沼地を進む
イエミアはそう言って後ろの方へ下がっていく。彼女を倒すには遠距離攻撃は通用しない。兵士たちをすべて吹き飛ばすなりして前を開け、一気に距離を詰めて斬るしかないだろうが、それが一番の難題だった。
倒しても倒しても湧いて出てくる上に、ニニギさんたちは考えることをせずに全力で来るので、先ほどよりもきつい状況になっている。
体力は減らず今現在ダメージを受けていないものの、このまま攻撃を受け続けていればいずれダメージを負いかねない。
ダメージを負えば動きが鈍り、致命傷を与えられれば回復が追い付かず死に至るだろう。なによりこのままでは星に住む皆の意識を支配され、取り返しがつかない。
焦る気持ちとは裏腹に前に進むどころか下がらせられており、一切の感情を抜いたニニギさんたちの強さに驚愕した。
兵士たちは減らずニニギさんたちの猛攻は止まない。終わりのないまさに無間地獄に落とされたような、そんな感覚に陥る。
「ジン、なにかくる!」
胸元にいるシシリーが飛び込んで来てはっとなり、急いで風神円舞を放ち相手の兵士を吹き飛ばす。素早く一回転して見回したところ、後ろの方から光が飛んで来ていたのが見えた。
どう対処するか迷っている間に兵士たちが戻って来てしまい、先ずは兵士の処理を優先し光は様子をみようと思っていたところ、光は直前で加速し凄い速度でこちらの体へぶつかってくる。
やられたと思ったが体に異変は無く、手が離せない為シシリーに何かあれば報告を頼み、戦闘を継続した。
了解と声を上げシシリーがこちらの胸に手を当て耳を当てたりし、確認したが特に異常はないと教えてくれる。
後ろの方向にはアリーザさんたちが居り、八岐大蛇と交戦中だと思う。ひょっとして何かあってこちらに知らせるべく、光の玉を出して投げたのだろうか。
「あぶない!」
アリーザさんたちの心配をしたところでニニギさんが目の前に現れ、こちらの腕に向け剣が振り下ろされた。
「待たせたな、ジン!」
最短で剣を出しても対処が間に合わず一太刀浴びる覚悟をした瞬間、突然ニニギさんが右へ吹っ飛んだので左を見ると、ライデンが蹴りを放ったままの格好で立っている。
「まったくお前と知り合えたことは我が身最大の幸運だ! こんなに強い連中と戦えるなんて最高過ぎるぞ!」
嬉々としてライデンは兵士たちを瞬く間に倒し、一呼吸置く間合いを作った。神の兵というだけでなくニニギさんの強化まで受けているのに、彼は遅れも取らずに悠々と処理している。
本来のニニギさんではないというだけでなく、イエミアによって強制的にこの世界に呼ばれているので、元よりかなり劣化しているのは間違いない。
とは言えライデンは神ではないので、こうもあっさり処理しているのを見せられると、今生きて名を残している者は勝るとも劣らないなと思った。
「ジン、少し気を整えた方が良い。弱気になるのも分かるがそれでは余計時間が掛かる」
兵士たちの攻撃を一身に受けても動じずに、こちらを見て心の乱れを見抜き整えるよう促す。不動明王様の加護がなければこんな凄い男には勝てないな、と思い知らされる。
ライデンの指摘は間違いないだろうと考え、深呼吸しながらすべてを整えるために目を閉じた。胸元にシシリーが手を当て温かさを感じたことで、素早く気と呼吸を整えることに成功する。
何十連勤とした後で家に帰り、気を失うように寝て起きた後のように気持ちは晴れやかになった。
「もう少し休んでいても良いんだぞ?」
ゆっくりと歩きながら兵士たちを捌きつつ、ライデンに近付き背中を合わせるとそう言ってくる。一人で戦いたいところ悪いが一秒でも早く奥に行きたいと告げると、なら片付けちまうかと残念そうに返した。
「風神円舞!」
「ドラゴンクロー!」
風神円舞を放つとライデンは風に遅れて走り出り、横へ薙いで回る。目の錯覚か分からないが一瞬竜の大きな手が見え、それが兵士たちを襲い掻き消した。
竜人族というのは竜になれるのかと聞いて見るも、竜にはなれんなと返される。奥へ少しずつ移動しながら攻撃をしつつ、竜の手が見えたのは見間違いかと尋ねたところ、それは俺がそうなるように鍛えたという。
そうなるように鍛えてなるものなのかと疑問をぶつけたが、なったからなるのだろうと脳筋全開の答えを聞き笑ってしまった。
「笑える余裕が出て来て何よりだ」
「お陰様でね。そう言えば八岐大蛇は?」
助っ人として来てくれたのは勿論のこと、戦いから一瞬でも離れられたことに心から感謝している。ライデンは雑だが適当なことはしないだろうと思ったものの、光が飛んで来たこともあって気になって聞いてみた。
「あんなものは大したことはない。俺が竜族との戦いの為に色々考えていた秘策を、あとちょっとで出そうとしたところで倒れてしまった。そんな感じなので出来ればもっと暴れたいが、良いか?」
「遠慮なくどうぞ」
ライデンの問いに答えた瞬間、気を増幅させ荒々しく暴れはじめる。これまで本気で戦える相手が居ないにもかかわらず、いつか封じられた竜族と戦うためにライデンは鍛え続けてきた。
八岐大蛇と戦って叶わなかったことで、かなりフラストレーションが溜まっているのだろう。
「チッ、まさかこんな奴がこの世界に居たとはな……お前たち、我が力を分け与えてやる。さっさと片付けろ!」
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