救出作戦!
「ジン、あと少し!」
シシリーの言葉に頷き、動きが鈍くなり始めた赤ん坊から距離を取らないようにしつつ、笑顔であやしながら回避を続ける。イエミアもこちらの狙いは知っているだろうに、先ほどのダメージが回復しないのか大人しくしているのが気になった。
体を最終ステージへ置いてきた、なんていう余裕を見せたままで良いのかと問いかけるも返事がない。あと一手あるとすれば彼女自身が赤ん坊を乗っ取り、こちらに攻撃を仕掛けてくることだろう。
強制停止させられるのだからその手を打てるのだろうけど、そうなった瞬間こちらは不動明王様の焔をぶつけるだけだ。
さすがに体は赤ん坊でも中身が悪ならば問題無いと思っている。正直なんとかそれだけは避けたいところだが、いよいよとなれば覚悟を決めなければならない。
ウルもクロウを倒すためとはいえこの手に掛けたし、これまでのことも誤魔化す気はなかった。明確なる悪に対しては迷いなく力を行使する、不動明王様の加護が得られているのもその覚悟があってこそだ。
「迷っているのか」
笑顔であやしながら避けつつそう口から出る。お世辞にもこれまで迷わずいれたとは言えない。迷って迷ってようやく覚悟を決める、それを繰り返してここまで来ていた。
自分のとった行動は本当に正しかったのか、きっと死んだ後に裁定を下される。目の前の巨大な赤ん坊にまだ見ぬ娘を思い一瞬動きが鈍るも、相手も疲労の極地に近付いているのか捕まえられなかった。
やがて動きを止めどすんとおしりから地面に付け座り込むと同時に、大きな声を上げて泣きだす。恐らく疲れてお腹が空いたのだろうと思い、胸元のシシリーを見ると頷いたので頼むと告げる。
彼女は飛び立ち赤ん坊の目の前に距離を開けて立ち
「坊や、御飯ですよ!」
そう叫び両手を広げて数秒後、間に大きな哺乳瓶が現れた。こちらの読みは正解だったらしく、赤ん坊はそれを見ると凄い速さで手に取る。
「ンマ……ンマァアアア!」
さっそく空腹を満たそうとするも口はイエミアによって塞がれており、ミルクを口に含むどころか哺乳瓶の先すら入らなかった。赤ん坊は口の中に手を突っ込んで取ろうとし、イエミアはやめろと叫び声を上げる。
一応居るには居たらしいのでホッとしているとシシリーが戻り
「あの哺乳瓶は私がいれば通過できるから、格子が取れた時がチャンスよ」
と肩に着地し耳打ちしてくれた。今は詳しい話を聞くと相手にバレそうなので黙っておくが、たぶん身に着けた魔法の一つに違いない。
―元々妖精じゃからの、魔法を使えない方が変なんじゃよ。彼女はだいぶ俗っぽいが、だからこそ出来た魔法とも言える。
哺乳瓶を出す魔法という独特さに吹き出してしまったものの、シシリーはお母さんだもんなと言うと仁王立ちし胸を張った。
「イヤァアアアアア!」
「ギャアアアアアア!」
「今よ!」
口を引っ掻く赤ん坊と頑として離れまいとするイエミアの攻防は、生存欲求を満たしたい赤ん坊に軍配が上がり格子が取り払われ投げ捨てられる。哺乳瓶の先を口に付けたのを見て瓶底へ近付くと、シシリーが胸元から飛び出て先行した。
後に続いて進んだところ、まるで何も無いかのように通り抜けることに成功し、流れ込んで行くミルクと共に御腹へ向かう。
「解けろー!」
胃と思われる場所に辿り着いてみたところ、皆がコードみたいなものに絡まれており、さっそく解こうとしたが解けない。
シシリーが任せてというのでお願いしたが、そう叫ぶと絡まっていたコードがあっという間に解ける。考えれば彼女は元々裁縫が大好きな妖精なので、魔法瓶を呼び出すよりも驚かなかった。
ひょっとしてこれは昔から仕えて、裁縫で糸が絡まったりした際に使っていたのか、と尋ねると照れ笑いする。
―ジン、皆に気を分けて目覚めさせ、急いでここを出るんじゃ。
うっかり和んでしまったことを反省し、急いで皆に気を分けていく。時間が掛かったらどうしようかと思ったものの、すぐに皆の目が開いたのでホッとした。
飛べる者は飛べない者を抱えて付いて来てくれと指示を出し、皆は戸惑いながらも頷き動いてくれる。口から流れ込んでくるミルクが終わるのを待ち、止まった後で行くぞと声を掛け先行して口へ向かい飛び上がった。
やがて舌の部分まで到達するとまだイエミアは戻っておらず、口が開けば外へ出れるようで安心したが、問題はどうやってこの口を開けるかだ。
「まっかせて!」
大活躍中のシシリーさんが肩から飛び立ち、上舌とも言われる口の奥にある垂れた場所へ移動し、さらに上の鼻へ移動する。数秒後ぐらぐらと内部が上下に動き出し
「えっくし!」
鼻から空気が流れ込んできた後で口が開き、くしゃみとなって外へ皆吐き出された。
「やってくれるじゃないジン・サガラ……いえ、違うわね。まさかそんなノーマークの妖精にしてやられるとは思わなかったわ」
地上に着地し皆と再会を喜び合う間もなく、イエミアがこちらに炎の魔法を打ちこんでくる。なるべく赤ん坊に当たらないよう弾き続け、皆にもあの赤ん坊を攻撃しないよう指示を出した。
「あら、あんなガラクタを庇うなんて律儀ね。盾として使っても良いんだけど、取り合えず準備は出来たし邪魔だから潰しましょうね」
そう言ってこちらへ放っていた魔法を赤ん坊へ向けようとする。急いで飛び上がり赤ん坊の前に出てそれを弾いた。
「おもちゃが欲しいの? 坊や」
「てめぇの都合で生み出しておいて、用が無くなれば殺すのか……それが親のやることかよ!」
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