最後の営生へ
現れたのはイーシャさんやノーブルたちだけでなく、ゲマジューニ陛下やヨシズミ国の人たちにシャイネンの人々、驚くのはただ面識があるだけの人たちだけも含まれていたことだった。
「先ほどまで戦っていた者たちだけだと思ったか? お前のせいで私の力はかなり消耗させられ、それだけでは足りなくなったのだよ。故にお前の姿が記憶にある者たちを全て招き生贄とする。お前と関わらなければよかったのになぁ? だが安心せよ私が正解を支配した暁には、まったく同じ姿で復活させてやるお前の記憶は消し去った状態でな!」
邪悪な目身を浮かべまくし立てるように喋るアーテに対し、そこには母親がいるのにその命も生贄にするのかと問うも、娘の糧になるのだから良いではないかと表情を変えずに答える。
これまではどこかに良心がある、呼びかければなにか心に触れるものがあるかもしれない、そう考えていたが今目の前にいる人物には見いだせなかった。
イエミアが望む神になるよう育てたとはいえ、自分の中に彼女のような悪しき部分があったのではないか、それが影響しているのではないかと思うと絶望に苛まれていく。
―ジンよ、心静かに目の前だけでなく、あの者の底を見よ。表に出て来るものだけが真実ではない。
沼に沈んで行くような心境に陥っていると、一滴の雫が落ちるように不動明王様の声が聞こえてくる。
―お前の中にある悪が遺伝したなどと、知り得ぬものに苛まれてはならない。今思うべきはお前があの子どもの父であること、そして必ず救い母親に返すことを忘れてはならぬ。成すべきことを見失えば、すべてが闇に閉ざされてしまう。
雫は深く暗い沼の底にいる自分の頭上にゆっくりと落ちてきた。
―あの子を救うことがこの世界を救うことと等しくなった今、お前だけはなにがあろうと迷ってはならい。私が認めた代行者よ、お前が決めた通り命を振り絞りあの子とこの世界を救うのだ。迷いを断ち切れ!
最後の一滴が頭上に落ちた瞬間、沼の底から勢いよく浮上し水面に顔を出す。決めたことを護り貫き通す、そのためにここまで来たのだから迷ってはいけなかったんだ。
あの子にとっては神様になることが救いなのかもしれないが、父親としてそれは認められないと決めたからには、どうあっても止めて見せる。
最初で最後の壁となって立ちはだかり、子どもとしての幸せを経験させるため、アリーザさんの元に彼女を返す。
例え苦難が多くともアリーザさんを始め、多くの力になってくれる人たちと心を通わせてきたから、きっと大丈夫だと信じていた。
「な、なんだその光は!?」
アーテの声に反応しゆっくり目を開く。見れば胸の中心から光が発生し辺りを覆い尽くしていくと同時に、連れてこられた人たちは拘束を逃れられたのか次々と落下し始める。
―アマテラス様、早くその者たちを吸収するのです!
やはりイエミアはまだ完全に死んでおらず、どこかにその魂を隠しているようだ。今直ぐ見つけ出したいところだが、連れてこられた皆を戻すのが先決と思い、光を強めるべく胸の中心に気を集めた。
-アマテラス様落ち着いてください!
「なぜだ……なぜ私の力が阻害されるのだ!? ここは私の世界のはずだ!」
どこからか聞こえてくるイエミアの声も無視し、アーテは手をかざしながら目を見開き狼狽する。結局彼女は皆を元の位置に戻すことが出来ず、そのまま雲の中へと消えていく。
―ジンよ、光の気をお前の仲間たちに分けて与えよ。さすれば呪いから解き放たれ元の場所に戻れるであろう。
どうしたら良いかと思った時、不動明王様のから御言葉を授かりそのようすべく、一人一人の気を捉え両手で気を作り投げた。
しばらくすると雲の下から光の柱が立ち上り、この世界全体に震動が発生しアーテとイエミアは悲鳴を上げる。
―この世界は悪しき煩悩から発生した、不浄なる神の世界。最後にこの世界を破壊することが、大地の守護者としての最後の務めだ。
最後の務めと聞いていよいよかと考え気を引き締めた上で、最も障害となるであろうイエミアの退治方法について尋ねてみた。
―倒すのは剣で斬れば良いが、それ以外はイエミアは魂を別に移しているとしか教えてやれん。そしてお前の考えている通りあの者を倒さねば最後まで辿りつかない。あの者たちは回復する為、また星の者たちを連れてくるだろうが……。
言いかけて少し間が空く。不動明王様が言いにくそうにしていることはなんなのかと思って待っていると
―先ほどのような数の者たちを生贄として利用し成った場合、あの子どもは完全なる邪神となる。イエミアはそれを狙ってわざと負け、身を隠したのだろう。
邪神になった場合どうなるのかと聞くと、少し間があった後で
―大きすぎる聖なる者が現世に留まれぬのと同じように、大きすぎる邪なる者も留まれぬのが理。例えお前が倒さなくとも別の者が必ず排除に来る。そして一線を越えたその時には……私が降臨する。
そう言った次の瞬間、体に今までにない力が溢れてくる。恐らく不動明王様の慈悲だろう。俺の娘だからこそ、誰かが討つよりもという。
―違うな仁、私はお前が成し遂げると信じているからこそ、あと少しの力を貸したまで。この星の大地の守護者として、私の代行者として任せたのだ。最後までお前が望んだ結末に辿り着く為、やり遂げて見せよ。それがお前の未来へ繋ぐための最後の営生になる。
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