魔法の根が回りきる
「くっ……なぜ戻ってきた!」
浄化し潰されていた者たち以外も魑魅魍魎が消え去り、空気が澄んだところで森の隙間からイエミアが姿を見せ怒鳴る。倒れる屍竜ではなく上空のこちらに言うあたり、先ほどの読みはそう外れてないなと思った。
「焔祓風神拳!」
確証を得るべく起き上がろうとしていた屍竜へ、焔祓風神拳を連続して放ち立ち上がるのを阻止する。黙ってみているなら偶々だし、そうでないなら読み通りだと言うことだ。
仮に読み通りならイエミアの弱点を見つけたことになるだろう。彼女にだって大切なものはあるのに、相手の大切なものを砕こうとしているけど、それは復讐の連鎖への入口でしかない。
終わらない憎しみと悲しみの螺旋に愛する者が囚われる、その程度のことを母となり子を育てたイエミアが分からないはずはない。
一度は家族を作り寿命を迎えたにもかかわらず生き返り、ノガミを殺し尽くさねば不味いと思った原因がどこかにあるんじゃないか?
これまでそんなことには気づかなかったけど、やはりイーシャさんとイエミアが直接顔を合わせれば合わせるほど、家が燃えて消えてしまったあの絵が頭を過ぎり、違和感があふれ出してくる。
孫との絵……そう言えばあの絵があった家はなんで燃やされたんだっけ? あの時に誰かに何かされたような気がするがなんだったっけ。
―ジン、余計なことはあとで考えた方が良い。
「罪を焼く蛇!」
なにかに気付きかけた時、それを遮るようなクロウの思念と共にイエミアの魔法が飛んできた。どうやら読みは間違いないらしく愛犬への攻撃を遮るべく、屍竜より少し小さいくらいの炎の蛇がこちらへ向かって飛んで来た。
シャイネンでイエミアが呼び出した炎の蛇だと気付き、両手に焔を宿し噛みつかんとして来た蛇の口を抑え、そのまま焔祓風神拳を放ち掻き消す。
「がら空きよ!」
「ですわ!」
声の方へ視線を向けるとエレミアとイーシャさんはまだ元気で、近くでこちらを見ながら両手を突き出していたイエミアの背後から攻撃を仕掛けた。さすがにこれは弾かれるだろうと思いきや、イエミアは短い悲鳴を上げて吹き飛ばされる。
チャンスと見て追撃を放とうとするも、凄まじい速度で屍竜が飛び上がり遮ってきた。愛犬という言葉に嘘偽りはないらしい。本能だけだからこそ、大切な飼い主のピンチに限界を超えてまで飛び掛かってきたのだと分かる。
「ジン!」
さらにイエミアへの攻撃を潰すべく師匠まで後ろから飛んでくる。洗脳されても真面目だなと思いつつ、強引に回避し追撃をしたところで森に消えてしまっているだろう、そう考え屍竜を殴り飛ばし師匠を蹴り飛ばして処理した。
二人は地面へ向かって一直線に落ちて行き、受け身を取る暇もなく激突する。上から見たところそれぞれの担当が対処すべく移動していたので、こちらは手を出さずに他のメンバーの様子を窺う。
ウィーゼルチームは回復し強化された妲己に対し拮抗していた。ベアトリスチームとレイメイは除災招福によって魑魅魍魎たちが消え、手が空いている。
それぞれのところへ応援に出したい気持ちはあるものの、襲撃戦からコンビネーションを磨いてきたチームへ、いきなり別の者を入れるのは混乱が生じてしまう。
もう一つ気になっているのは、山の上から焔祓風神拳を打った時に出てきた、アリーザさんもどきが今ここに居ないことだった。
屍竜をパワーを弱めて速度を上げてこちらに対処させるより、アリーザさんもどきをぶつけた方が効果がある。イエミアは神を作る以外にその点も考慮し、彼女を待機させているはずだ。
シスターとイサミさんと言うノガミ随一の復気使いでも、師匠の洗脳が未だに解けていないのを見るに、洗脳術は相当強固なのだろう。
アリーザさんに掛けているものは確実にそれを上回るはずなのに、こちらに当ててこない理由は何だろうか。
「ジン! 指示頂戴!」
暇を持て余したベアトリスから催促されたので、屍竜に対し遠距離から魔法攻撃を試みるよう頼んだ。こちらは上空から様子を見つつ、除災招福を効果が切れないよう唱え続けた。
場は浄化されるだけでなく、徐々に不動明王様の聖域となり始める。こちらのチームは皆すべてが倍加されたように見え、相手は明らかな弱体化していった。
「死の苦しみからの悲鳴!」
屍竜は明らかに子どもの声でそう叫び、口を開けるとどす黒い炎をこちらに向けて放ってくる。直撃を避けようとしたところなぜか体が動かない。
―ジン、久し振りに魔法を使ってみないか? 怒れば使えるよ?
こんな時に何を言ってるんだと思いつつ、ダメージを軽減するべく腕を交差させ身を丸くし、気を増幅させた。
―もったいないなぁ……君が魔法を使えばすぐに終わるのにこんな戦い。どれ、僕がやってみせてあげようか。
「我を倒すこと能わず」
体が勝手に動き、交差させた腕が十字になると口から知らない言葉が出てくる。屍竜から放たれたどす黒い炎は、まるで何もなかったかのように無くなってしまった。
何が起こったのか理解出来ずにいるこちらを無視し、体はゆっくりと屍竜のところへと向かう。
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