すべての元凶との対決
ここまで色々やってきたが、振り返ってみれば元の世界で出来なかったことや、目を背けてきたこと挑戦しなかったことなど、先生のお陰で多くのことに挑戦することが出来た。
「今度こそお前を落としてやる! 高照日御子!」
ただ寝て起きて仕事に行ってを繰り返していた人間が、異世界に来て不動明王様やシシリーたちに助けられ、世界を救う戦いを任されるまで成長できたなんて、今でも信じられずにいる。
「ジン! がんばれー!」
元の世界よりも環境は厳しく良いことばかりではない世界だけど、それでも皆思い思いの日々を真っ直ぐ生きていた。
―落ちろ! ジン・サガラ!
「誰だって気に入らないことの一つや二つはあるし、どうにもならないことや叶わない願いなんて星の数ほどあるんだ! 自分の願いを叶えるためだけに多くのものたちの夢、未来を犠牲にして来たイエミア、お前だけは絶対に許すわけにはいかない……迦楼羅炎!」
強固なバリアを張り、破られそうになれば他人の命を使ってでも守り回復させようとする。本殿が彼女たちの命綱であるのは明白だった。
ならば破壊する。バリアを破壊すれば直接攻撃が通るだけでなく、隠れているイエミアも出てこざるを得ないはずだ。
以前放ったものと違い、今回の迦楼羅炎は本殿を覆うほど大きな焔となっただけでなく、高照日御子によって召喚された貴人たちが進んで道を譲っている。
先ほどのやり取りの中で不動明王様からさらなる力を与えて頂き、恐らく背負っている本物の焔をこの身を通し、そのまま召還出来るようになったのではないかと思った。
ただの人間だけでなく異世界人であったとしても重すぎる技であり、代償なしには無理がある技である。
「ああ……ああ……」
本殿を覆っていたバリアが粉々に砕かれ四散したのを見て、アーテは嘆きながら膝を付く。生まれてくるところから見守ってやれなかったし、その先も祈ることしか出来ないのは残念だけど、彼女を利用とする強大な悪の始末をして終えられるなら本望だった。
ゆっくりと雲の上に降り本殿へと近づいていく。このまま黙って本殿に入れてくれたら運が良いなと思っていると
―私の覚悟と見通しが甘かったということなのかしらね……。まさかここまで一方的にやられるとは思っていなかった。眷属程度でも圧倒できる力は得られる、そう考えていたのに。
イエミアの声が前から聞こえてきたので足を止める。彼女が魂を移して来たのは人であったため、考えの片隅にすらなかった。
思い返せば人にはもう転移出来ないとは聞いていたが、物には出来ないとは言っていなかったといまさら気付く。
―アマテラス様、目の前にあなたを攻撃する暴れ者が来ていますよ。
「助けてイエミア! 暴れ者嫌い!」
―ならば私に力を与えて下さいまし。必ずやあなたを護って差し上げましょう。
「アーテちゃん駄目よ! 悪い人はソイツなの! アリーザお母さんのところに帰りましょう!」
「嫌だ! 私はイエミアにすべてを教えてもらったんだから帰らない!」
本殿を吹き飛ばすことも出来たが、そうすればアーテの心は余計にイエミアに執着してしまう。説得したところで心に届かないほどイエミアの洗脳は完璧だ。
洗脳を説くためにはイエミアの悪事を暴くための証人が必要になるが、出来れば身近にずっといた人物が良い。一番最適なのは母親であるアリーザさんけど、彼女は領域が広がったことで停止させられている。
イエミアはこの展開をわかっていたので先にアーテの力を出現させ、星の人たちの脳を強制停止させたのだろう。ふと星の人たちというところで、一人違う奴がいたのを思い出した。
「イエミア、さっさと姿を現したらどうだ? まだ策を弄するならこちらにも考えがあるし、それが出来ることをお前はもう知っているはずだ」
何にしてもイエミアが設定したルートを辿らなければならない。これ以上時間をかけるのも面倒なので、早くするよう催促してみる。不動明王様の力そのものが今この身にあるからには、以下の者が作った空間を破壊することなど容易い、それくらいのことはイエミアも承知しているだろう。
―せっかちなお父さんね。良いわ、アマテラス様をお守りするため私も命を掛けましょう。
コイツの命という言葉の軽さに反吐が出そうになりつつ、涙を流しながら怯えた目でこちらを見る娘に対し、どうするればいいかと考えた。
昔々、園に捨てられた時のことを思い出し当時の自分に聞いてみる。両親は俺を車から引きずり下ろすと園の敷地内に放り投げ、そこから出て来るなと怒鳴り散らし去って行った。
痛いのと怖いので泣き叫んでいた俺に対し、中から出てきた大先生は横に来て座り、泣き止むまで背中をさすってくれたのを思い出す。
怖いと思っているのに笑顔で見るなんて逆効果だし、真顔で見るのはもっと駄目だ。横に行ってやるのも無理だし背中をさすってやることも出来ないなら、今はただそうしてやれる時を待とうと考え、じっと視線を合わせず本殿を見つめる。
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