水の怪物と穴から飛び出てくる者
避けながら水が当たった場所の雲を見ると貫通しており、すぐに破壊出来なかったこちらの焔より威力が上に見える。
不動明王様の焔なので通常の炎とは違うが、イエミアが対策したいと考えた時に名乗り出たからには、対抗出来るもしくは上回れる自信があったのだろう。
受けて立ちたいところだけど水と火では相性が悪い。イエミアの部下なら余裕で撃退できてはいるものの、活路が見出せていない現状では、迂闊な行動は避けなければならなかった。
「あまりやり過ぎるのも考えものかしらね。手加減しようか?」
攻撃をしつつ部下を生み出し指揮しながらこちらに憐みの目を向け、そう提案して来る。まだ余裕があるから問題無いと返すと、じゃあ少しは頑張ろうかしらとつまらなそうに答え、八つの口から放たれる水の強さが上がった。
向こうからすればこちらを倒せれば良いが、倒せなくともアーテの再洗脳と星全体の洗脳がすめば勝ちである。余裕があるからこそこちらを玩ぶような提案をして来た。
彼女の性格からして、アーテを取り返されない自信があるからこその行動だろう。こちらとしてはそれを崩すための打開策を見つけたいところだ。
「ちょこまかと鬱陶しいな……ほう、それは良い技だ」
水を避けつつ部下を倒しているこちらを見ながらイエミアは呟く。なにか新しい技を放ってくるのだろうと考え、即反応できるよう心構えをしつつ動き回る。
「これで死のうが死ぬまいがどちらでも構わないけど、出来れば死んでほしいわね。肥河鳥髪土砂下り!」
すべての口から水が止まり技が来ると予想し、偽・火焔光背に気を通し浮遊した。動き回れば回避出来るだろうと考えていたものの、言葉の後に八つの口から大量の水が放水され波のようになり、イエミアの部下たちと共にあっという間に飲み込まれる。
水から飛び出そうとするも、顔を出すのを待っていたかのように波が襲い掛かり、脱出することが出来なかった。どこか逃げ道は無いか探して流される前に居た場所を見たところ、水を放った際に空いた穴へ部下たちは水と共に吸い込まれている。
あの穴に入ればどこかへ出れるのかもしれないが、出たところで助かるか不明だしこの世界に戻って来れるかも不明だ。
「さぁ今度は水中戦と行きましょうか!」
巨体を揺らし綺麗に泳いでくる八岐大蛇を見て、怪獣映画の世界に入り込んだのかと錯覚しそうになった。幸い偽・火焔光背は消えておらず、なんとか突撃は避けられたものの、水中なので減速している気がする。
「いつまで避けきれるかしら!?」
楽しそうに笑みを浮かべながらイエミアは突撃を繰り返す。体力は消耗しても回復するから問題ないが、減速状態で避けるタイミングを見誤れば直撃してしまう。
あの巨体の突進を喰らって無事で済んだとしても、こちらが怯んだ隙に噛みつき攻撃をされた場合、避けられないと思った。
彼女の部下が吸い込まれた穴を見て、あれをもっと作れば水が減るのではないかと考え、三鈷剣に気を通し雲に突き刺してみる。
「無駄な足搔きを!」
雲が剣へ渦を巻くように集まりだし、やがて焔によって掻き消され穴が生まれた。出来れば大きな穴を作りたかったものの、突撃に邪魔され一旦剣を引き抜き距離を取る。
泳ぎながら突撃を避けては穴を作りを繰り返していくと、徐々に水位が下がっていく。かなり大量の水を出したとはいえ、直ぐにこちらを攻撃しに来た感じからして、この世界は案外狭くなっているのではないかと思った。
アーテが気を失ったことが関係しているのかなと考えつつ、次の波に対応出来るよう穴を作り続ける。
「チッ……くだらない真似をする。穴を作ったところで塞いでしまえば良いことだ!」
「っはぁ! なんなんだいきなり水流しやがって! 危うく溺れるところだったじゃねぇか!」
完全に穴の中に水が流れて消え、再度イエミアと雲の上で対峙した。穴を塞ぐと言って右足を上げた瞬間、その真下から何かが飛び出し腹部を直撃する。
かなり勢いがあったようで目を見開き口を開けて止まり、少し間があってからゆっくり横へ倒れた。いったい何が起こったのかと思い周囲を見回しているこちらへ、イエミアの近くから何かが歩いて来る。
「よう、面白いことやってるな」
「デタラメすぎる……ジン・サガラ、この男は何なんですか!?」
「ジン殿!」
穴を避けつつゆっくりとこちらへ来たのは、テオドールとアリーザさんそれにライドウだった。現実とは思えず目を擦ったり頬をつねってみたが、夢ではないらしい。
どうやってここに来たのかと問うも、飛んで来たというライドウの一言を聞きさらに驚いている。神の領域を飛んでこれるのか、呆れながら聞き返すとライドウはテオドールを見た。
「ジンも聞いたでしょうが、ここはイエミアの魔法やアーテ様の神力によって作られた空間であり、別次元ではないのです。別次元からこの星の皆を洗脳できませんからね」
テオドール自体は計画をある程度聞いていたらしく、空間の作り方も軽く聞いていたらしい。テオドールは異世界人というだけでなく、アーテを面倒見てきた関係から脳による強制停止を回避する。
さらにライドウは竜人族という希少種であったことや、アーテが完全体ではないことから強制停止を免れ、異変に気付き星を飛び回りテオドールを見つけたようだ。
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