冷たい血の流れる神
「ジン! その他大勢がこっちに近付いて来てる!」
シシリーの声に反応し周囲を見たところ、吹き飛ばした者たちがこちらに迫って来ていた。イエミアと妲己に対し少し大きめの焔を作り投げつけた後で
「焔祓風神拳!」
焔を投げるために左手に持ち替えていた三鈷剣に気を通し、不動明王様の焔を宿した風を全ての敵に対してぶつけるべく放つ。
気合いが入っていたからなのか、いつもよりも大きくそして力強さが増しているように見える。流されまいと全力で抵抗するイエミアたちを問答無用で運んで行き、あっというまにアーテの居る本殿へ到達した。
一瞬アーテにも直撃してしまうかと焦ったものの、涼しい顔で前を見て手を横に薙ぎ掻き消す。風自体は消滅したが、焔は眷属たちを逃さず捕らえたままだ。
あらゆる者の意思を無視して自らの支配下に強引に置くという、悪を成す者の眷属だから焔は消えないのだろう。次々と焔に飲まれ消えていく眷属を見れば、恐怖心を抱くかと思いその主を見る。
「なるほど……私に逆らうのだから、これくらいの芸当は出来るわけだな」
消えたくないと救いを求めて伸ばされた眷属の手を、取るかと思いきや手に光を宿しそれを放って消し飛ばした。一人だけではなく、本殿に飛ばされた眷属たちを無表情のまま潰し続ける。
「なにを驚いて見ている?」
仲間を助けないのかと問うと声を上げて笑い始めた。なにがそんなに可笑しいのかと聞いたところ、雑魚を助けて何になるのかと笑いながら答える。自分の為に戦ってくれた者を雑魚と呼んだだけでなく、助けを求める声を無視して殺すなんて可笑しいというも、首を傾げられてしまった。
「うぅ……アマテラス様お助けを」
「よかろう助けてやる」
こちらの言葉になにか引っ掛かるものがあったのかと一瞬喜んだが、アーテは伸ばされた手を取ることもせず消すことも無く、ただ黙って見続けやがて相手は焔に包まれ消える。
「これで良いのか? お前が助けを求める声を無視するな殺すなと言うから、答えてやり黙って見ていてやったが」
答えてやりと言うが助けていないだろうにというも、死は救済でもあろうと言った。屁理屈王にでもなるつもりかと思ったものの、五歳くらいってそういう年齢だなと思い直し、改めて仲間の重要性を説くも鼻で笑われる。
「仲間の重要性を説くわりにはお前は一人で戦っているが」
「ジンだって一人で戦いたくて戦ってる訳じゃないわ! 動けるのがジンしかいないからよ!」
「それは神である私の優しさだ、妖精よ。お前の仲間たちは私の支配する世界の住民だからな。支配が完了した暁には私の為に存分に働いてもらう。お前の仲間たちは多少使えそうなのでな、良い者は先ほどの連中の代わりに眷属にしようと思っている」
おもちゃの人形が壊れたから代わりを買う、というような感じで言う彼女に対して、命はおもちゃじゃない死んだらもう生き返らないんだぞというも、また首を傾げた。
「我が力となれない弱き者など必要ない。私という神に役に立つことこそ全ての者に求められることだ。役に立たねば私の世界からは消える、至極分かりやすいルールで生きやすかろう?」
そんな簡単に命は生まれないし人だって育たないと抗議するが、私は簡単に生まれたし直ぐにここまでになったぞと言われ、返す言葉を無くしてしまう。
続けて彼女はこうも言った。イエミアの技術をベースとし、次々と人を生まれさせてこの星にばらまき、生き残った者を眷属として手厚く遇する。
イエミアの血の通わない非人道的な技術により誕生した娘は、その過程そのままの人間になってしまったようだ。アリーザさんが操られ一緒に面倒を見ていたはずだが、普通の状態でない彼女を赤ん坊であっても感じ取っていたのだろう。
「ア、アマテラス様……力を分け与えて下さいませ」
アーテのあまりのも冷えた心に驚愕していると、イエミアと妲己がボロボロになりながら彼女に近付いて行く。掌を二人に向け光が宿ったのを見て、あの二人も殺されるのかと思いきや、なんと傷を癒やし服も元通りにしたのを見て驚いた。
「別に驚くこともあるまい? これらにはまだ使い道がある、ただそれだけだ」
「有難き幸せ。できましたらもう少し力を」
生みの親であり育ての親でもあるイエミアからの要求に対し、すんなり受け入れるかと思いきやただじっと見たまま答えない。やがて諦めたのか失礼しますと言って一礼し、イエミアたちは本殿から降りてくる。
「さぁ頑張ってそこの二人をまずは倒して見せることだな、ジン・サガラ。眷属を消せる芸当が出来ることは理解した。それらを消し飛ばすことが出来れば私の力を見せてやる。頑張ることだな」
冷めた目で見下ろす彼女に対し三鈷剣の切っ先を向けるも、人差し指で首をつつきニヤリと笑った。必ずその余裕で見下す態度を改めさせ、間違いを正さなければならない。
「死ねジン・サガラ!」
「今度こそ!」
絶対に負けない神である自分を脅かす存在である、そう彼女に認めさせるためにもてこずるわけにはいかない。間合いに飛び込んできた二人の動きを見て、素早くすれ違いざまに思い切り斬りつける。
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