巨大化ウル
―皆に急いで離れるよう言うんじゃ!
「急いで離れてくれ!」
ミシュッドガルドさんの声に従い、司祭やアリーザさんそれにシンラとテオドールに伝え、四人が下がるのを待ってから自分も下がり始める。白目を剥いていたウルはクロウが体に入ると同時に瘴気を発し始め、徐々に体を大きくしていった。
やがて斬撃によって切り株にされた木を踏み潰し、山から見ても分かるくらいの背丈にまで大きくなる。クロウに乗っ取られ巨大化するウルを無念の思いで見ながらも、ラの国跡地が近いためシスターやエレミアたちと合流し、皆を誘導するよう頼みながら下がった。
広い跡地なら森も破壊されず人への被害も少なくなる、そう考えながら最後尾を走っているとシシリーがやって来て、こちらの胸元の定位置に収まる。
俺の代わりにフォローありがとうと伝えるも、もうこの先はここから出ないからね! と怒られてしまった。ごめんと謝罪するが私がいればあんなことにはならなかった、そう言って腕を組み頬を膨らませそっぽを向く。
申し訳ないと思いつつ、クロウに乗っ取られるのを防ぐ方法があったのか聞くと、詳細は言えないがあったという。
クロウに関係しているものではないのかと続けて聞くも、全く違うと答える。まんまと騙され乗っ取られた自分が言うのもなんだけど、シシリーも騙されているのではないかと思い、恐る恐る聞くと鼻を叩かれた。
母親としてそれくらいは注意するし、人の良さそうなお爺さんからお守りも貰ったんだから、私はジンとは違って平気だという。
人の良さそうなお爺さんと聞き、先ほどからこちらを助けてくれているミシュッドガルドさんは、シシリーを通じてアドバイスをしてくれているのかと気付く。
お守りを見せてくれと頼むと首に下げていたペンダントを指さす。目を凝らして見ると博物館で見たことのある、真空管とかいうものが小さくぶら下がっている。
―おしゃれじゃろ?
普通そこはラジオとかじゃないんすかというも、わかりやすすぎじゃろと言われた。たしかにそれもそうかと思いつつ、助けてくれてありがとうございますと感謝の言葉を伝える。
―出来ることはアドバイス程度じゃてな。ワシも安心して離れてしまったが、まさかこんなことになるとは予想も出来なかった。アリーザのこともすまなかったの、約束したのに。
ミシュッドガルドさんの言葉を聞き、アリーザさんを探そうと辺りを見回すと、彼女は少し前の方にいたがこちらに寄ってきた。
―この子の事ならもう心配いらん。ワシが魔法石を祓い誰も操れぬよう封印した。とはいえ生み出された者はお前さんに何とかしてもらわねばならんがな。
イエミアたちが生み出した神もまだ居るが、アリーザさんがアリーザさんらしく生きられるなら、必ず助け出して彼女の元へ届けたい。父が無くても子は育つだろう。
右横で並んで走る彼女を見ながら微笑むと微笑み返してくれる。こうしてまた笑い合える時が来るなんて本当に思ってもいなかった。
クロウだろうと新たな神だろうと、アリーザさんのためなら倒してみせる。気合いを新たにし頷くこちらをじっと見て、彼女はじっと見てから手を伸ばしてきた。
どうしたら良いか分からず右手を向けると掴んで握ってくれる。三十五のおっさんだがこういうのは慣れなくて、口角が全開まで上がり浮足立ってしまう。
彼女がいるとこういう感じになったりするんだろうな、そう考えながら視線を前に向けると皆の視線がこちらに向いていた。
左手で頬を叩き顔を真顔に戻すもそれを見たアリーザさんに笑われ、綺麗だけど可愛らしい笑顔に釣られかける。
「さぁて先ずはシャイネン辺りを吹き飛ばそうかな」
加工したのか野太い声になったクロウはシャイネンの方を向き、口を広げると粒子が集まり始めた。なんとか皆の視線から逃れられたのは良いが、あの巨体からビームでも出されたらひとたまりもない。
どうにかしてあの口を塞ごうと司祭は飛んで行きアゴを蹴り上げる。しかしびくともせず粒子はやがて口の中一杯になってしまった。
「塵芥に帰るべし」
口を一杯に広げクロウの声でそう聞こえてくると同時に、粒子は白いビームとなりシャイネンへ向かい放出される。冗談としか思えず、皆唖然としてそのビームが飛んで行く先を見つめた。
―神と私を隔てるもの!
ビームは森だけでなく山をも消滅させ、シャイネンどころかリネンまで行くんじゃないかと思ったが、女性の声が聞こえるとシャイネンがあると思われる地点が光り出し、ビームを押し留める。
「おや、面白いね。僕の攻撃を防ぐなんてやるじゃないか」
長時間放出出来ないのかしばらくしてビームは消え口を閉じ、クロウは悪い顔をしながら鼻で笑った。一回防いだところで終わるはずもないと考え、顕現不動モードになり飛び上がる。
「邪魔をしないでくれるかな、ジン。僕はあれが何回出来るか知りたいんだよね」
舌を出し口の周りを舐めてからそう言って粒子を再度集め始めた。
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