ラの国戦、始まる
―いらっしゃい不法侵入者さんたち
気が大きすぎて気取られる可能性があるため、一旦白蓮花モードを解除しながら歩き続け、以前山から見た時にバリアのようなものがあった場所に辿り着く。明らかに瘴気が漂っており、イエミア好みの場所だなと思っていたところに、彼女の声が聞こえてきた。
―不法侵入者は排除しなければね
不法占拠してる奴に不法侵入者呼ばわりされたくない。元々ラの国に住んでいてた人たちからすればお互い不法侵入者である。
―では舞踏会を始めましょうか!
イエミアの声が終わると同時に、森の奥深くから数多くの足音が聞こえてくる。皆に初手の勢力を潰しながら、各担当が出てきた時はそちらに専念するよう指示を出し、先行して焔祓風神拳を放つ。
―馬鹿の一つ覚えのように……! 良いわ、行きなさい!
第一陣は吹き飛んだのかイラつきながらイエミアは指示を出した。誰かの担当が来るのかと思い身構えていたところ、狼姿のヤマナンさんとその背に乗るクライドさんがやってくる。
シンタさんに頼まれただけでなく、クライドさんには初期にとてもお世話になったので、出来れば救出したい。ヤマナンさんとセットで出て来てくれたのであれば、こちらにとってはチャンスだ。
彼はアイテムのこともあってこちらの説得に応じる可能性が高く、こちらの切り離しに応じイエミアから離れたところに移動し、洗脳を解くことを邪魔されず試みることが出来るだろう。
この場で説得や洗脳を解き始めるのは戦線を混乱させてしまうと考え、イサミさんに一時指揮権を譲渡し二人を引き付けるべく下がった。こちらの狙いはわかっているだろうヤマナンさんは、狙い通り他の皆には目もくれず下がるこちらを追い掛けてくる。
体を狼に変化させたヤマナンさんの速度は秀逸で、さすがに通常モードでは対処しきれず顕現不動モードになった。狙いをわかっていても速度上回れる自信があるのだろう。
こちらも負けないためにモード変化し今リードているため、出来ればこのままヨシズミ国まで引っ張りたいと欲を出すも、狙いを見透かされてか二倍くらいの速度を出され、前に回り込まれてしまう。
「鬼ごっこはこちらに分があるのは分かっているだろう?」
「残念」
微笑みながらそう答え構えを取った。いきなり説得をして寝返るとあからさま過ぎて、イエミアの怒りを買いかねない。先ずは二人と交戦しクライドさんの洗脳を解除をすべく、こちらから先制攻撃を仕掛ける。
洗脳することで余計な思考を排除し、相手を殺害することに特化させたクライドさんの攻撃は、ノーブルの剣技に迫るものがあっていた。クライドさんがこんなに強い人だったとは知らず、驚きながら攻撃を捌いているこちらを見て、ヤマナンさんが今の彼は傷が癒えた全盛期の状態だと教えてくれる。
元々ヨシズミ国出身の数少ないゴールドランク冒険者で交流はあったが、実は不死鳥騎士団壊滅の知らせを受け救援に共に向かった仲らしい。
逃げる途中で気を失ったベアトリスとルキナを見つけ、退却しようとしたところでクレティウスと遭遇し、魔法によって右足が酷い凍傷にかかり壊死しかけてしまう。
司祭の魔法でも完治することが出来ず、以後は騙し騙しこなしていたが結局難しくなり、冒険者そのものを表向きは引退したらしい。
引退後は暗闇の夜明けの動向を探っていたが、戦争の激化を受けて各国の調査に移行する。
「ラの国に何度も不用意に侵入したのを見ていたが、焦っているように映った。元は冒険者の頂点に立った男だからな……お前の活躍に対し思うところがあったのだろう。ヨシズミ国の王の親族でもあるしな」
気さくで良い人だったが、王族としての責務だったりがあるのだろう。純粋なこの星の生まれからしたらこの戦いは異質なものだ。今ラの国にいるほぼ半数以上が異世界に係わりがある人間なので、付いてこれない人の方が多い。
偵察をしていたならその異常さは理解していただろうけど、それでも負けていないという思いを抱いていたところを、テオドールたちに狙われたのだろう。
洗脳はあっさり成功し肉体を特別な魔法や手術を行うことで治した、とヤマナンさんは教えてくれる。たしかにこれだけの剣技があれば前線に立てたのは間違いない。
「もしお前が洗脳を解きたいと考えているなら、圧倒してみせる他無いだろうな。解こうとしても今の彼はそれを受け入れない」
元ゴールドランクが歴の浅い冒険者に負けるわけがない、その思いで今動いていると付け加えた。アドバイスに心の中で感謝しつつ、小さく頷いた後で三鈷剣を改めて中段の構えを取る。
クライドさんも同じ構えを取り、ヤマナンさんもこちらに飛び掛かるべく身を低くしたものの、クライドさんが手を横にして遮った。ただ命令に従うだけじゃなかったのかと驚き、ヤマナンさんに視線を向けるも首を小さく右へ動かし元へ戻す。
困惑しつつも彼は遮られたことを口実に下がり、クライドさんと一対一となる。徐々に気が研ぎ澄まされていき、一太刀での決着を望んでいると分かりこちらも研ぎ澄ませた。
しばらくしてすり足で一歩進んだのに合わせてこちらも同じく前に出る。一歩、二歩と来たところで掛け声一閃、素早い胴払いを仕掛けてきた。
迎え撃つべく全力で弾きに行き弾いたものの、抵抗なく弾いたことに違和感を抱いたが、なんと素早く体を回転させ今度は振り下ろしてくる。
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