絶対神は二度敗北している
クロウはゆっくりと投げ飛ばした屍竜の後を追う。今下手にもがくと仲間に危害が加えられてしまうが、このままにはしておけない。
どうしたらこの状態を改善出来るか考えようとしたが、このままでは筒抜けになり手を打たれるのは目に見えている。
なんとなくだが今は機会をうかがいながら、座禅を組んだ時のような心持でいようと思いさっそく実行した。
「アミ、ごめんね……よくやってくれたわ。やっと正体を現したわね、クロウ」
横たわる屍竜へ寄り添い撫でながらイエミアは褒めた後、こちらを向いてそう告げる。まだ何も言っていないのに、どうしてクロウが乗っ取ったと気付いたのか。
気にはなるが何かに気付いた場合、クロウにヒントを与えてしまう可能性があるため、黙って成り行きを見守る。
「おや、いきなりのネタバレは止めて欲しいな、イエミア……いや、春原來音」
近付きながら彼はそう茶化すように咎めたが、心は若干動揺と不安が入り交じった状態になった。どうやらテオドールとイエミアに現れた、こちらの知らない協力者が気になり始めている。
「お前がそうなることは聞いていたのよ。だから時間稼ぎのためにアミの力を抑え素早さを上げたの」
睨みながらヒントを教えてくれたことに安堵しながら、黒幕が分かるヒントが欲しいとクロウは考えた。
「誰がそんな告げ口をしたのかな?」
イエミアなら挑発するように言えば必ず乗る、そう思い子どもにたずねるように言うも
「教えるわけないでしょう? お前だけは必ず私の手で始末をする。そのためにここまで引き込んだのだからね……今度こそ逃がさないよ!」
拒否された挙句、自分はイエミアの狙い通りに引き込まれたと知り動揺しだす。クロウはこの星でこちらに敗れ、その前にはヤスヒサ王にも敗れているはずだ。
お世辞にも験がいいとは言えない星であるとしても、三度も敗北するとなれば神としての威光は地に落ちる。
この世界的にそれがどんな意味を持つのかと考えると、下手をすれば絶対神ではなくなる可能性があるのではないのだろうか。
「逃がさないのはこちらの台詞だイエミア。イーシャさんもエレミアも彼女を倒すのを手伝ってくれ」
こちらの声色を使い、戸惑い様子を窺っていた二人に声を掛けた。二人は顔を見合わせてからイエミアを見る。見られた彼女はクロウに対し、風神拳を打ってみろと言い出した。
頼まれなくても打ってやると言い彼は構えを取って風神拳を放つ。同じ体にいるから分かるが、まったく風神拳を打てるような条件には達していない。
ひょっとして今までただ構えを取り、拳を突き出しているだけだと思われていたのだろうか。若干悲しいなと思いつつ記憶を探るクロウを見たところ、気に関する部分が一切なくこれでは打てないなと納得する。
「な……なぜだ?」
「何故だじゃないわよ。それはミシュッドガルドの対魔法使い用……いえ、対クロウ用の技なのだから対象であるあなたが打てるわけがない。エレミアにイーシャ、見なさいあの男の姿を。あれがジン・サガラではない証拠よ」
理由が分からず動揺しながらも、イエミアが二人に姿を見ろといったので視線を体に向けた。先ほどまでは間違いなく破邪顕正モードになっていたが、今はスラックスとシャツの通常状態に戻っている。
さらに動揺するクロウを無視し、イエミアは二人に今ジン・サガラは邪神に乗っ取られていると告げた。邪神は姉さんが作り出したのではないかというも、エレミアは不可侵領域であったはずよと言い、彼女ははっとなり気付いたようだ。
「あの時のアイツはジンが吹き飛ばしたはずだけど」
「さっきまで肩に乗っていたトカゲっぽいのが居ないでしょ? あれにクロウは乗り移って機会を窺っていたのよ」
機会を窺っていたことまでなぜイエミアが知っているんだ!? クロウの心は動揺に次ぐ動揺で後退りし始める。
二、三歩後退りしたところで踏み止まり、いやまだこちらが有利なのは変わらない、イエミアたちはこちらを倒すすべがないのだからと考え、左手で汗を拭いながら右手を突き出す。
不味い、ここでイエミアを攻撃されたら、エレミアとイーシャさんにも被害が及んでしまう。力を入れても無駄ならと、力を抜き目を閉じ心を穏やかにし手を合わせた。
「馬鹿な……なぜ攻撃が!?」
「生きてる人間に乗り移るなんて私でもやらないわよ?」
間合いを詰めてきたイエミアを見ると、明らかに外殻装着と思われる甲冑姿になっており、拳が鳩尾に直撃する。今の状態では防御力がゼロに等しく、気すら纏っていないためとてつもない激痛が走った。
「うげぇ……!」
クロウは鳩尾を抑えながら膝を曲げ地面に手を突く。こちらも体が戻っていたら同じようになるだろう。とんでもない一撃を急所に喰らってしまい、これでは動きも大幅に制限されてしまうのは確実だ。
「どうしたの? 頑張って戦って欲しいわね。私としてはお前たち二人を纏めて殺せるチャンスを、わざわざ逃すつもりは無いわ」
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