神のまにまに
「確かにハエは感染症の発生源になったりしますが、あなたのようなクソを分解してくれたりもするんですよ?」
テオドールの辛辣な返しについ笑い声が漏れてしまい、クロウの気に障ったのか目からビームを打たれてしまう。素早く盾を出し防ぐも怒りのパワーがプラスされているのか、あっという間に吹き飛ばされる。
「ジン・サガラ、踏ん張ってください! このまま進んでは不味い!」
「そうだジン! 今こちらに来ると面倒なことになる!」
テオドールとシンラは押し留めるべく、こちらの背に手を当てながらそういった。クロウの包囲から抜け出した時に方角が変わっていたようで、いつの間にか知らない場所にいる。
辺りを見渡すと妙に神々しい光が天から差し込んでおり、戦う気が失われていくように感じた。
「しっかりしろジン・サガラ! こんなところで盾を解いたら存在そのものが消されてしまう!」
「ジン! 気を保て!」
何を言っているの分からない上に思考力も奪われ、自然と力が抜けて穢れることのない白を解除する。
「大地にひれ伏せ!」
急に体が重くなり仰向けになって地面に落ちて行く間に、目の前をビームが通過していった。面倒だけど何処へ行くのか見ようと首を上に向けたところ、少し進んだ先で見えない壁に阻まれビームが消失する。
神であるクロウの攻撃を無効化して凄いなぁと感心したものの、なぜか抵抗しても無駄なのにと思え目を閉じた。
「ジン殿、失礼します」
ゆっくりと地面に到着し眠りかけたところで声が聞こえ、乾いた音と共に右頬に激痛が走る。目を開けるとそこにはアリーザさんやエレミアがおり、呆れた顔でこちらを見ていた。
「まったく何してるのよアンタたち。さっさとあれ何とかしてよね」
「我々の責任……だな」
「テオドール、皆に説明を」
「確かに説明は必要でしたね。ここは我らが生み出した神の領域です。今はお眠の時間故、それを妨げるような行為はすべて無効となっているのです。無理やり起こすようなことがあれば存在を消されてしまう」
アリーザさんに促されたテオドールの説明を聞き、ようやく先ほどテオドールが言った言葉の意味が理解出来る。凄い神様を誕生させたんだなと呆れながら言うも、あなたを見る私たちの気持ちが理解出来ましたかと返された。
こんなにすごいことが可能なら、クロウ相手に苦労はしてないよと反論したところ、なぜか場が静寂に包まれる。自分の発言を振り返ってみたが、まさかダジャレだと思われたのかと考え問いかけると、わかりやすく視線を逸らされた。
センスがあるとは言えないのでそこは受け入れるが、こんな場面でそんなダジャレを言う人間だと思われるのは心外すぎる。
「そんなことよりジン殿、早くここから出ましょう。テオドールの言うようにあの子が起きると見境なしに消されてしまう」
自分の尊厳のためにも抗議しなければと考え、決してダジャレを言おうとして言ったのではない、そう強く主張していたところでアリーザさんに話を遮られ言われた。
愛する妻にバッサリ切られ尊厳の危機を迎えたものの、自分たちの子どもに関することの方が重要だなと思い直し、肩を落としながら立ち上がり元の場所を目指し歩き出す。
「そんなにうちの子は気難しいの?」
「イエミアが無理やり成長を促進させたせいで、気性が荒くなってしまいました。ミシュッドガルド先生によれば、戦いが終わり次第調整すると言ってくれていますから、恐らく大丈夫かと」
歩きながらどうやって洗脳を解いたのかとたずねたところ、イエミアたちが戦いに出た隙を突いてミシュッドガルド先生が来て、洗脳を解いてくれたらしい。
約束を守ったつもりだったが果たされていなかったと知り、急いで戻ってきたと本人から思念が飛んでくる。先生の通信機であるペンダントを身に着けているシシリーも、とあるものに協力を得るべく潜っていた際に先生と会い、通信機を託されたという。
アリーザさんを助けてくれただけでなく、シシリーも助けてくれ今もアドバイスをくれる先生に対し、ありがとうございますと言葉にして伝えた。
「元々ワシらの問題にお前さんを巻き込んだんじゃから、この程度のことは感謝されるまでも無いし、お前さんにはもっと返さねば釣り合いが取れんわい」
巻き込んだと言われるけど、そもそもがここに送ってくれた天使先生はクロウの孫なので、無関係と言う訳では決してない。
ペンダントへ思ったことを伝えたものの、死んだ後でもこんな目に遭わされたのは、ワシらの問題に巻き込まれたからじゃよと改めて言い、頑として受け入れない感じである。
ここで押し問答をしても埒が明かないので、なんにしてもアレをどうにかしてからですねと話を変えた。アレことクロウは神の領域のギリギリと思われる場所で腰を下ろし、呑気に転寝をしている。
どうやらクロウですら、あそこから先に入るのは不味いと思ったようだ。このまま進んで出た瞬間に襲ってくるのは間違いないので、一旦足を止めてアレの対策は無いか皆にたずねてみた。
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