シシリーを支えるために堪える
ニヤリとしながらこちらを見る辺りそれに近い何かが行われていて、達成されれば勝算があるのだろう。達成された場合はアーテが再度出てくるのだろうが、そうなると攻撃できない縛りも解消されるはずだ。
こちらがイエミアを見逃すはずも無いし当の本人もそれを理解している、そうなると魂を人に移せずあの体も失う彼女は、どうやってその先を見るのか。
クロウを倒したとはいえそれは一時的なものに過ぎない。イエミアの魂が残っているとしれば、彼は必ずまたこの星に舞い戻ってくるだろう。
対策をしていないようには思えないけど、死なない秘策が想像が出来なかった。時間を稼ぐ必要があるので思い切って質問してみたいところだが、体に注意が向いて違和感に気付かれては不味い。
なんとか別の話題を出そうとしたところで、イエミアの右犬歯の隙間を通っている羂索が二度引っ張られる。
恐らく引っ張ったのはシシリーだろうが、不測の事態が起きたのかと思い少し引いたところで強く引っ張り返された。
引っ張るなという合図と共に無事だというアクションだと解釈し、なんとか顔に出ないよう心の中でほっとする。
頑張っているシシリーを支えるためにも話に集中させるべく、取り合えずクロウに対する備えを聞いてみたところ、アマテラス様の世になればすべてが問題無いで片付けられた。
当たり前だというような顔で答えてはいるものの、平静を装っているように思える。彼女はこちらよりクロウと付き合いが長い分、彼という人物を知っているはずだ。
元の世界で呪術師だったのであれば、魔法使いとしての彼の凄さを分かっていないのは不自然であり、平気であるとは思えなかった。
ここはもう一押ししようと考え、追加でクロウを倒したが確実に消滅させたとは言い難い、何度も転移しているイエミアの魂に執着していた、そう話していると終わる前に遮られる。
「お前の狙いはわかっている。この世界の破壊を試みつつ私のエネルギー切れを待つ。たしかに作戦としては普通なら正解だろうが、今回は間違いだ。なにしろここは壊れないし私のエネルギーは尽きない」
今回の件のすべての黒幕と言えど、この世界の創造主はやはり怖いらしい。テオドールが気付いたクロウの不振な点を知れば、小躍りして喜びそうだなと思った。
怖いと感じてるであろうクロウ関連で押して時間を稼ごうかな、と一瞬考えたが話題を嫌って洗脳を早められても困る。
こちらが出した話題の中で有利と思い再度出してきた世界崩壊の件、これについて続けるべく体力が尽きかけているという、矛盾点を突いてみたところ表情が少し和らいだ。
直ぐに返答するかと思いきや一瞬目を逸らし、再度こちらを見て体に不慣れなのと近接戦闘が苦手なせいだと返す。
魔法に関しては超一流なのにその有利な点をあっさり捨てたのか、そう質問したところ間の抜けた顔をしたあとで爆笑される。
「神を作り維持し世界を構築することに私の魔法は使っている。お前の仲間たちは皆止まったろう? 普通それで終わりなのだから注ぎ込んだのだ。私が知る限りこの空間でそんなに動ける奴は異常なんだよ。もう隠す必要もないから話すが、すべてが完成すればお前さえも殺せる。お互いにお互いを殺す、そのための時間稼ぎだろう?」
洗脳後の技の凄さに自信があるだけでなく、超一流と褒めたのもあってかイエミアは饒舌に喋ってくれた。考えればこれまで素直にイエミアを褒めた覚えが無かったし、意外だったのかなとも思う。
機嫌を良くしてくれたのであれば儲けものだ。もっと喋ってもらうために忘れかけていた営業トークを展開していく。
わざとらしく褒めては絶対ダメなので、相手に気付かれないよう少しずつ持ち上げる。最初はまゆをひそめていたものの、これまで誰にもこの凄い行動を褒めてもらえなかったのか、徐々に苦労話をし始めた。
内容のあまりの非道さに顔が引きつりそうになるのを堪え、私情を捨てて倫理も捨てて行えるなんて並みの呪術師じゃないな、と讃えると顔がほころんだ。
弟であるヤスヒサ王とはそこら辺の因縁があるらしく、彼女にとってこちらが讃えた言葉は琴線に触れたようで、呪術に関してや家に関してを語り始める。
「なるほど……イエミアも随分と苦労して来たんだな」
「部下は全員使えないし散々だったわ……でもこれですべてが報われる。お前のことは敵としてしか見ていなかったけど、もっと早くこうして会話しておくべきだったわ。そうすれば殺さずに済んだのに」
はかなげな表情を浮かべながらイエミアは空を見上げた。結局殺すんかいとツッコミを入れたかったが、時間稼ぎのためには邪魔をしてはいけないと堪える。
こちらとしては彼女を許すつもりは一切無いし、吐き気を堪えて聞いたのもシシリーの時間を一秒でも稼ぐためだ。
あとで存分に利子付けて返してやると思いながら黙っていると、えらい長いことかけてゆっくりとこちらに視線を戻した。
目を見ると憂いを帯びていて、自然と殴り掛かりそうになるのを堪える。
「本当に残念だ。テオドールなどという使えない男を傍に置くよりも、お前を傍に置いていればと後悔している。だがこれも運命なのだから仕方ない。何度も言うが私は死なないがお前は死ぬ。それはその力とは関係無く私が殺すからだ。本当によくやったよ無能力者の癖に。異世界転生してチートはありとしても、お前の存在は甚だ異質だった。今後はお前のような奴を見掛けたら真っ先に殺す」
女優のように抑揚をつけ気分を出し長台詞を喋るイエミアは、つっかえずに終えるとほぅと息を吐いた。不愉快さにストレスは頂点に達していたものの、手を出さずにその台詞を聞き続けた自分を褒めたくなる。
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