イエミアに辿り着く時
「ニニギの名において命ず、四隊に分かれ敵を囲み倒れた者を処理し戦え! 休む時間を与えるな!」
「大勢で囲むなんてずるいわ!」
「私の能力はそれしかないのでな」
戦いながらニニギさんを改めて見たところ、最初見た頃よりも気が減っている。これまでのニニギさんたちの行動や言葉からして、騙すことは無いと考えれば力を分け与える能力しか所持していない、というのは嘘ではないだろう。
ならば彼の軍を倒さなければならないここが正念場だ。素早く敵を斬り殴り弾きを繰り返している時、風神拳で前を開けようとしたが上から飛び掛かられ、それを剣で弾き飛ばしたが次が来てしまい、苦し紛れに地面へ向けて放った。
雲に穴は開かなかったものの、風は辺りに爆風のように広がり相手を吹き飛ばすことに成功する。
「これは風神円舞と名付けましょう!」
運が良いなと思っていると胸元のシシリーがそう言ったので、ならそれにしようと答えながら姿勢を正した。
最終戦で新たな技を習得出来たと喜び、ひょっとしたら他にも何か生まれるのではないかと考え、風神拳を打つ時に両拳を連続して出してみる。
「おおー! これはダブル風神拳ね!」
「そのままじゃん」
ついシシリーのネーミングに対し突っ込んでしまったが、放たれた風は左右で向きが変わっており、一撃目を堪えていた相手の足を二撃目で剥がし吹き飛ばした。
以前にも似たような技を出したかもしれないなと思いながら、次は三鈷剣へ焔を通さずに風神拳を出してみる。
「風刃神拳にしましょう!」
渦を巻いて相手に襲い掛かるのはそのままに、剣によるかまいたちが発動し相手に切り傷を与えつつ、遠くへ吹き飛ばした。
思えば相手が悪に属さない多数戦というのは初めてかもしれない。初めて陥った状況でも新たな技を出しながら対処出来ているのは、師匠や皆が鍛え助けてくれたお陰だ。
何かの本で書いてあったが成長するのに年齢は関係ない、というのは本当だったんだなと実感する。異世界に来て右往左往しながらも生き延び、皆と出会い絆を結んだからこそだなと思った。
元の世界でも大切さに気付き前向きに生きられれば、もっと違った未来があっただろう。
「お婆様、増援を」
「ジン! 今よ!」
新技も使い敵を捌いていると数が減り、ニニギさんがイエミアに増援を頼んだ瞬間、シシリーから声が上がる。相手の兵がこちらに集中するあまり、前に立ち塞がる人数が減りニニギさんがしっかりと視認出来た。
今ならニニギさんだけでなくイエミアまで届くかもしれない、そう考え破邪顕正モードならではの技を出す。
「砕破拳!」
剣を放り投げ右手を叫びながら突き出すと、拳が眩い光を放った後でニニギさんへ向けて白い炎が走る。
止めようと立ち塞がる兵士たちを吹き飛ばし、あっという間にニニギさんに至り腕を交差した彼を直撃した。
「ここは我が!」
控えていたアメノダヂカラオさんがニニギさんを突き飛ばし、代わりに白い炎を受け止め食い止めたものの、炎が消えるのと引き換えに体は粒子に変わっていく。
「ではな! 今度は真っ向勝負、一対一でやりたい!」
生前も今回も役目をしっかり果たせたのか、笑顔でそう叫んでから退場する。イエミアに召喚される形でなければ、違う交流をしていただろうと思い戦いながら見送った。
粒子が空へと完全に吸い込まれたと同時に、彼と握手をした手が一瞬だけ光る。なにかが起こるのかと手を見たものの、直ぐに敵が襲い掛かって来て戦いを再開した。
「お婆様増援を!」
「……チッ」
舌打ちしながらイエミアは指を鳴らすとニニギさんは光り、気は最初の頃の量に戻ると同時に兵士を繰り出してくる。
増援に次ぐ増援で精神的に疲労が蓄積されるも、前を見ると確実に距離は縮まり始めており気合を入れ直す。
新技を繰り出しながら敵を剣で拳で殴り飛ばし、ゆっくり少しずつニニギさんとの距離を縮めていった。
「お婆様!」
「何をやっている!? お前の全てを兵に与えよ!」
遂にあと百メートルくらいの距離まで来たところで、ニニギさんはイエミアにさらなる増援を求めたものの、叱責され体が透け始める。
「ジン・サガラ、よくやった。お婆様の癇癪が無ければ私も直接戦いたかったのだがな……」
ニニギさんはゆっくりとこちらに歩いて来てそう言い、右手を差し出して来た。本当に残念ですと言葉をかけながらその手を握る。
「私が蒔いた種の未来が見れて満足だ。出来ればこのような形ではなく」
「あぶない!」
いつの間にか巨大な光の渦がこちらへ向かって放たれており、直撃かと覚悟を決めたところでニニギさんの後ろに影が現れた。
「ジン、最後まで閉まらないが後は頼んだ。あのババアは母上の紛い者。俺たちを召還したのもアイツが俺たちを利用するため」
「黙れ!」
光の渦を身を挺して防いでくれたオモイカネは、消えかけながらもなにか伝えようとし、それを妨害するためかまた光の渦が飛んでくる。
「オモイカネ心配するな、ジンなら大丈夫だ。私たちの力も渡したことだし」
「そうっすね大将。猿田彦の策のお陰か」
「黙って消えろ」
オモイカネさんとニニギさんが最後の力を振り絞り、光の渦を身を挺して止めてくれたが、突然現れたイエミアが手にした剣で斬られてしまい、消されてしまった。
「まったくお喋りな男は始末に負えないな。消えるなら黙って消えればいいものを」
なにかを言う前に拳はイエミア目掛けて出ていたが、娘の顔だと思ってしまい手が止まる。
「殴れまい? お前の娘だからな。それも計算の内だ。そしてうるさい連中が消えるのも私の計算の内なのだよ……ここからが本番だジン・サガラ! 反魂傀儡!」
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