天候不順
ニニギさんたちはイエミアの言葉の後、体から黒い気を発し目は赤く輝き始める。彼らの表情が苦しんでいるように見えた時、神様にも良き神とそうでない神がいるのを思い出す。
イエミアがアーテを利用し作り出したこの世界では神であるが、だからと言って良き神ではない。恐らく誕生したばかりであったことから、真ん中或いは良き寄りになっていたのではないか。
不動明王様もアーテたちが悪しき行いをし続ければ、最悪の場合自ら出陣すると言っていた。クロウですら本体で降臨するのを避けて来たのに、長い年月信仰され続けている不動明王様が降臨された場合は、世界が耐えられるのかすら怪しい気がする。
不動明王様も世界の崩壊など望んでいないからこそ、なんとかして食い止めるために追加で加護を下さったのだ。
「馬鹿な……その焔は私たちには通じないはず」
黒い気を纏った兵士に対し三鈷剣で斬りつけた瞬間、相手は焔に包まれ消えていった。驚愕の言葉を発したイエミア以上に、こちらは驚愕し冷や汗が出る。
彼女は星の意識を掌握すれば勝ちと思っていそうだけど、その果てに待つのは確実なる消滅だった。クロウに無理やり復活させられ哀れではあるものの、うちの娘を道連れにされては困る。
「行くぞライデン!」
「おうとも!」
生き物はいずれ死を迎えるのは間違いないが、ある日突然強制的に消されるのは無念でしかなかった。
いつもの朝を迎え一日を迎えようとした直後に轢かれ、この世界に来たからこそ選択の果てにある死を尊重したい。
「なぜだ……こちらはさらに強化を加えたのになぜ押されている!?」
ライデンが来てくれたことと焔が使用可能になったことで、それまでの一進一退の攻防をひっくり返し、一気にイエミアへ向け前進する。
「くそぅ……そうだ、アミ、アミがいた! いでよ、死せる愛しき我が愛犬!」
狼狽する彼女の姿を視認し一気に詰め切ろうと思ったものの、突然雲から大量の黒い煙が現れ爆風を巻き起こし、万が一を考え一旦引くことにした。
煙はやがて巨大な竜の骸骨となり機械音のような咆哮を上げる。屍竜の正体は暗闇の夜明けとの最終決戦の際に、イエミアが呼び出したかつての愛犬だった。
「まだまだこれからだぞ? 私はまだ余力を残している、というより減ってはいないのだ! ……ん?」
イエミアは目を見開き口角を上げながら言ったが、突然何かに気付いたらしく上を見上げる。こちらも確認のため気を張りつつ上を見たところ、先ほどまでの晴れ空ではなく星が散らばる夜空が現れていた。
「誰だ天候を変えたのは……なぜ夜が来る……!?」
―もう嫌……怖いの嫌い……。
表情を変えずに空を見上げたまま、静かに憤るイエミアの言葉を遮るように、アーテの声が聞こえてくる。アーテ、お父さんが助けに来たよ! お母さんも待ってる! と声を上げたが、返答は無かった。
「お前かアマテラス……黙って私に支配されていれば良いのだ!」
怒鳴った後でイエミアは思い切り自分の顔を殴りつける。彼女はクロウに無理やり復活させられただけでなく、人格も弄られている気がした。
イエミアが怒りに任せて子どもを殴るような奴であれば、奥さまやイーシャさんが真っ直ぐ育つとは思えない。
自分の欲望のために関わる人を悉く不幸に陥れるクロウと、一時的にとはいえ手を組んだことは自分の最大の汚点と言える。
「クソッ……クソッ! なぜ空が元に戻らない!? いい加減にしろ!」
―イエミアも私を護ってくれないの……?
「お前を襲ってくる連中を倒さなければ守れないんだぞ!? なぜそんなことも分からないんだ!?」
―ならなんで私を殴ったの……?
「悪い子には御仕置せねばならないのだから、当然だ」
―これまで一度もそんなことされたことない……暴力はお父さんがするものだって言ってたのに……。
「……ええい黙れ!」
怒りで我を忘れアーテを殴った結果、悪質な刷り込みがイエミア自身に返ってきた。問いに対して答えず彼女は首元の鏡を強打する。
「ようジン、あの子どもの中にいる胸糞悪い奴はお前にやるからよ、デカブツをやらせてくれよ。俺の心はまだ腹八分にもなりゃしねぇ!」
イエミアを指さしつつライデンはそう言ってきたので、じゃあ頼むよと告げると屍竜に襲い掛かった。
「これで勝ったつもりか? ジン・サガラ!」
「お前を確実に葬るまでは勝ったつもりになることもないよ」
「私を葬ることがお前の勝ちだというのにか!?」
たしかにそう言われればそうなんだけど、なにか胸騒ぎというかこの世界のルールそのものが、さっき変わったような気がしてならない。
考えればイエミアはアーテの魂を眠らせ同化したと言っていたのに、あの子は目を覚ましただけでなく天候を変え、さらにはイエミアに抗議している。
「まぁ良い、私がお前を葬ることにも変わりがない。例え天候が変わったとて優位までは変わらんのだ! 行け!」
彼女の号令に従うかのように、雲の下から黒い煙が当たりを埋め尽くすほど吹き出し、ニニギさんたちが復活してきた。
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