無間地獄
イエミアが剣をかざしそう叫ぶと黒い煙が雲から吹き上がり、消えた筈のニニギさんたちだけでなく、倒したはずの兵士たちもあっという間に蘇った。
先ほどとは違い目は光を失い気も濁っているものの、強さにおいては上回っている。恐らくニニギさんたちが手加減してくれていたものが、強制的に蘇らせられたことにより解放されたのだろう。
相変わらず惨いことをすると思いつつ、出来れば一撃で決着を付けたいと考え気を増幅させた。
「私たちの御先祖様を斬り殺す準備は出来たかな? だけどコイツラを倒したところで私を斬れるかな? 娘の顔すら殴れないお前にそれが出来るとは思えないが」
浮遊しこちらを見下ろしながら、嫌らしい笑みを浮かべてイエミアは言う。こちらとしてはアーテの中にいるイエミアは悪であり、悪ならば三鈷剣は通るので、娘を助けるためにも覚悟をして刺すと決めている。
殴るのはまったく意味がないので躊躇して当たり前だ、と言いたいところだが黙っておき、さっさとケリを付けようと返す。
「どちらでも私は良いが、まぁお前は倒しておこう。ルールは先ほどと変わらんが、コイツラを倒して私のところまで来て斬れば勝ち、こちらはお前を倒せば勝ち。実に明確で分かりやすいな」
そんなに素直に終わるものかねと返したところ、さてどうかなと思わせぶりな感じで返した。いつも通り二つや三つなにか仕込んでいても不思議ではない。
クロウもとんでもない奴を目覚めさせたなと呆れながら、切っ先を向けて戦いの合図を待つ。
「これが正真正銘最後だ。傀儡前のニニギがすべてを兵たちに与え、さらに蘇らせたことでパワーアップしている。これらをすべて倒しきり私のところに来れると良いなぁ……全軍突撃!」
切っ先をこちらに向けると蘇ったニニギさんたちは、こちらへ向かって無軌道に突っ込んでくる。規則正しいよりも対処が難しそうだなと考えながら、風神円舞を放ち距離を取らせた後で、ダブル風神拳をイエミアへ向けて放った。
相手の兵は召喚主を護るよう出来ているのか、なんとこちらを無視して彼女の元へ行ってしまう。
「チッ、馬鹿どもが! こっちへ来るな!」
これくらいはイエミアなら余裕で防ぐだろうと考え、追加で風刃神拳と砕破拳を連続して放ったところ、ニニギさんたちは皆身を挺してそれを防いだ。
「クソが……ここまで知能が低下するとはな」
「傀儡って賢いものなの?」
ボヤキに対してシシリーが純粋な気持ちでたずねるも、返答せずにダブル風神拳に向け首に下げた鏡を手に取り前に出す。
体を覆うほど大きさだった風の渦は、突然鏡の範囲に縮小されて吸い込まれ掻き消される。
「まったく余計なことをしてくれた。鏡に当てることが出来ればこうしてやれたものを」
そう言うと一度鏡を引いてから思い切り突き出した。吸い込まれただけでも驚いているのに、今度は風の渦を出してこちらに返してくるではないか。
ニニギさんたちだけでも倒すのは至難の技なのに、イエミアの防御にも隙が無いとは厳しいなぁと思いながらも、どうにかする方法はあるはずだと気を取り直し、彼女との距離を詰める。
「私がこの空間を作りアマテラスを閉じ込め、同化したのはこの為でもある」
跳躍し上段斬りをするべく振り被ったところで、またしても雲から黒い煙が立ちニニギさんたちが蘇り、こちらへ飛び掛かってきた。
構えを解き風神円舞に変えて防ぐも、イエミアには再度距離を取られてしまう。彼女は余裕をもってこちらの勝利条件を述べたがその理由がわかる。
何しろ何度倒しても直ぐに復活させることが出来るのだから、永遠に自分のところまでこれないと踏んでいるのだろう。
ここはイエミアの魔力をすべて注ぎ込み完成させた神の領域であり、彼女たちはもとよりこちらも体力や気を消耗してもすぐ回復出来た。
つまり何かが起きなければ、永遠にニニギさんたちと戦い続けるしかないということだ。
「やっと理解したようだな。たしかに知能は低下したが能力はアレを消す前に上げさせたので、お前と言えど余裕で倒し続けることは出来ない。ずっと遊んでいられる。ということはどういうことか分かるだろう? そう、お前は一生この私には勝てない!」
一気に言い終えると彼女はヒステリックに笑い始める。あまりにも笑い声が凄まじく、精神的にきついのでなんとかやめさせられないか、と考え兵士を捌きつつ言葉を反芻し考えた。
少ししてずっと戦うならイエミアも出れないという点に気付き、そこを指摘してみるとやっと笑うのを止める。
「構わんよ。この星がすべて塗り替えられれば、私が直接手を下さなくともノガミの一掃は成る。ここからその様子をじっくり見られるなんて、とんでもない贅沢だろう? お前にもちゃんと見せてやるから心配するな!」
まさに我が世の春が来たとばかりに声を上げて笑う。これまで他人の笑い声で不快になることはあまりなかったので、また異世界に来て貴重な体験をしてしまったなと思いつつ、兵士の一人を彼女に向けて蹴り飛ばす。
「存分に楽しもうではないか、この無間地獄を!」
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