最後の会食
「頂きます!」
食事が始まったと思って誰から話し掛けようかと見回したところ、全員がこちらを黙って見ていた。なぜだろうと思ったが皆何も言わずに見ている感じからして、なにか話してという合図かもしれないと考え席を立ち話し始める。
「自分自身何度も敗北しここまで決して順調ではなく、今日ここにこれなかった人たちもいる中で、最後まで一緒に戦ってくれる皆に感謝したい。必ずもう一度皆で戻ってゆっくりと食事をするために、勝利しよう!」
学が無いせいで大したことは言えなかったが、皆笑顔で頷いてくれてほっとした。ようやく食事が始まり先ずは目が合ったハユルさんから話していくことにする。
「ジン殿には大変良い経験をさせて貰い感謝の言葉もありません。御礼をしたいので暗闇の夜明けを打ち倒した暁には、是非とも我がブリッヂスへお越しいただきたいです」
言われるほど構えず申し訳ないというも、稽古を付けて頂いた上に実戦も経験出来たのは、地元にいたままでは経験できませんでしたという。ブリッヂスの統治者ブキオの妹であるハユルさんとは、ヤーノの村で初めて会った。
ヤーノとブリッヂスのいざこざの狭間で悩んでいた。原因はブキオのノガミを倒して王になりたいという野心だったが、三鈷剣で斬りつけこちらが勝つと諦める。
クロウ討伐後にヨシズミ国へ帰国しようとした時に、広く世界を見たいとイサミさんと共にこちらに来た。次から次に起こる問題を解決することに専念してしまったせいで、大してためになるようなことは出来ず申し訳ないというも、十分良くしてもらっていますよと言う。
「イザナ叔父さんも是非また来るように言っていたし、少し落ち着いたら共に行きましょう」
イサミさんはヤーノを治めるノガミ一族の一員だ。最初は統治者だとは知らず、あとでコッソリ教えてもらい驚く。ヤスヒサ王を父に持ちエルフ族の女性を母に持つ人物であり、ヤスヒサ王最後の子どもでもある。
武術を得意とし特に化勁という受け流す技を専門としていた。復気を習得することが出来たのもイサミさんのお陰である。他にも時を止める魔法も取得しており、すべてを出して戦った場合は、こちらが負けるかもしれないと思わせるほど凄い女性だ。
「そういうことなら是非ともシン・ナギナミにも来て欲しいわね。良い国とは言えないけど観光にはもってこいよ」
「姫様、祖国に対して貶めるようなことは言わないでくださいよぉ~」
ウィーゼルとタクノはネオ・カイビャク領から遠く東にある、シン・ナギナミという国の出身だった。元暗闇の夜明け所属のウィーゼルは、最初は敵対していたものの組織に不信感を抱き、村正の件が切っ掛けで完全にこちらに移籍する。
先の戦いで死んだはずの母親である妲己と戦い、あと一歩というところまで追い詰めたものの逃げられてしまう。今回の戦いでまた出てくるのは間違いなく、今度こそとメンバーの中でもかなり気合が入っていた。
タクノはデラウンでノーブルの家に雇われ、それ以降彼のお付きとして頑張っている。主人であるノーブルは好青年で人望もあるが、抜けている所も多くフォローしてくれる彼女は大事な存在だった。
戦いでも妖術を使用し今回も彼の助けとなってくれるだろう。
「あれ!? 僕が最後じゃないんですか!?」
話の流れでノーブルに今の心境はどうかとたずねるも、順番が意外だったらしく不満そうな声を上げる。デラウンを治めるナビール夫妻の子どもとして生まれ、ノガミ一族の期待の星としてヤスヒサ王の剣である、ファーストトゥーハンドを所持する才能豊かな青年だ。
家柄だけでなく両親の過保護もあり、周りから大事にされ過ぎた彼は本物の勇者になりたいと願い、この危険な地域へ望んでやってきた。彼はこちらを先生と呼んでいるが、自分の知っている先生ほど教えられなかったため心苦しい。
いつか勇者になったとしても先生の教えのお陰とか言いそうだが、多少教えたかもしれないが勝手に伸びだ元々凄い人物なので、どこかにそれを記しておきたかったなと今さら思っている。
本当に強くなった、もう自分の代わりに勇者と名乗ってくれないかと頼むと、飲み込もうとしていたスープを後ろを向いて吐き出した。タクノが急いで雑巾を探しに席を立ち、彼もそれを追って直ぐに戻ってくると二人で床を拭き始める。
以前ならこちらに食って掛かることを優先しただろうが、タクノに任せず一緒に拭くノーブルを見て安心していた。彼にはやはり何としてでも生き残ってもらいたい。世界を本当の意味で救うには彼のような人物は必要だ。
「と、とにかくですね、僕は勇者ではありませんし、最後までなんと言われようとお供しますからね!」
拭き終わって片付けタクノと戻ってくると食って掛かり、へそを曲げた感を出しながら食事を再開する。
「ジン様には勇者よりも、是非ヨシズミ国の英雄としてこの国を導いて欲しいですわ」
とんでもないことを楽しそうにイーシャさんは話す。思えば彼女と母親である奥様が襲われた馬車を助けたことで、この世界での営生が成り立ったと言っても過言ではない。
ミシュッドガルドさんに偶然篭手を売りつけられ、それをこちらにタダで譲ってくれた。奥様とイーシャさんは知らないだろうが、ミシュッドガルドさんの狙い通りだったのではないか、と今は思っている。
交流はずっとあったものの戦いにはほぼさんかしていなかったが、行方不明の叔母であるエレミアに亡くなった祖母であるイエミアと、彼女に流れる血に近い者たちが不可思議な形で現れ、本格的に戦いに巻き込まれてしまった。
大人しかった彼女はいつのまにか長い髪をバッサリ切り、イエミアの本体である春原來音の力であり、野上一族の象徴とも言える青白い炎を身に着けるにまで至る。
元の静かなイーシャさんでいられるように、早くこの戦いを終わらせたいなと思わずにはいられない。本当に強くなったし今回の戦いでは頼りにしていますよというと、叔母様が居るからきっと大丈夫ですと力強く答えた。
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