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師匠と森で地獄の集中講義!

 それを聞いて何だか気が抜けてしまい床に突っ伏す。ティーオ司祭は前に洗剤という単語を使っていたからもしやと思っていたが残念だ。やはり御爺さんを探す以外帰る方法は分からないのかもしれない。小父さんはティーオ司祭の手を引き揚げて起こすとこちらを向いて笑った。


「まぁそうガッカリしなさんな。この世界の何処かにその方法を知ってる人が居るかもしれない」

「そうだね。正直この世界は今混乱している。こういう時に生まれ出る者もあるだろうし」


 小父さんとティーオ司祭は一緒に悪そうな顔をしながら微笑む。この二人実は今の世の中に退屈してるんじゃなかろうか。油断ならないな。


「まぁこうして俺が親父に教えて貰った武を息子であるティーオに伝え、お前さんがそれを教わっているのだから孫弟子に当たる訳だ」

「そ、そうですね」


「なら異世界人であるお前に俺は技を一つ伝授しよう」

「それは良い! 是非父さんの素晴らしい教えとやらを拝見したい!」


 笑顔で向かい合いながら殺気を放つ親子。何だか面倒なものに巻き込まれた気がしてならない。シスターに視線を向けると意地悪そうに笑っていた。確実に嫌な予感がする……逃げなければ!


「あ、そう言えば今日は」

「よしよし、そうと分かれば特訓だ。改めて宜しくな! 俺の名はゲンシ・ノガミだ。連中が本格的に動くまであと数日猶予がある。その間に猛特訓すれば身に着くだろう。俺が教える技があれば必ず奴らを倒せる! 」


「ちょっと予定が」

「確かにそうですが、彼は一応人間ですよ?」


「あの」

「異世界人だから何とかなるべ! あんな無茶して体を何処も傷めて無いし」


 結構大きな声を出してるのにガン無視されてる上に会話の内容がもうただ物騒でしかない。今ですらハードな鍛錬をしているのにこれ以上やられたら潰されてしまう! 長椅子の下にゆっくり隠れてそのままこっそり移動し裏口にある出口に向かう。


会話が続いていてこちらに気付いてないようなのでこれは行ける! と思うも、あっさり小父さんとティーオ司祭に先回りされ行く手を阻まれてしまった。可笑しいんだよなぁ身体能力がさ。音もたてずに十メートルくらいの距離をすっ飛んでこられたら逃げようがないもの。


「逃げても解決しないぞ?」

「そうですよ。この人は教えるのがとっっても上手なので数日で達人にまでしてくれますから」


 何時も冷静沈着なティーオ司祭のこめかみに青筋が立っている。大分小父さんの言葉が効いているようだ。親子喧嘩の道具にされては堪らないんだがシンラたちは倒さなきゃいけないし、アリーザさんの安否も気になる。何より二人の雰囲気からして逃げられる気もしない。


「せ、せめて仲間に留守にする挨拶を……」


 二人は笑顔で首を横に振る。何たる無慈悲……! 抵抗虚しくそのまま教会から連行された。この日から数日、文字通り血の滲む特訓が始まる。牧場の更に南の森の中でティーオ司祭の父上であるノガミ師匠と木やモンスターに動物などを高速で走りながら避けたり、ノガミ師匠が投げる木の実を避けたりと文字にすれば簡単そうな鍛錬を朝行う。昼からは目隠しした状態で組み手を行いボロ雑巾のようになった。


夕方からは素手で獲物を捕まえ捌き夕ご飯として頂いて、夜は真っ暗な森で距離を少し離してからスタートする組手。初日はまだ持ったがそれ以降の細かい記憶がない。それなりに厳しい環境を生き抜いてきたつもりだったが甘かった。


何より質が悪いのは蔑みとかの悪意など微塵も無い、弟子が生き抜く為にこれは最低限必要だって思いながら指導してくれているので苦しさをぶつけられず。その上手加減をしてくれているのが三日目で分かってから辛いったらない。


「よしこれにて集中講義を終了する」


 六日目の夕方、うとうとしながら夕食を取っていると師匠が急にそう言いだして驚き、持っていたお肉をおとしそうになる。


「ま、マジですか!?」

「マジですかって何だ? ああ、本当かって言ってるのか。本当だとも、良くこの六日間耐えたな」


 それを聞いて両拳を握りしめ天を仰ぐ。瞬く星が祝福してくれているように感じて涙が出そうだ。


「さて、この鍛錬の締めをしようじゃないか」

「え!? 終わりじゃないんスか!?」


「終わりだよ終わり! くどい奴だなぁ。今日まで耐えた御前に御褒美をやろう。さぁ立て」


 嫌な予感しかしないんだが立たない訳に行かないので、お肉を名残惜しいが岩の上に置き師匠と向き合う。するっと師匠は左掌と左足を前に出し、弓を引くように右拳を握って脇を締めて引き右足も引いて構えた。


「良いか? 一挙手一投足見逃すな? 悪いがコイツは手取り足取り教えてやる技じゃない。俺も親父にやられて覚えた」

「いやぁ締めだったらもっと穏便に終わりませんか?」


「行くぞ! 風神拳!」


 師匠はこちらの提案を無視して体の二倍以上の覆気(マスキング)をして右拳に集約させる。技名を叫んだと同時に放たれた矢のように右拳を突き出し、右足も同時に出して地面を強く鳴らして踏みしめた。まさかこの距離でと思ったのも束の間、体は森を突き抜け夜空を飛んでいた。何を言ってるか分からないと思うが、やられた本人が一番分からん。


その上衝撃破等の所為か身動きも出来ず成す術なく夜空を飛んでいたが、徐々に落下し始め最早良いところに落ちるのを祈る他無い……なんて呑気に考えている場合じゃない! 何とか力を振り絞り体に力を入れありったけを込めた覆気(マスキング)をする。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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