第三形態へ
アーテと切り離し弱体化させ討伐を目指していたが、彼女を取り込む前に戻るどころか状況が悪化してしまった。体内に入れていた時は視覚的に追えずこちらが有利だったものの、今は外に露出しており接触を図ろうとすれば攻撃を受けてしまう。
体に埋め込まれている点からして、攻撃を当てればアーテにもダメージが行ってしまう恐れがある。どうしたらアーテを救いイエミアを倒せるのか、その方法が見つけられずただ見上げるしかなかった。
「そらそらそら! 今度こそお前の最後の時だ!」
イエミアは部下たちをさらに呼び出し、嬉々として襲い掛かってくる。話している間に体力は十分に回復しただけでなく、部下たちも先ほどのより動きが洗礼されていた。
さらに周囲を見渡すと世界に撒いた焔はなぜか少しずつ減少し始め、このままではそう時間が掛からないうちに消えてしまうだろう。
世界を壊すことは出来ないという言葉通りになっており、悔しさに攻撃する手にも余計な力が入る。
「良いのかのんびりして! アマテラスの再洗脳が完了するだけでなく、このままでは星も洗脳が完了するぞ!」
軌道修正が完了したことで優位を確信し、楽しそうにこちらの痛いところを突いてきた。アーテだけでなくこのままでは星の皆も洗脳されてしまう。
なにか良い案は無いのかとイエミアの部下たちを倒しながら考える。先ずは消えかけている焔を消さないよう、敵を退けながら撒くことから始めようと思い再開した。
最初は順調だったものの、イエミアが目を閉じ手で印のような者を組んだ後で、アーテを捕える水の玉から小さな水の玉が現れ焔にぶつかっていく。
掻き消されはしなかったが、アーテと同じように焔も閉じ込められてしまう。
「消せないのは分かった。ならば閉じ込めてしまえば良いだけだ!」
嬉しそうに叫ぶイエミアに対しなぜ今まで出さなかったと聞くも、こちらにも都合があると答える。都合とはなんだと思った時、そう言えば先ほどまでは炎に関する術や敵が多かったのが、水の玉の出現後に出てきた部下も変化し始めていた。
言い方からしてイエミアの都合ではないのだろうが、そうなると残りはアーテしかいない。視線を向けるとこちらに向かい壁を叩くような動きを見せ、泣きながら叫んでいるが声も音も遮断されている。
娘が泣いている姿を見て焦ってしまい、いつもなら避けられるはずのイエミアの拳が直撃してしまう。不動明王様の加護のお陰でこちらもこの世界で有利に戦えるが、有利さはイエミアには及ばない。
直撃を受けさらに部下たちの攻撃を受け続ければ、回復も追いつかず先に倒れてしまう。焔に気を送り今がチャンスと襲い掛かってきた部下を消し飛ばし、距離を取ろうとしたところで胸元のシシリーが飛び出してしまった。
駄目だ戻れと叫んだが聞かず、閉じ込められている水の玉の中へ入ろうとするも弾かれる。
「糞虫、お前がアマテラスと仲良くなったことは失敗かと思ったけど、私にとって益となったことは感謝するわ。だから殺さないであげる」
もう一度と勢いを付けて突っ込んだシシリーだったが跳ね返され、再度挑戦しようとしたところでイエミアの手に掴まってしまう。
急いで落下位置を予測し走り出し、なんとか雲に激突する前に滑り込みキャッチする。抱えるようにして三回前転し立ち上がり次の攻撃を防ごうとしたところ、アーテの居る場所から強い光が放たれていた。
「ふふふ……良い子よアマテラスちゃん。あなたの力、貰い受けて私も変わるわ」
光はやがて全体を覆うほど広がり出し目を守るために腕で光を遮る。何が起こっているのか分からず困惑する中、イエミアの嬉しそうな声が聞こえてきた。
内容から察するに、先ほどの部下たちのように変化するための光のようだ。咄嗟の反応が出来るように身構えていると、光は少しずつ弱まってくる。
「なんだそりゃ……」
元通りの明るさとなったところでイエミアがいた場所を見ると、巨大な青い八つ首の竜が目を閉じ鎮座している。首の付け根の辺りにはアーテが相変わらず捕らえられており、水の玉も健在だ。
「お待たせしたわね。これが第三形態、八岐大蛇よ。うちの親戚には川の地鎮をしていた家もあって、繋がりがあるといえばあったのよね」
野上家として縁があったから成ったらしい。昔学校の図書館でそんな話を見たことがある気がした。八岐大蛇は当時氾濫の多かった川のことだという説がある、とイエミアも補足してくれる。
「お前の邪魔くさい焔を何とかしたいと思っていたら、コイツが話しかけて来てね。体を貸してやる代わりにここに召喚しろってさ。神様の眷属になるとこういうのもリクルートを申し込んでくるから困るわよね!」
こちらも不動明王様と交流しているから文句は言えないが、まさか八岐大蛇と戦うことになるとは思わなかった。心の中でぼやきつつアーテを見ると、先ほど放った光の影響なのか気を失っている。
「さぁ、これからアマテラスと星の洗脳が終わるまでの間、じっくり遊びましょう?」
そう言うと八つの口が開きこちらへ対して放水してきた。普通の水なら問題ないだろうが、祀られる伝説の生物が放つ水が直撃するのは不味い。
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