シンラの根源と彼らの絶望
翌朝、サガとカノンを送り出してからベアトリスに教会に行く旨と、町長から呼び出しを受けているので帰ってくるまで待っていて欲しいと告げる。ベアトリスは分かったと言って頷いてくれたが、お見通しだろうな。それでも分かったと言って微笑んでくれたのを信じ、俺を信頼してくれていると信じて今は戦場へ向かう。
この件を片付けて冒険者としてのんびりやっていく為にもうひと踏ん張りだ! 必ず解決して見せると意気込んで歩く。家の前にはいつもの門兵さん二人だけだったが、中に入ると庭に数十人の兵士の人たちと共に、町長やティーオ司祭たちも居た。
「遅れてしまい申し訳ありません!」
「いや良い。お前が例の二人とベアトリスを面倒見ているのは皆知っている。では早速村へ向かうが、屋敷の裏手から出て私と兵士たちは南門へ、ジンや司祭それにシスターたちは東門から行ってくれ。ある程度読まれてはいると思うが念の為な」
町長の指示に従い別れて村へと向かうべく移動を開始した。町長も只者では無いとは思うが大丈夫なのだろうか。何しろ相手は魔法を使うはぐれ者集団。その上数も得意な戦い方もこちらは把握していない。援軍や新たなシンラくらい強い人物が出てきたらと気を揉んでしまう。
「何か心配しているようですが」
「え、ああはい。町長は大丈夫かなと思いまして。相手が魔法を使わなければ問題無いでしょうけど」
それを聞いてティーオ司祭とシスターは目を丸くして顔を見合った後笑った。どうやら見当違いの心配をしてしまったようで恥ずかしくなり、視線を空へ向け頬を人差し指で擦る。
「いや申し訳ない。そんな心配をしてくれる人が御嬢様以外にこの世界に居たのかと思って」
「まぁジンは異世界から来たんだからしょうがないわよ」
移動しながら二人は町長の話をしてくれた。シゲン・タチ町長は元はシゲン・バグラと言う山賊で、ここから少し離れた国では知らない者が居ないと言う人物だったそうだ。十代にも拘らず国も手に負えず、困り果てて竜神教に頼った結果、ゲンシ・ノガミ師匠が来て死闘を演じたと言う。
この間の一週間近い鍛錬で、師匠の強さにほんの少し触れただけでも凄くて太刀打ち出来る気がしなかった。その人と死闘を演じたなんて町長は相当凄いんだなと納得する。その死闘の後で名前が似ているのもあり二人は意気投合。元々シゲン・バグラも部下の安定した生活を考え山を下りようと思っていたらしい。
そこからシゲン一味として町で仕事を始め、部下が堅気になるのを見届けてから解散。シゲン・バグラは一人、斧を背負い冒険者となって世界中を旅した。自らの命を顧みない度胸と剛腕で強敵をねじ伏せ続け、遂にはゴールドランク一に到達。
シゲン・バグラの名が轟いたのと同じ時期に暗闇の夜明けも活動を始め、ギルドからの依頼で何度も交戦したと言う。
「なのであの人は我々より魔法戦の経験が多いです。とは言え力押しが主ですが」
「いやぁ凄いんだろうなと漠然と思ってましたがまさかそんなに凄いとは。ですがそんな凄い人でもプラチナになれないなんて、プラチナの称号を持った人ってどんな人なんでしょう」
気になって聞いてみると二人は視線を逸らした。このリアクションは一体何なんだろうか。交互に見ても二人とも全然目を合わせてくれない。まさか二人ともプラチナの称号を!?
「まぁこの世界はまだ過渡期なので、色々ちゃんとしてないところもあるんですよ」
「時代が進めばもっと凄い人間も出てくるだろうから気にしない方が良い」
「凄いなぁ二人ともプラチナランクとは!」
素直に凄いと思ってそう言ったんだけどリアクションが無い。暫く目をキラキラさせて見ていると二人は説明してくれた。二人は竜の血を引いているだけでなく、この星を救い大陸一つを統一した異世界人ヤスヒサ・ノガミの血を引いているのも関係していると言う。更には魔法も数多く習得している為、評価をしないという意味での称号だとも付け加えた。
「魔法を皆が使う様になれば私たちの評価も変わるでしょうが、その為に世界を危険な方向へ進ませる訳にはいかない」
「大きな力にはそれ相応の代償が付いて来るもの。シンラも分かっていると思ったんだけど」
「お二人はシンラを御存知なんですね」
竜神教内で血族を除く一般から這い上がって来てトップまで来た神童、それがシンラだと言う。時代と星が生んだ英雄……になれるはずだった男は、魔法の門戸を一般にも広く開放すべきだと唱え強硬に押し通そうとしたものの、この大陸の竜神教大支部の隣の国で魔法による暴発事故を起こし吹き飛ばしてしまったと言う。
シンラが孤児の一人に魔法を教え、その子がまた才に恵まれたが性格に難があったようで魔法を悪戯に使った結果らしい。その子は結局シンラによって殺害され、シンラは出奔。今も世界的に指名手配されているようだ。
「あの過ちを何度も犯させる訳にはいきません。我々ですら魔法を使うには慎重にならざるを得ないのに、何の修練も修めない一般人に渡すのは動物に松明を渡して森に放つのと同じです。それを彼も分かっている筈なのに未だに自説を曲げません」
「魔法があれば皆今以上に幸せになれる……そううそぶいていたけどその結果が国一つ消滅。その現実を受け入れられないんだろうね」
前に杖のジロウが言っていた”秩序に護られた魔法を破壊し開放して布教する”と言う考えを無理に押し通しているのは、ひょっとするとその件があったからなのかもしれない。聞いた時に強引過ぎて引っ掛かるものがあったので強く指摘したが、頑なに拒みお前には分からないと言われた。
彼らが必要だと信じ強引にでも布教すれば変わると思っていたものが、違うと分かってしまった時の絶望は確かに俺には分からない。そう考えると彼らも救われたいのではないかと思ってしまう。何か違う手があるのではないかと必死に藻掻いているような気がする。
そう考えると、シンラは不死鳥騎士団を殲滅し強烈なカリスマを得たのでそれを元に結集し、国を作ってそこで自らの理念を実行する為にお金を集めてるんじゃないだろうか。とは言えこんなやり方をしていたら、国が出来そうになった瞬間にあちこちから攻撃されそうな気がするけどなぁ。
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