん坊たちの叫び声に妨害されたもののなんとか声届き、皆得物を手にしただけで止まってくれた。
一刻も早く兵と赤ん坊の群れを倒し、イエミアが再召喚するよう仕向けなければと奮起する。
「よくものこのこと私の目の前に出られたな、エレミア。テオドールが呼ばなければ、お前はこのステージに立つ資格すら無かったというのに」
「イエミア!」
周りの気が大きく感じるほど小さくなっていたはずのイエミアは、いつの間にかこちらの後方にいる皆のところへ移動していた。
生命維持程度しか力を残さないくらいに兵たちを強化したのに、どうやって急に回復したのだろうか。直ぐにでもイエミアに一人で攻撃を仕掛けたかったが、群れはまだ残っており動けない。
「他にも私の計画の為に頑張ってくれたシンラ、それと間抜けなレイメイとジロウ親子もおるな。あとは……不死鳥騎士団とかいう田舎者の浅知恵で滅びた残りカスに、名誉などという腹の足しにもならないものに縋る狐の娘、ヤスヒサの搾りかすもいるな」
「皆、ソイツの話に耳を貸すな!」
「揃いも揃って愚かな連中だ。お前たちのお陰で私は計画を完璧に近いところまで持ってこられた。残念ながらジン・サガラのような人材はお前たちの中には居ない。ここはお前たちが居て許される場所ではないのだ。感謝しているから大人しく死んでくれ」
「堪えてくれ皆!」
「魔術粒子砲!」
「白刃偽獣!」
「次元斬!」
「雷帝招来!」
「風神拳!」
「竜牙拳!」
イエミアは他人の神経を逆なでさせることにかけては天下一品だ。止める言葉も聞かずに、皆持てる技を全力で放ったのを背中で感じながら絶望する。
「無駄無駄無駄無駄ぁ! 例え余力が僅かしかなくとも、神となった私にお前たちのような雑魚の攻撃が通じるはずも無かろうに!」
―皆嫌い……。
「アマテラス、見て頂戴。お前の父親の仲間や母親の知人も私たちを殺そうとして来ているぞ?」
―イエミアも誰も護ってくれない。私を倒すために皆攻撃してくる……。
「待てアマテラス、さっきのは私が悪かった。今はあの雑魚どもと父親を殺そう?」
「アーテ様! ジイの声を聴いてください!」
「アーテ! お母さんの話を聞いて!」
兵と赤ん坊たちを退け皆の方を見ると、空中に浮かぶアーテは黄金色の光を放ち、シンラたちが放つ技を何もせず掻き消していた。
先ほどまでのイエミアの禍々しさは消え、顔を見ると左半分は邪悪なイエミアの笑みを浮かべ、右半分は涙を流している。
イエミアに魂を封印されていたはずのアーテが表に出て来ている、そう見えた。仮にもしこのまま前面に出てくるとなると、今支配し体を動かしているイエミアはどうなるのか。
アーテの言葉からして共存出来るようには思えない。ここから二人の主導権争いが始まり、隙が出来れば今度こそこちらのチャンスだ。
イエミアによって起こされたこの悪夢を終わらせ、アーテを解放するために三鈷剣で彼女を貫く。
悪しか斬れない剣ならば、きっとそれで終わるはずだ。アリーザさんが攻撃しなければ、すべてが終わった後は親子で暮らせるだろう。
恐らくチャンスは出来て数秒だと考え、剣を握る手に力を込めた。
―誰も私の言葉を聞いてくれない……全部嫌い……大嫌い! 皆死んじゃえ!!
「ば、馬鹿な……ぁっ!?」
アーテの体から黒い煙が立ち上りそれは悪魔のような顔を形作ったが、体から出る分が終わったのか人の形に変わる。
アーテは右手を掲げた後で握りつぶすと、イエミアは小さな悲鳴を上げ黒い煙は光の粒子となってしまう。
突然の出来事に唖然としていたものの、そんな場合ではないと頭を振り先ずはイエミアの気を探ったが、完全に消滅していた。
最大最悪の敵でありしぶとく生き残りあと僅かで完遂しかけていた、あのイエミアがこんなにもあっさり消えたとは信じられず、動揺を隠せない。
「お前たちを皆殺しにして私の、私の言葉を聞いてくれる世界を作る……! だから死ね!」
気持ちを立て直せないままアーテの叫びを聞き身を震わせる。視線を向けると幼児とは思えない顔でこちらを睨んでおり、さらに体から発する気の強大さに気圧された。
まさかイエミアに操られていない娘が最後の敵だなんて、誰が想像できるだろうか。
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