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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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吹き始める追い風

シンラのことは良いのかと聞いたところ、あれはお前に負けるわけがないので心配していない、と鼻で笑われる。


「シンラが成そうとしていたことはこんな戦いではないし、終わった後にこそ我らの仕事があると信じている。……まぁ私たちはお前も嫌いではない、敵ではあるがな。化け物として一般から浮く似たお前たちは、道が違えば分かりあうこともあったと思う」


 視線を逸らしそう言われ、こちらも照れ臭くなり空笑いをしただけになってしまった。たしかにシンラとは敵対しているが、憎しみを抱いている訳では無い。


彼の考え方は分かるがやり方が強引であり、誰かが道を共に整備し舗装すればよい方向に向かうのではないか、と今は思っている。


「私たちがあの連中に見逃されたということは、シンラも認めてくれたのだろう。他に役目もあることだしな」


 アイラさんが役目とは何かとたずねたところ、シンラの妹たちもこの場から離すことだと教えてくれた。元々シンラがテオドールと組んだのも妹の心臓病を治すためであり、その対価として自らの体を実験に差し出した聞き驚く。


シンラの妹とはウソウとムソウという二人の女性で、顔にはシンラと同じように紋様が付いており、背丈が違う以外は瓜二つで見分けがつかない。彼女たち元々一人の人間で名はムウというとシグマリンは教えてくれる。


生まれつき病弱だったが生後一年も満たない間に母が死に、そこからは母乳も得られずより悪化したようだ。家族で懸命にミルクを調達した結果、なんとか合うものが見つかり持ち直したらしい。


栄養は得られたものの成長は遅く、体つきも同年代の村の子と比べ小さい。病弱で毎月のように病気にかかり、家計は火の車だったという。


才能を見込まれ魔法学校へスカウトされたシンラは、妹に最先端の治療を受けさせたいと要求し受け入れられたので、魔法学校へ入学した。


学校生活は順調だったものの、主義主張の違いからシンラが魔法学校へ弓を引いたことで、最先端の治療を受けられなくなり妹の病状が悪化してしまう。


どうしたものかと悩んでいたところに、イエミアとテオドールが現れたとシグマリンが言ったところで、げんなりした気分になる。あの二人はこの世界に対して、何か一つでも良いことをしたことがあるのだろうか。


以前はあの二人の仕業ではと思った瞬間、何でもかんでも二人のせいにしては思考停止だと思ったが、それこそ思考停止だったのではないかと思わずにはいられない。


「妹に自分の心臓を渡したシンラは自ら実験台となり、魔法石を心臓代わりにした第一号の人間になった」


 シンラの心臓を与えられた妹は回復の兆しを見せたものの、どうやら体に呪いが掛けられた形跡が見つかり、その呪いの回避方法として魔法で二人にすることにより、軽減する方法を取った。


暗闇の夜明けの中では二人に知られぬよう、その呪いを解く方法を探す仕事があってシグマリンはそれに当たっていたという。


その二人はどうしたのかとシグマリンに聞いたところ、魔法で眠らせ離れた隠れ家に閉じ込めて来たと答える。


「なのでテオドールのところには本来くるはずの四人の助っ人が、誰一人として来ませんでした、という話になった訳だ」


 シンラの妹に呪いを掛けたのか仕向けたのか知らないが、犯人はテオドールかイエミアに違いない。テオドールであれば因果応報でなので同情する気にもなれない。


とはいえ本当にこれは運が良かった。アイラさんたちはどうしてこの地点に来られたのかと聞くと、誰かがここにシグマリンたちが居る、そう教えてくれたらしい。


自然とアイザックさんに視線が向いてしまったが、そのアイザックさんはこちらの左肩を凝視している。左肩にいる犯人に視線を向けてみるも、ウルの体のクロウは呑気に鳴き声を上げて誤魔化した。


まったく油断も隙も無いなと思ったものの、ここから先は危険なので国の防御の方をお願いしますと話しを変えた。


「ではな、ジン・サガラ。連中を倒して必ずその後で決着を付けよう。死ぬなよ」


 指をパチンと鳴らしてテーブルやティーセットを片付け、シグマリンはそう言って去って行く。ガイラもこちらを見て頷き、正拳突きをしてからシグマリンの後追う。


「じゃあ私たちも下がるけど後は頼むわね」

「生きて帰れよ? それまでは国を守ってやるからな!」


 アイラさんとアイザックさんも引き上げてる。去り際にミリアムさんから頼まれたという革袋を渡してくれたので見ると、例の団子が入っていた。


なんでこれが必要だと分かったのだろうかと思い、怪しい人物を見ると肩で転寝をし始める。クロウが仕向けたとはいえ、シグマリンたちの造反が見逃されるとはついてるなと思った。


あの四人が抜けるのは相手にとってはかなりの戦力ダウンになるし、このチャンスを逃せないと考え一気に敵の本拠地を突くぞと声を上げ、奥にあるラの国へと再度進軍する。


「あんな話を聞いたところで、私たちは復讐を止めたりしないからね」


 移動し始めるとこちらにベアトリスが近付いて来て、そう告げてきたので小さく頷いた。例えどんな立派な大義名分があったとしても、犠牲になった人や家族が居る以上、受けて立たねばらないこともあるだろう。


個人的には復讐を止めたい気持ちはあるが、ベアトリスの判断に任せようと思っている。彼女は決して馬鹿でも冷徹でもない。父親が亡くなり辛い思いをしてきたが、多くの人の優しさで今は立派になっていた。


その時に彼女が正しいと思って行動したことを、おっさんとしては肯定したいと思っている。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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