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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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消えゆく者たち

「前を見ろイエミア! ソイツに本殿を攻撃させるな!」


 指示を聞くためか体は相変わらず本殿を向いたままだったので、そのまま一刀両断する。黙ってイエミアに戦闘を任せていれば隙も無かったろうが、これまでの経緯からアーテの指示に従わなければ余計不利になる、というのが本能に叩き込まれてしまった。


大火焔(だいかえん)!」


 二つに分かれた体の間に移動して偽・火焔光背(ぎかえんこうはい)へ気を注ぎ、焔を溢れるほど発する。焔の巨人の体をあっという間に呑み込み、さらに本殿へと焔は止まることなく迫った。


「かくなる上は……! 魑魅魍魎の舞!」


 アーテは両手を広げくるりと回った後で右足を踏み鳴らし、手を前に突き出して叫ぶと本殿から妖怪たちが次々と現れる。久し振りに見る技だが忘れもしない妲己の技で、前回は焔祓風神拳(ぜんふつふうじんけん)の前に身を投げ出し止めたが、今回は大火焔(だいかえん)の前に身を投げ出した。


おぞましい数の妖怪たちが現れるも次々と焔に溶けていく。例え数がいたところで無理だろうと思ったものの、出て来る者たちは防波堤のような形を取り食い止めている。


妖怪たちは焔に溶かされ死ぬのをわかっていながらも動かず、抗議の言葉も上げず断末魔を残し消滅していった。主でも無い者の非情な命令にも従い死を受け入れる。


戦士としてこれほど惨い死に方はないと思いつつ、一刻も早くこの残酷な状態を終わらせるべくもう一発撃ちこみ、バリアを破壊してアーテの目の前に行く道を開こうと構えた。


「ジン、後ろ!」


 右肩のシシリーが叫びその言葉に反応して急いで横へ飛び退く。元居た場所を見ると最初に切り落とした頭の部分が飛んできており、間一髪直撃を避けることに成功する。頭部であった炎はそのまま本殿へと向かい、こちらの放った焔にぶつかると妖怪たちと共に消滅した。


「くそぅ……またしてもバリアが!」


 こちらの焔も一緒に消えてしまったものの、先ほどよりも広く全体的にひび割れを発生させることに成功する。イエミアも妖怪たちも消え去った今度こそチャンスだ、と思い追撃を掛けるべく三鈷剣(さんこけん)に気を送った。


「なぜだ……なぜ私がこのような目に遭わなければならないんだ……? 私は神だぞ? 私の命令は絶対で誰にも侵害されることなど有り得ない……絶対に許さない……絶対に許さんぞジン・サガラ!」


 禍々しい気を発しながら、恨みの籠った目でアーテはこちらを見てくる。やっと逢えた娘にそんな目で見られるのは心底辛いが、自分の娘だと思えばこそ間違った道に進んでほしくないと考え、ショックな気持ちを抑え思いを伝えることにした。


「俺を許さなくても構わないが、命を物のように扱うことだけはやめてくれないか。神になりたいのであれば、どんな命でも平等に扱い幸せになるよう祈って欲しいんだ」

「ふざけたことを……私以外の命に価値などない! 私に命令するな! 私は神だ、神なんだぞ! ……命? そうか命か。そんなに他の人間の命の方が大事なら」


「アーテの命も大事だ、だからこそ俺はお前を」

「嘘つき! 私を攻撃してるくせに! 私が神になるのを邪魔しているくせに!」


「なんでそこまでして神になりたいんだ!?」

「神になれば誰もが私を毎日見て拝んで笑顔で崇めてくれる……私に嫌な事を言ったりしたりしない……ずっとそばに居てくれるんだ!」


 彼女の叫びを聞き本当の願いがやっとわかった気がする。子どもは知識が大人に比べ少ないが、時には大人を凌駕するほど鋭い。


自分が生まれてきた環境や母親の状態、教育係が教えてくれること果ては食べ物まで、すべてが可笑しいことになんとなく気付いていたが、受け入れるしか生きる術がないと本能で理解したのかもしれない。


あまりにも惨い状況に言葉を無くしてしまう。イエミアだって子どもの親だったはずだ、なぜこんなにも酷いことが出来るのか。

 

理不尽に憤りながらも、ふと今のアーテを見ていて親近感を覚えてしまった。具体的になぜそうなのか直ぐに出てこないが、そこに彼女を救うことが出来るのかのヒントが無いか、懸命に頭の中の引き出しを漁った。


恐らく先生たちと過ごす前の


―アーテ様、地上に残る連中をここへ召喚しその命で本殿を修復しましょう。


「私もそう思っていたところだ。ジン・サガラ、お前の不敬はお前の仲間に償ってもらうとしよう。私の世界になった後で使おうと思っていたが、残念なことに我慢の限界だ」


 あと少しでヒントに辿り着きそうだったのに、それを遮るように死んだはずのイエミアの声が語り掛けてくる。


どこを見ても彼女の姿形はなく、まさか魂の状態でどこかにいるのではないかと気を広げたが、欠片も感知できなかった。


アーテの前にイエミアを確実に仕留めないと駄目だ、そう改めて思ったがどうすればそれが可能なのか分からない。


「さぁいでよ、ジン・サガラと心を通わす者たちよ! 彼の罪をお前たちの命で雪ぐのだ!」


 考えあぐねているとアーテは両手を天に掲げて叫び、しばらくするとこの場に多くの人たちが出現し浮遊する。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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