日ノ本源流の王
「とはいえ、な」
凄いは凄いがもはや誰が立ち塞がったとしても、必ずアーテを救うと決めたのだから揺らぐことはなかった。不動明王様による追加の加護に加え、仮の体ではあるがこの世界の神であるクロウと対戦し、二度勝った経験があるからか圧にも余裕で耐えられている。
抱えているアリーザさんはイエミアを見れてはいるものの、圧倒的な力を感じているのか体が震えていた。竜殺しとミカボシさんの加護があっても、やはり経験したことのない恐怖は克服し辛いだろうし、倒すべき敵の姿が自分の娘をしているのだから、自らを奮い立たせるのも難しい。
戦うことしか出来ない上に名ばかりの父親ではあるが、任せて下さいと微笑みながら話しゆっくりと着地する。
必ず連れて来るから生き抜いて欲しいと伝えてから彼女を下ろし、圧倒的な気を放ち立ち塞がる者たちの前へ、ゆっくりと歩きながら移動した。
勝利条件に余裕があるからか、行く手を阻む人たちはリラックスしており、殺気もまるで感じない。イエミアみたいに分かりやすい悪であってくれたら、こちらも遠慮無しに切れるのだがやり辛い相手だ。
「初めまして伝説の勇者の皆さん。俺の名はジン・サガラと申します。お互い悔いないよう戦いましょう」
彼らの目の前に行くと足を止め、剣を腰に差し名乗りながら頭を下げる。お互い憎しみなどの負の感情がないのに戦わなければならないので、せめて挨拶だけでもしっかりしておこうと思ってのことだった。
イエミアに呼び出されたからには元の意志も無いだろうし、相手からの返答は期待していない。少し間を置いてから頭を上げるたところ、既に数名斬りかかって来ており、こちらも素早く三鈷剣を引き抜き構える。
向こうからすれば戦場で何してんだって感じなんだろうな、そう思いながら先ず一人目の剣腹を
剣で押し、軌道を変え逸れた後に空いている手で肩を突き飛ばす。
次いで来た槍持ちに関しては避けて柄を掴み、そのまま手を滑らせ根元まで距離を詰め鳩尾に掌底を入れ、吹き飛ばして距離を取らせることに成功する。
得物は今のところ剣と槍のみだったので、同じように対処して先ずは第一陣を退けたけど、どうも感触が変だ。例えるなら技を掛ける稽古をしているような感覚であり、はっきり言えば手を抜いているように感じた。
「斬らないなんてお優しいこと」
違和感を感じ足を止めたこちらを見てイエミアは挑発して来る。反応しないと勘繰られるなと思い、睨んだところとても喜んでもらえた。彼らを倒してここまで来て見ると良いと言われたが、言われなくともそうすると言いたいのを堪え、そこを動くなと叫びつつ突進する。
投げたり突き飛ばして距離を開けさせた者たちが、こちらを追って来てどうするのかが気になった。手を抜いている理由があるとすれば、こちらの実力を先ずは把握するためだろうなと思ったし、そうであれば背後から襲っては来ない。
「風神拳!」
相手の出方が分からないので前方へ通常の風神拳を放ってみる。新たに加護を貰った御蔭で通常の風神拳も威力が上がっており、強烈な風が相手に襲い掛かった。
「ヤッ!」
前方の者たちが腕を交差させて踏ん張っている間に、後ろから追って来ていた人たちが声を上げ、攻撃を仕掛けてくる。風神拳の構えを解き素早く対処したが、やはり手加減している気がしてならない。
今回は風神拳を堪えていた人たちも参加して来たものの、それでも同じように対処出来た。身のこなし力の強さどれをとっても本気とは思えず、困惑しながらもこちらもそれに合わせるようにしていく。
なんとか隙を見つけて前進してみたところ、その時は鍔迫り合いに持ち込まれ押し戻される。彼らの中でもここから先は通さない、そういう線引きがあるらしい。
狙いがあるとすれば、こちらを殺したくないから時間を稼ぎたいと言ったところだろうか。こちらとしてはアーテの為にもそれには付き合えないので、強引に突破を図るもまるで指揮されたように人による壁を作られ、行く手を阻まれた。
「よぅしそろそろ準備運動は終わったな」
しばらく突破を図っては阻まれ戦いという流れを繰り返したところで、奥の方から野太く通る声が聞こえてくる。
声の方角を見ると全員が道を開けた。召喚した人々の中でも一際がっしりとした体格をし、強烈な気を放っている口髭をたっぷりと蓄えていた人物がいた。
皆控えよ告げるとこちらを囲んでいた者たちは一斉に散開し、その人物の後ろに終結し整列した。
「名乗る必要は感じないが一応名乗っておく、俺の名はニニギだ。簡単に説明するが小型天照男版ってところだ。あとは実戦で感じてもらうしかないが、頑張って俺たちを倒してみせてくれ」
イエミアが言った場合は倒されない余裕からくるものだとわかるが、ニニギという人が発した言葉は違う気がした。
これまで無言で皆の中からジッと様子を見て出て来たのだから、なにか思うところがあるのだろう。
「先ずは俺から行かせてもらう」
お寺にある鐘を半分に割り左右の腕に付けたように見える、剃髪しねじり鉢巻きをした上半身裸の男が、控える者たちのさらに後ろから出てくる。
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