クロウとの戦いへ
「一体誰がそんなことを」
「ならば今直ぐ閣下を蘇らせてみせろ。長く協力して来たのだからもう叶えてくれても良いはずだ。そうしたらまたお前に協力してやる」
「それは……」
要求に対してクロウは言葉を詰まらせた。魂抜という魔法で体から魂を抜かれこの世界に来るらしいけど、テオドールが語った生い立ちからして前の時代の人だと思われる。
彼の口振りからして長い間クロウと行動を共にし、悲願である敬愛する閣下の復活のため働いていたのだから、この要求を拒否も無視もできないだろう。
クロウ自身もデータなどはこちらにあると言っていたので、願いを叶えてやれば良いのになぜか即答しなかった。
―魂は肉体という器を離れれば、ろうそくの炎のように吹けば消えるようなもの。それを長期間保管することは不可能なんじゃよ。あれもそれをわかっているからこそ、色々試していたようじゃが。
データとか言っていたのは無くしてしまった魂の代わりなのだろうか。こちらの思考はクロウにも筒抜けになっているのに、彼にはそれに対して反論してこない。
「神は無慈悲だとは思っていたが、貴様だけは違うと信じて来たのに……お前まで私を裏切るのか!?」
テオドールの悲痛な叫びを聞き終えると同時に、クロウは吹き出し徐々に声を上げて笑い始める。開き直ったのかと思い心の中を覗いてみたが、自らに対する怒りと全知全能の神などいるものかというあざけりが、混ざり合い嵐となって暴れまわっていた。
想像でしかないが、クロウも息子さんを亡くした時に神を恨んだだろう。今は自分がその立場となり恐らく何度も同じ思いを抱いたはずだ。
例え昔の自分を踏み躙ったとしても、望みを叶えるために歩みは止めない。クロウの覚悟が荒らしを吹き飛ばす。
「なにが可笑しい!?」
「愚かでしかないね。ここはクロウ・フォン・ラファエルの世界だ。僕に逆らうなら君も一緒に消えてもらうしかない。残念だよテオドール」
同化したクロウの魂が燃え始め、こちらの存在を消さんと襲い掛かってくる。なんとかこれを押し留め体を取り戻しアリーザさんに会うんだ! そう気合を入れて堪えるべく身構えた。
「そうか、やはりそうなのか……良いだろう、私の覚悟をお前にも見せてやる! シンラ!」
「次元斬!」
テオドールの言葉に合わせて地面を割ってシンラが飛び出し、手にしていた剣身の無い柄だけの剣をクロウに向かって振り下ろす。
「フン、そんな壊れた剣でいったいどうすると……うっぐ!?」
剣身がないので体には何のダメージも無かったものの、クロウは突然口に手を当て身を屈める。何が起こったのか分からず困惑していると、
「あれ!?」
それまでの俯瞰して見ていたような状態から元の状態に戻り、目で体や手を確認すると外殻装着も外れていた。
―な、なんだこれは!? いったいどうなっている!?
目の前のシンラをさらに超えた先に、光の粒子が人型になっている者がおり、両手を眺めた後でこちらを見ている。
―ジン、油断するな! クロウはまた乗っ取ろうとしてくるぞ!
ミシュッドガルドさんの声が聞こえあれはクロウだと思い、不動明王様の剣である三鈷剣とヤスヒサ王の呪術法衣を呼び出し、乗っ取りに備えた。
クロウはあのままではここには居られないのか、辺りを見回し新たな寄生先を探しているようにみえたので、すぐさま間合いを詰めて斬りつける。
シンラもこちらの動きに合わせて粒子へ斬りかかってくれたが、ギリギリで避けられ掻い潜られてしまった。どこへ行くのかとその姿を追ったところ、アリーザさんのところへ向かって走っているではないか。
魔法石はクロウたちが持ち込みアリーザさんに埋め込んだものだ。乗っ取るとすればこちらより簡単なのかもしれない。彼女は見えていないのかこちらを見たまま動かずにいる。
「アリーザさん、逃げて!」
―無駄だ!
二度と会えないと覚悟してここまできたけどまたこうして会えた、もう誰にも彼女を連れ去られたくない。なんとしてでも食い止める! 歯を食いしばり地面を蹴った時、こちらより早く一振りのシンプルな剣がクロウに向かい飛んで行く。
―何度他人の体を玩べば済むんだ、下衆野郎。
アリーザさんの前で剣は止まり、それを戸惑うことなくアリーザさんは手に取り振り下ろした。光の粒子は人型の状態から割け、大きな悲鳴を上げる。あれが魂の状態だとすれば、想像も出来ないほどの激痛がクロウを襲っているのかもしれない。
初めて聞くクロウの悲鳴に戸惑いつつも、このままにはしておけないと三鈷剣を強く握って焔を宿し、消滅させるべく振り被って間合いを詰めた。
―おのれぇ! このままでは済まさんぞ!
避けた体を抱え横へ逃げるもそれを追って斬りつけ、粒子の人型は四つに分かれる。これでもまだ消えないならと粉みじんにしようとしたところで、木の陰からウルが現れた。
粒子はそれを見てウルへ乗り移ろうと飛んだので、急いで斬りつけるも間に合わずウルに入られてしまう。
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