天孫三番勝負
「よろしくお願いします」
「フン!」
こちらが一礼した瞬間、なにかを投げつけて来たので素早く横へ飛び回避した。前の人を見れば鐘が無くなり腕になっていたので、恐らく鐘を投げたのだろう。
「オモイカネ……自分の得物を投げてどうする」
「得物も何も俺は軍師だから本来前に出て戦うことはしない。出ろと言われたから出たのだ、文句があるのか?」
後ろにいたニニギはさらに後ろのイエミアを見るも、総大将である彼女はどこかから出した椅子に座り、つまらなそうに肘掛けに頬杖をつきながら見てる。
しばらくしてニニギはこちらに視線を戻し、下がるよう命じるとオモイカネと呼ばれた人は、頷いた後でこちらを見て近付いてきた。
「お前には不動明王が付いているようだから、本気でやったところで時間の無駄だ。後ろも認めてくれたので下がるが、勝利者へ褒美を渡したいから見えないように手を出せ」
よくわからないが悪い人ではなさそうなので、左腕を曲げて脇を締め相手の腹の方へ向け手を出す。こちらを見て頷き手を一瞬重ねると小さく光る。なにか説明があると思いきや、何も言わずに手を離して踵を返し去って行く。
「ウォオオオオ! 次は俺だぁ!」
ニニギの後ろにオモイカネが下がりきらないうちに、後ろから叫びながら次の人が飛び出て来た。肩まである白髪に口髭顎髭を生やし、特徴的な鷲鼻と大きな目をした男は白い道着を脱ぎ捨て、筋骨隆々の筋肉を見せるとポージングを始める。
よくわからないがこちらが気にせず挨拶をし終えると止め、下袴のポケットから粉を取り出すとこちらへ向けて放り投げてきた。かかりそうになったので避けると鼻で笑われる。
「ヨイショオー!」
何を投げたのか聞こうとするも、相手は中腰になると右足を高く上げた後で、思い切り雲を踏み鳴らした。
左足も踏み鳴らすと両手を広げ二回叩き、腰を上げて姿勢を正すと一礼してくる。どうしたものかと思ったが、こちらも同じようにして返し改めて一礼したところ、ニンマリとし
「中々の剛力! 我が名はアメノダヂカラオ! いざ尋常に力比べをせん!」
じりじりと踵を動かしつつ前屈みになり両拳を雲に付けた。どうやら相手は相撲で勝負したいらしいと察し、こちらも同じように構える。
「はっけよい……残った!」
叫び終えると同時に突進してくるアメノタヂカラオに対し、逃げてはいけないと感じて気を増幅させ真っ向から受け止めた。
鈍い音がし意識も飛びかけたがなんとか堪え、押し返すべく力を入れる。相手も負けじと押し返してきて、そこからしばらく膠着状態が続く。
隙あらば互いに吹き飛ばすか投げようとしたものの、まったく隙が無い。イエミアの話を聞いた限りではこの人も神の一人だろう。
互いに体力も尽きないので小さな隙が出来るまでこのままだが、焦れば一瞬で殺されるので慎重に行かなければならなかった。
「ワシの負けだ! ガハハハハ!」
長期戦を覚悟していたものの、突然気を弱めて後ろに下がり負けを宣言してくる。豪快に笑いながらこちらの手を取り握手をし、先ほどと同じように手が一瞬光るのを見てから、アメノタヂカラオも下がって行く。
「次、アマノイワトワケ」
「はぁ……」
ニニギの後ろからそう言われて出て来たのは、髪がライオンのたてがみのようにぼわっとしており、口髭顎髭は無くさっぱり系の若者だった。かったるそうな顔をしつつ、後頭部を右手で書きながら近付いて来る。
先の二人とは違い鎧を身に着けていたが、材質が岩にしか見えなくて驚く。見た感じ会話出来そうもないので先に挨拶をしようとしたところ、相手から先に名乗り挨拶をして来た。
急いで挨拶し返すと日本人ですかと聞かれたので、そうですと答えご先祖様ですかと返すと、広い意味ではそうですが血の繋がりは無いですと答える。
「さて、先の二人と違い私は守るのが主な任務なので戦う理由はあります。ですが困ったことに貴方と同じように、悪しき者に対して特化した能力なので困っています」
「お、お互い困りますね」
「ですよね。まぁあなたの得物は剣のようなので、そちらでお互いの技術を見せ合う形でやりましょう」
「よろしくお願いします!」
奇妙な形になったが互いに引く訳にはいかないので、勝負の方法を決め構えた。少しずつ近付き切っ先が触れると同時に剣戟を交わす。
悪しき者に特化した能力と言うのが気になるが、それを出していないのに力強く鋭い剣技が迫り、一瞬肝が冷える。
アーテを救うためにも一歩も引けないと気を吐き、手数を増やして対抗した。
「良い太刀筋ですね。我流ですか?」
「いえ、師が何人かおります」
「勤勉ですね」
会話しつつも斬撃による風が互いの間に吹き荒れ、少しずつ小さな傷を負っていく。なんだか楽しくなってきてしまい、すべての力を出し切ろうと気を高めるとそれに呼応してくれる。
全力でもまったく勝てる気がしないが楽しく、相手も同じか笑みが零れていたが突然鍔迫り合いに持ち込まれ、次の一撃で勝負を付けようと言われた。
互いに同じくらいの力で剣を押し合い距離を取り、一撃に力を込め飛び掛かる。
「お見事」
「いえ……あなたが全力を出してないから勝てたんですよ」
相手の上段斬りに対しこちらは胴斬りで、一瞬早くこちらが通り過ぎた。アマノイワトワケさんは間違いなくもっと強い人だ。
ニニギたちもそうだが明らかに時間を稼ぐとかではなく、勝ちを譲りたいように感じる。
「では私はこれにて失礼させて頂きますよ。現世の隙間に無理やり来させられたが、残して来た者の欠片が見れて満足です。ジン、君の武運を祈っています」
「ありがとうございました!」
剣を腰に差しながら振り向き一礼すると、笑顔で手を振り消えて行った。
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