懐かしき日々
「イーシャには悪いけど、姉さん……いえ、イエミアは必ず倒すわ。一度人生をやり終えたならあとは黙って託せばいいのに、蘇った挙句墓に引きずり込むような真似をするやつを、私はこれ以上放置してはおけない」
イーシャさんの叔母ことエレミアは、こちらを見ながら力強く力強く決意表明する。元々エレミアはイエミアの妹であり、本来は寿命を迎えていたはずだ。
占い師として名声を馳せていた彼女は、ある日クロウによって”聖刻”を体に刻まれたことで不死となり、逃げるように彷徨い神に復讐するという目標を見つけ、暗闇の夜明けに所属していた。
こちらと争っている時に神であるクロウが現れ、組織を脱退し共に旅をすることになる。思えばこの地を離れて以降、エレミアには本当に世話になった。
アリーザさんを人質に取られ勢いでこの国を出たが、彼女とシシリーが居なければ一人突っ走った挙句、クロウに倒され死んでいたかもしれない。
特にクロウ戦では聖刻を利用し、異世界人の先輩と思われるアルブラムが残した巨大な剣を起動する、とても大事な役割を果たしてくれている。
前回こちらが出陣中にイエミアとシンラの襲撃があった際にも、ノーブルと二人でヨシズミ国の人々を体を貼って守ってくれた。
なんとか今回の戦いも無事に生き残り、不死にされ辛かった時間を帳消しにするくらい、幸せな時を過ごせるよう願っている。
最後の戦いではイエミアを二人に受け持ってもらうが、出来る限りフォローはするというも、自分の敵だけに集中するための配置でしょ? と返されてしまう。
「私はジンのフォローね」
言葉少なにレイメイは言った。彼女もエレミアと同じ元暗闇の夜明けに所属していたが、組織が可笑しくなったのを感じ、アの国戦終了後こちらに付いて手を貸してくれている。
レイメイが暗闇の夜明けに所属していたのは、リーダーであるシンラの言葉に看過されただけでなく、惚れているようだ。彼のためなら命を投げ出しても構わないという思いを利用され、女王バチと融合させられた。
最後の戦いにはシンラが出てくるかはまだ確定していないものの、出て来れば戦わなければならない。彼女は助けたいと思っているだろうが、その手立てがあるかは不明である。
ジロウが独鈷となり不動明王様の加護を得たことで、シンラを救う可能性が出てくると良いなと思っていた。テオドールによる度重なる肉体改造により、最強の力は得たようだがこのままでは長くはもたないだろう。
二人が新しい力を得たのもなにか使命があるだろうから、最後まで諦めず頑張ろうと告げると小さく微笑んだ。
「いやいやまさか私たち二人が最後の戦いに参加できるとはね!」
「本当に思ってもみなかったな」
ベアトリスとルキナの兄妹はそう言って喜んでいる。彼らはシンラが暗闇の夜明けの名を得るために襲撃した、不死鳥騎士団の団長を務めた人物の子であり、団員が全滅してしまったものの命からがら逃げのびていた。
各地を転々としながらルキナが名を変え仕事をし、ベアトリスを育てながら復讐の機会を窺う日々を送る。騎士団を壊滅させる切っ掛けを作った人物がヨシズミ国にいる、そう情報を得てこの国に妹と共に移住してきた。
異世界から来た自分と普通を知らないベアトリスという、知らない者同士手探りで営生しながら事件に巻き込まれて行き、シンラを倒すに至る。
暗闇の夜明けとの全面戦争の切っ掛けともなった事件であり、まだ世界を知らなかった頃の懐かしい日々は、思い出しても大変だったが今でも輝いて見えた。
くれぐれも生き延びることを最優先に考え無理はするなと言うも、それはジンもでしょうとベアトリスに返される。
「まぁ皆生きて帰ろうとリーダーが言ったのだから、守らねばならいな!」
返答に困っているとシスターが割って入ってくれた。シスターもベアトリス同様、この世界に訪れた時から世話になっている人物で、異世界人の先輩であるヤスヒサ王の子孫である。
竜神教という宗教のシスターであり本名はティアナという。豪快で少年のようなところがあるとても明朗快活な彼女だが、兄であるティーオ司祭の反旗や父であるゲンシ師匠が支配された際には、とてもショックを受けしばらく休んでいた。
今回の戦いも父を助け兄を取り戻すことが目的だったものの、兄は図らずも帰ってきたので今は父を助けることに集中してる。
最後の戦いでも師匠を取り戻すことに専念してもらい、相手の戦力を大きく削ぐ役割を担ってもらう。
シスターには特に大きな役割を担ってもらうが、こちらもフォローするから全力で頼むというと大きく頷いてくれた。
「私も完全に目が覚めたから頑張るわよ!」
シシリーも右肩に座っていたが盛り上がったらしく、勢い良く立ち上がり拳を突き挙げる。ベアトリスと冒険者業を始めてしばらく経った頃、スライム討伐中に出会った妖精のシシリーだったが、まさかこんなに長く一緒にいるとは思わなかった。
彼女にプレゼントした裁縫道具は今でも大事に持ち運んでおり、自称母親と言い出して以降はシャツの直しとかもしてくれている。
この大陸に戻ってきた後は離れることが多かったし、最近はシシリーが眠っていることが多くすれ違いがあったものの、やはりこうして近くにいて元気なのは落ち着く。
大事な存在であるシシリーの夢となった雑貨屋さんは、元々こちらが提案した事だった。自分で言っておいて叶えてやれないのは心苦しいが、あの手紙の受取人が叶えてくれるだろう。
出来れば仲間も探してあげたかったけど、それも後に託すことにする。申し訳ないなと思いつつ、頼りにしているよと告げると、お母さんに任せなさいと胸を張った。
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