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シシリーの占い

「さぁ気を付けて行きましょう。ここから先の森から村まで安全に行ける保証はありません。そして私の目論見を外れて生贄を出さず真っ向勝負してくる可能性もある」

「こっちとしては有難いけどね。シンラたちは首謀者を殺してとんずらしたから良いだろうが、アタイたちはその国の後始末をさせられたんだ。あの時の借りはキッチリ返させてもらいたい」


 離反したとは言え元竜神教徒。後始末をせずに逃げたのならそれをするのは竜神教徒を措いて他に無い。魔法が暴発して国を吹き飛ばしたと聞いたが、消滅したのではなく戦場と同じような光景が広がっていたんじゃないかとシスターの辛そうな顔を見て思う。


彼らも辛かっただろうが、他人がしでかした悲惨な光景を処理した立場の人間の方がもっと辛いだろうし、その報いは受けなければならない。


「散って!」


 シンラや暗闇の夜明けに対する複雑な思いを抱きながら森の中を真っ直ぐ進んでいると、ティーオ司祭の声が上がる。斜め後ろへ飛び退き木の陰に隠れる。改めて見るといつの間にか進行方向に霧が発生していた。


時間は平等だ。こちらが準備をしている間にあちらも当然準備は完了しているだろう。村を固めず森に罠を仕掛けていても可笑しくはない。シシリーは無事だろうか。


身を隠しながら司祭とシスターを探しつつシシリーも探すべく辺りを見回すと、二人とも少し離れた木の陰に居たのが見えた。今のところ霧以外何も無いが、先に進めば攻撃してくるのは間違いないだろう。それにあの霧も安全かどうかまだ分からないので油断は禁物だ。


「ジン!」


 様子を窺っていると、右耳に小さな聞き覚えのある声が届く。右後方を見ると光の球が浮遊していてそれが右肩に乗っかった。暫くすると光はシシリーになり右肩に腰かける。見た感じ怪我も無く無事で良かったと胸を撫で下ろす。シシリーは辺りを見て司祭たちが居るのを確認し、俺の鎖骨当たりの鎧の隙間に隠れた。


「シシリー良かった無事で!」

「何とかね。ジンも久し振りだけど元気そうで良かったわ」


 シシリーがそう言うなら特訓の疲れはしっかり取れてるんだなと思って安心する。地獄の特訓の内容を面白おかしく話したかったが、それは後にして森の様子を尋ねた。するとここ一週間で森の中を変なローブを着た者たちと自警団の連中がウロウロしていたと言う。


その都度攻撃を加えていたが次第に警戒されてしまい、仕方なく町の近くに避難していたようだ。シシリーが指さした先を見ると、不自然な葉っぱの塊が木の枝にありそこが仮住まいだと教えてくれた。


「シシリーと会えて運が良かった。このまま会えなかったら心配なままだったからね」

「そうね会えて良かった。ジンたちはアイツらを倒しに行くんでしょ? 私も協力するわ!」


「宜しく頼む。あそこの二人は仲間だから攻撃しないで欲しい」

「分かった! 取り合えずこの霧は毒性は無いから進んで大丈夫よ。村の近くは警備が厳しいから行くなら回り込んだ方が良いかも」


「右と左、どっちから回り込んだ方が安全かな」


 そう訊ねると、シシリーはこないだプレゼントした針の一つを腰から抜いて肩当に軽く刺した。少しするとそれは左へ倒れる。


「安全なのは右だけど、意味があるのは左って出たわ」

「そうなの?」


「この素晴らしい針の御蔭で私の占いの精度も高くなってるの。この一週間この占いであのヘンテコな連中を撃退し続けられたから間違いないわ!」


 個人的には占いは信じない方だけど、今は何も材料が無いし他ならぬ妖精のシシリーが言うんだから信じてみよう。ティーオ司祭とシスターの方へ近くにあった石を投げ、視線をこちらに向けて貰い指を左へ刺してから移動する。


「シシリー案内を頼む」

「任せて!」


 先行したシシリーを追って森を駆ける。気配は感じないが森の奥にある村方面に何か良くない感じがしてならない。こないだから色々あったからなのだろうか。


「ジン、どうしたんです?」

「こっちで良いの?」


「あ、はい。右から回っても良いですが左側の小さな山から村を見た方が良いかなと思って」

「なるほど。ジンはあの村に居たんでしたね」


 シシリーのところは誤魔化せないかと思い、ギルドのラウンジで見た地図を思い出しもっともらしく説明して見た。ティーオ司祭はそう言って納得してくれて今は何とかなったが、いつまで誤魔化せるか分からない。折を見てシシリーに、司祭たちにも紹介して良いか確認しよう。


走り続けていると以前盗賊と遭った道に差し掛かり、ふと見ると倒れている者が居る。急いで駆け寄り介抱しようと仰向けにさせ顔を見ると、怪我人に見覚えがあった。サガを探している時に出会った盗賊だったので驚く。


てっきりこちらと事を構えるなら盗賊と手を組むだろうと思っていたが、やりあっているのか?


「どうやらまだ息があるようですが……」


 見ると腹部を一刺しされ血が大量に流れている。俺たちに気付いたのか目を開け口を開いた。


「た、頼む……親分が危ない」

「何処へ行けば良い!」


「村へ……!」


 そう言って力尽きた。盗賊を森の中へと運び目を閉じさせてから手を合わせその場を去る。自警団はどういうつもりなんだろうか。町とやり合うなら味方は一人でも多い方が良いだろうに。


「急ぎましょう。幾ら盗賊とは言え無関係の人間を手に掛けるようでは悠長にはしてられません」


 ティーオ司祭に促され先を急ぐ。シシリーの光を追っていると上り坂になって行く。地図で見た小さな山の辺りだなと思っていると


「左危ない!」


 俺は直ぐに盾を下ろして左側面に構えると、何かが盾に当たる。


「な、何故それを!? ってお前か」


 茶色のボロいマント、汚れた白くボロいシャツと黒いスラックスに革靴、顔を茶色いボロッとした布を巻いて覆い隠し目だけが出ている男が現れた。手にはその恰好に不釣り合いな装飾の豪華なロングソードが握られていて、その時ベアトリスがギルドに剣を紛失したと届け出ていたのを思い出した。


「ひょっとして……ベアトリスの兄さん?」

「お前に兄さんと呼ばれるのは心外も甚だしい。気持ち悪いから止めてくれ」


 ……気持ち悪いって何だよ。兄さん以外になんて言えって言うんだ。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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