ニニギ戦
「随分と楽しそうだけど、まだこのお遊戯会を続けるのかしら?」
最初の戦死者が出たことで場は静まり返っていたが、イエミアはアマノイワトワケさんに言及せず、つまらなそうに吐き捨てる。
「お婆様の御望みは?」
「私をお婆様なんて呼ぶんじゃない」
ニニギは後ろのイエミアを見て指示を仰ぐも、呼び方が気に入らないらしく叱られた。こちらに向き直り軽く息を吐き小さく笑う。
「命令を下すまでもない。時間稼ぎは良いが本気でやれ。目障りなその男は生かしておいても得は無い」
「ならば最初から……いえ、今からそうしましょう」
彼らに対しイエミアが出した指令は、時間稼ぎがメインで後は任せるとでも言ったのだろう。相変わらずパワハラ上司だなぁと呆れる反面、イエミアは彼らが何とかしなくとも自分の力でこちらを倒せる、その自信があるからこそ雑に扱っているはずだ。
呼び出されたニニギさんたちも、彼女の姿勢に疑問を感じたからこその態度だと分かる。元となった天照大神の関係者であれば、あんな天照は認められないだろうし、恐らく召喚されなにかしらの縛りがあるから従っている気がした。
「待たせてすまないジン・サガラ。私に従う最強の三人を倒した君に敬意を表し、改めて名乗らせてもらおう。私の名前は瓊瓊杵尊。後ろの人物の歴史上の孫にあたる。父の命により地上に降り国を治めた。これ以上功績を誇るようなことはしたくないので、神であったとだけ覚えておいてくれればいい」
心底納得いかなくともやらなければならいので、自分の気持ちを押し殺そうとしてか、腕を組み笑顔で一気に言い切る。大きく息を吸い履いてから全軍戦闘用意と告げ、後ろの人たちは一斉に得物を手に取り構えた。
「互いに悔いなくやろう。こちらは君を、君はこちらを全て倒せば終わりだ。私は最後で待っている……全軍突撃!」
腰から剣を抜きこちらに切っ先を向けながら、突撃の指示を出すと一斉に敵が走り出す。囲まれれば一気に形勢は不利になるので、先ずは風神拳を放つも相手はそれを読んでいたのか上手く散開し、被害を最小限に止める。
連発しようかと思ったが一撃目を読まれており、次完全に避けられてしまうより確実に数を減らした方が良いと考え
「竜牙拳!」
三鈷剣を空へ投げ素早く構えて竜牙拳を放った。距離があり真っ直ぐ進んだため余裕で避けられてしまう。
「風神拳!」
間隔を開けずに風神拳を再度放つも着弾を見届ける前に剣を取り、風神拳の範囲外の相手が突っ込んで来たので攻撃を捌く。
イエミアが余裕をもって見ていられるだけあって、一人ひとりが一騎当千の戦士であり、息吐く暇もなく攻撃を捌いているが追いつかなくなり始める。
「ジン! 頑張れ!」
シシリーの応援する声に奮起したが数の多さだけでなく、ニニギさんが指示を出し必要最低限で囲み、倒されると即カバーしてくるのが本当にきつかった。
何度目かの攻防を繰り返していた時、シシリーの後ろと言う声と相手の気配で気付いたが遅く、気を高め防御壁を張る。
「足を止めちゃ駄目よジン!」
受けられはしたが衝撃が凄くて足をほんの一瞬止めてしまった。余裕のある相手なら見逃しただろうが、指示の出し方からして歴戦の勇士であるニニギさんは見逃さず、あっという間に十人程の相手から攻撃を受ける。
押す力も凄まじく、気による防御壁で防げてはいるがそう長くはもたない。
「ジン・サガラ、それでおしまいか? お前の倒したい相手は余裕で欠伸をしている。出し惜しみをしている場合ではないと思うがな」
囲んでいる者たちのさらに後ろからニニギさんの声が飛び込んできた。出し惜しみと言われ考えてみれば、自分は未だ顕現不動モードの状態であったのを思い出す。
不動明王様からの追加の加護があり、すべてが底上げされていたのでそのまま来れたが、まだこちらには切り札が二枚ある。
「確かにニニギさんの言う通りだ……失礼しました!」
丹田に気を溜め偽・火焔光背から焔が身に宿り、全身を覆うと焔は深紅の鎧に変化した。
破邪顕正モードになったことで衝撃波が発生し、周りにいた者たちを吹き飛ばす。
「その力、試させてもらおうか……全軍我が神力を分け与える、あの者を倒せ!」
吹き飛ばした者たちは消えたが一息吐く暇もなく、他の者たちが体を黄金色に光らせながら向かって来る。
先ほどまでの相手も十分に強かったのに、次に来た者たちはそれに輪を掛けて強くなっていた。顕現不動モードであれば間違いなくやられていた、それくらい強化されている。
ニニギさんは戦士としても強いだろうけど、あの人は戦士である前に指揮官としても優れており、味方を強化する力を持っているようだ。
日本人の源流ともなった人なら味方が鼓舞されないはずは無いか、と思いつつこちらも負けてなるものかと退けていく。
「お婆様、戦力の補充をお願い致します」
イエミアに増援を依頼し承認されたらしく、ニニギさんの後ろから革の前掛けのようなものを着た者たちが、大量に現れこちらに押し寄せてきた。
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