屍竜戦
攻撃が通らなければお手上げだったものの、通るのであれば力の限り攻撃し続ければいい。分かりやすい答えを得て、自分の持てる技全てをぶつけるべく気を溜めた。
「大火焔!」
「降魔火焔斬!」
「風神拳!」
「焔祓風神拳!」
相手もこちらの技を受けるだけでなく振り払おうとしてきたが、避けている間に気を溜め直し隙を見て技を叩き込む。確実にダメージを負ったようで四つ目を喰らった瞬間に叫び出し、こちらが再度大火焔を打ったにも関わらず無視して突っ込んでくる。
暴走なのか策なのかは分からないがノーガード戦法を取ったようで、すべて直撃しその都度怯んでいた。こちらに迷わず一直線に向かって来ているのを逆手に取り、攻撃しては引きを繰り返して引きつけておき、被害が拡大しないよう皆から少し離れようと考える。
シシリーに皆がピンチになったら教えて欲しいと頼み、胸元から飛びだったのを確認するとさっそく作戦に移った。
「ウォオオオオオ!」
機械音の中に幼い子どものような声が混じりながら叫び、こちらを追いながら捕まえんと腕を振り回してくる。作戦通り攻撃をしてから距離を取り徐々に皆から離れて行った。
―こいつは恐らくジンを味方から切り離すための駒だろうが、それにしても拘って拘って拘り抜いた愛犬を、あっさり捨て駒にするとは驚いたよ。
クロウ曰くイエミアの愛犬はヤスヒサ王にとっても愛犬であり、元の世界でチンピラに何の理由もなく殺されたそうだ。小さい頃から心の支えであった愛犬を失い、その時のリールを持っていたヤスヒサ王に憎しみを向けたという。
野上家の後継ぎにも成れなくなり憎しみは増大していき、クロウに野上の青白い炎や資料を提供する代わりに、自分を異世界に連れて行き愛犬を蘇らせろと要求したらしい。
取引は成立したものの手違いで魂は本能と理性に分かれたようで、今目の前にいるあれは愛犬の本能と寄生していた竜の亡骸だという。
新たな世界を作り元の世界と行き来する、類稀なる才能を持つ男の手違いほど胡散臭い言葉はない。クロウがいう愛犬の件が本当ならば、心の支えであり弟を憎しみ殺す原因になった者すら捨て去り、ヤスヒサ王の血族を根絶やしにすることを優先していることになる。
寒気すら感じる執念だがそれだけでは無く、ちぐはぐな印象を持ち始めた。具体的に言葉にし辛いがズレているというか、イエミアの中に居るのは本当に春原來音なのだろうか。
―僕もその点にはとても興味があるんだよ。魂抜を行ってからこちらの世界で新たな体に入れ込んだ後、何度も体を変えても魂は正常を保ち続けられるのかという点がね。
魂抜という魔法を使い元の世界から魂を持ってきて、この世界で出来た体に入れて人間として生活させていく、クロウたちはそうして人間という存在を誕生させている。合わずに自ら命を絶つ者や、合ったとしても途中で抜けて魂が消えたものもいたが、何度も体を移った者は初めてだという。
春原來音は中でも生きて肉体的には健康のまま魂抜を行っており、手元に残ったレアなパターンだとクロウは少し楽しそうに話した。
―ああ、間違っても彼女の味方したりはしないから、そこは勘違いしないでほしい。ただまぁ……サンプルは欲しいよね
テオドールと彼女の二人をそそのかした正体も知りたいし、とクロウは声を低くしながら言ってくる。二人が作った神様じゃないのかと問うも、あれにはまだそんな知能は無いときっぱり言い切った。
善悪の判断は付かないが能力に耐えられるまで成長させ、ご機嫌をとって言いなりにしこちらにぶつけてくる、そういう予定だったが上手くいかず前に出て来たと教えてくれる。
恐らく二人をそそのかした相手は、そうなると予想した上でイエミアに入れ知恵し、テオドールに仕様を説明せず外殻装着させたのではないかという。暗躍する相手が相当な人物だと思っており、その理由として外殻装着を上げた。
外殻装着はクロウが研究していた物であり、テオドールが纏っていたのは誰かのアレンジが加えられていたという。高等技術なのでそれが出来るのは、両方の世界合わせても片手で数えられる程度だそうだ。
―なんにしてもテオドールが居なくなった今、残ったイエミアには是が非でも吐いてもらわなくちゃならない、だから確保が大前提だ。こんな残骸に構っている余裕はないよ? さっさとアイツを片付けてくれ。
戦闘中に長いこと思念を飛ばしてきた挙句、早く目の前のを倒してイエミアを確保しろという要請をしてくる。さすが神様だなという自分勝手さに辟易しつつ、不動明王様のような神様もいるから神様も色々みたいだなと思い、頭も心も切り替えて屍竜に再度集中した。
思念を飛ばされている間も攻撃は続けており、ダメージの影響か動きが雑になっている。体力が削れたのか体に異常をきたしたのかは分からないが、このまま続けて行けば動きが止まるはずだ。
ダメージを蓄積させるべくカウンターをしようと左薙ぎ攻撃を避け、さあ行くぞと思ったところで急にストップし戻ってきた。予想外の行動に避けることも出来ず、腕を交差させ体を丸めて攻撃を受ける。
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