終わりへの出陣
「御馳走様でした!」
各人と言葉を交わした後は皆をリラックスさせるように、最近の出来事などを話したり聞いたりし、食事が終わるまで過ごす。食事の片付けも聖堂の掃除も皆で行い、綺麗になったと同時に教会を出る。
「お世話になりました」
戸締りをしいよいよ出発となったところで、教会に向かい感謝の意を示し頭を下げた。振り返り皆を見て手を前に出して欲しいと告げる。一人一人の手を重ねて行き、必ずここへ生きて帰ってくるぞと叫びながら強く下へ押し、終わると高く手を上げた。
「ちょっと、やる前に説明してよ!」
「そうだそうだ!」
一人で手を高く上げるこちらに対し、しばらく皆黙ってみてから抗議の声が上がる。戦いに行く前はこういうのをするのが当たり前だと思い、言わずにやってしまったがここは異世界だし知るわけがないよな、と反省した。
「ジンて時々空気読めないよね」
「時々ですか? アリーザさん関連以外のことは基本読めてない……いやアリーザさんも読めていないかもしれません」
イーシャさんの言葉を聞き、あーという声が皆から漏れる。最終決戦の前に空気が読めない男だと思われていたことが発覚し、しょんぼりしてしまいそうになるがなんとか踏み止まり、謝罪してもう一度やり直してくださいと頼んだ。
全員渋々ではあるがもう一度手を重ねてくれたので、元気付けようと大きな声を出そうとしたところ、なんと皆が大きな声をあげだした。
「全員で帰ってくるわよ!」
「おー!」
突然の出来事に呆然とし手が挙げっぱなしになったこちらを置いて、皆北門へ向かって歩き出してしまう。慌ててそっちじゃないよ御城の方だよと呼び止めると急いで戻ってくる。
笑顔で駆けてゆく彼女たちを見送り、最後になったところで後を追うべく走り出した。皆の走る姿は希望の光に満ち溢れているように見えて、後のことは心配ないと思わせてくれる。
あっという間に城下町の入口に到着してしまい、寂しい気持ちがして速度を落としゆっくりと距離を詰めた。城下町に入ると多くの人たちが待ち構えていて、大きな声援を送ってくれる。
陛下がいらっしゃったので急いで駆け寄り、傅いて挨拶をするとようやく来たかと言われた。どうやら夜明け前から国民を集めて準備をしてくれていたらしく、驚きながら感謝する。
「ジンにすべて任せることになって申し訳ないが、後は頼む」
膝を折り手を差し出す陛下に対し、こちらこそ勝利の暁には彼らのことは頼みますと告げ握手を交わす。全員と握手を交わしたいところだが、体力の消耗を考えゆっくり走りながら通り過ぎることにした。
―さぁ狼煙代わりに景気よく頼むよ
城下町を通過し城も通過し山道に入る。シスターたちからどこまで行くのかと問われ、このまままっすぐだと答えた。険しい道を小走りで進みやがて峰へとたどり着く。
クロウの言葉に頷き三鈷剣を呼び出して右手に持ち、風神拳の構えを取る。
「くらえ! 焔祓風神拳!」
一気に白蓮華モードまで上げ全力の焔祓風神拳を放った。濃い縁をした焔が空を駆け抜けラの国のある場所へ向けて走る。
「このやろぉおおおおおお!」
叫び声を上げ空中に現れたテオドールは焔へ身を投げ出したが、献身虚しく弾き飛ばされる。まったく勢いは衰えぬまま、焔はラの国に着弾し地面から立ち上ったあと消えた。
「何度やれば気が済むんだ貴様……あそこに人質が居たとしたらどうするつもりだ!?」
「お前たちの卑怯な手口に付き合う暇はない。死んだ人たちにはあっちにいったら詫びるよ」
「それでも正義の味方のすることか!」
「誰がいつ正義の味方だと言った?」
というか焔祓風神拳は不動明王様の焔を使用したもので、悪しき者以外には普通の風神拳である。当てられて困るような知り合いはいないので、迷うことなくぶっぱなした。
面倒なので連発して綺麗にしようともう一度構えたが、これを見てもまだやる気か! とテオドールが叫ぶ。少し間があった後でラの国の場所から煙が立ち上り、徐々にそれは他人の形を作っていく。
「あれは……アリーザ!?」
エレミアの発した驚きの声に満足したのか、テオドールはニヤリとする。個人的には何が面白いのかも知らないし、あれが本物だろうと偽物だろうと技が技なので
「焔祓風神拳!」
「なにしやがんだてめぇ!」
構わずそれに向けて技を放った。唸りを上げて走る焔に対しまた止めようと遮ったが、同じように弾かれ着弾する。叫び声を上げながら巨大なアリーザさんもどきは倒れ、よろよろと浮遊しながらテオドールはこちらに戻ってきた。
「てめぇついにブチキレたのか?」
「至って冷静だ。お前は育児疲れで弱くなったんじゃないか?」
真顔でそう指摘しながらもう一度構えを取るのを見て、彼は目をひん剥いて自分の右手親指付け根を噛み始める。育児のし過ぎで幼児退行したのかと思ったが、どうでもいいので三発目を打つべく気を溜めた。
「許さねぇ……このままで済むと思うなよジン・サガラ!」
「このままで済むも何も散々ぱら嫌がらせしておいて、まだ気が済まないのか? いい年した一度死んだおっさんのわがままも癇癪ももううんざりだ」
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