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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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痛みを知らぬ神

ただ方針を変更するにしても、イエミアの申し出を一顧だにせず拒否しているのは、捨て駒になれと言っているのに等しいので違和感があった。


イエミアが言ったように体の傷は消えても、傷付くことで発生する痛みと言う感覚は消せていないようだ。死に近いダメージを受けた時の痛みなどは想像を絶するだろう。


死なないとはわかっていても、あえてそれを受けろと言われてはいそうですかとはならない。考えがそこまで来た時に、アーテは痛みを知らないのではないかと言う点に思い至る。


神として祀り上げられるために最高の肉体と力を備えられ、傷付くことも死にかけることもこれまで無かった、だからこそ察せられないのではないだろうか。


「そ、そんな……! このままではジン・サガラを倒す前に私たちが死んでしまいます!」

「なぜ死ぬ? 回復させているのだから死ぬ訳が無かろうに。可笑しなことを言う」


「傷は治っても痛みを負ったという精神的ダメージは治っておりません」

「痛みを負ったダメージとはなんだ? 体が治っているのだから関係無かろう?」


 アーテの答えを聞いてイエミアたちは絶句した。痛みを知らないということが前提にあるとすれば、会話の食い違いに納得が行く。


恐らく痛みなど神が知る必要は無いと考えたのだろうが、まさかこんな場面で痛みを経験させておくべきだった、と後悔するとは思わなかっただろう。


死ぬことも叶わず逃げることも許されないのだから、ここから先はイエミアたちにとっては地獄でしかない。


 やり取りを見れば見るほど、イエミアの育児というものがどういうものであったか、というのが窺い知れる。


自分のお腹に十月十日(とつきとおか)居た子どもと、そうではない子どもでは愛情も違うだろう。彼女自身が選択したとはいえ憎きジン・サガラの遺伝子を持つ子を、愛そうと努力しても子どもには見透かされていたのかもしれない。


 不確かな愛情だけでなく神として祀り上げようとして育てた結果、痛みを知らず相手を思いやる気持ちを持たない人間になってしまった。


「なにをしている? さっさといけ。行かぬというのなら」


 なにか上手い言い方を考えているのか黙り込んでいる二人に対し、アーテはそう言って手をかざす。眩しい光が発生し反射的に目を閉じてしまい、慌てて手で遮りながら開けようとしたところ、間合いにイエミアたちが現れる。


多少哀れに思う気持ちはあったものの、完全に自業自得だし同情する余地はないため、迷わず斬りつけた。今度こそと思い焔を投げたが遅く、またあっさり回収される。


「がんばれーがんばれー」


 先ほどと同じ場所に二人を出現させ、即回復させた後でアーテは急に子どものようにはしゃぎ回った。理解出来ないが故に残酷なんだろうなと思う反面、イエミアに対して恨みがあるのではないかと勘繰ってしまう。


「力を!」

「いけっ!」


 最早会話する気も無いと言わんばかりに無視し、こちらに飛ばしてくる。段々こちらも気の毒に思い始め、回復するタイミングで気を充填し焔の力を増大させていく。


死に近いダメージを与え回収され回復され戻って来るという、サイクルがあまりにもはやかったため、気が溜めるのが遅くなってしまったが


「成仏しろよ……降魔火焔斬(ごうまかえんざん)


 ようやく溜め終わると三鈷剣(さんこけん)に焔がとぐろを巻くように纏わせ、全力で二人に対し斬りつけた。またしても回収されるかと思い追撃をと思ったものの、二人は倒れたまま焔に包まれている。


アーテを見ているが特に驚いているような顔をしておらず、じっと様子を窺っていた。あまりにも不気味すぎて、いったい何が起こるのかと不安になってくる。


「まさかここまで使えないとは思ってもみなかった。あまりにも酷過ぎて言葉を失っている」


 呆れたようにため息を吐いたアーテに対し、二人が哀れに思い万全ならここまで簡単には倒せなかったはずだ、と言うと笑い始めた。


二人を上手く導いてやればもっと戦えたはずだと付け加えるも、指示されなければ戦えぬ眷属などいらないと言って高笑いする。


「安心せよ、二人の死は無駄にはしない。使い道があると言ったはずだ」


 手をこちらに向けたので身構えたが、消し炭になった二人の体が浮き本殿の近くまで移動していく。使い道と言うからには何かに利用する気だなと考え、走りつつ焔を増幅させ斬りつけようとするも、あと一歩のところで本殿前に逃げられてしまった。


本殿には入らずアーテの前の位置まで並んで浮かぶと直ぐに全快する。一瞬目が開いたもののすぐに閉じてしまったことからして、精神的なダメージが限界に達したのだろう。


「さて、先ずは妲己の方から使おうか。これは九尾だからこそできる芸当だ」


 アーテの言葉が終わると同時に、イエミアは空間に渦を巻くように吸い込まれて消え、妲己は人型から九尾の妖狐となりさらに巨大化をして本殿の前に座った。


何が始まるのか見ていたところ、九つの尻尾のうち八つが体から離れると同時に妖狐となり、横一列に並んだ。


「さぁ第二ステージの始まりだ。数百年溜め込んだ妲己の妖力を分散させ、さらに神の気を少し分け与えた妖狐たちを倒せるかな?」


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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