不安を抱く創造神
この世界の神であるクロウが強い危機感を抱いているのが気になり、その点を指摘してみたところ返事が無い。これまでテオドール側に怒ったり苛立ったりはしても、危機感を露にすることなど無かった。
世界を創造した男が焦る要因が相手にあるのであれば、たしかにのんびりしている場合ではない。内容やら対処法やらを教えてもらわないと何も出来ないので、教えてもらいたいところではある。
―改めてこの星をサーチしてみたけど、どうやら彼らは本当に神を作り出したらしい。
重苦しい感じでクロウは言った。目覚める直前に現地調査を行ったところ、スの国にあたる場所に神性を持つ者が確認されたという。
この世界には星を管理する役目を負った、神の代理人を配置しているらしい。人々に対し抑止力として神性を若干持たせてはいるものの、クロウを超えることはないように設定しているようだが、スの国にいる者はそれを遥かに凌駕していると話す。
―こうなることが分かっていれば、君との戦いは適当なところで切り上げたのに……。まさか僕にも読めないことがこんなにも起こるとは思わなかったよ。
悔しそうに言うクロウに対し、仮に同等の神がいたとしてテオドールの望みは叶えられるのか、と聞いてみる。少し間があった後で彼はそれは無理だろうと言った。
なぜならテオドールの望んで止まない人物の復活には、クロウが所持しているデータなどが必要不可欠であり、それをテオドールも知っているからだという。
自分の望みを叶えてくれる神に敢えて敵対する、その理由は何かと聞いてみたが分からないと答える。どう考えてもみても敵対して良い結果が出る答えに辿り着かず、困惑しているが故に危機感を抱いているようだ。
―体はこんなだけど出来る限りのことは全力でする。シシリーに協力してもらったのも万が一に備えてのことだ。
絶対者でありいつも余裕な男がここまで言うのには驚いたが、なぜか自分は不思議と落ち着いていた。勝てるという自信はないがそれでも何とかしなければならない。
なんとかするためにこれだけの力を得たのだと考え、すべてを最後の戦いに出し切ろうと気合を入れ直す。
―君の予定を最初に聞いておきたいんだが良いかい?
クロウからそう問われ、これまでのテオドールたちの様子などをふまえた結果、彼らの精神は限界に近くこの戦いで雌雄を決するつもりであり、こちらもそのつもりで動くと答える。
スの国にいるのは神性を持つ者のみで、あとはすべてラの国に出てくるであろうと考え、それぞれの対戦相手も設定しているとも伝えた。
さらに乗り込む前に、山の上からもう一度焔祓風神拳を放とうと思って居るというと、成功するかは分からないがやってみるべきだという。
―もはや出し惜しみ無しで出来ることはすべてやり尽くそう。数で言えばあっちが圧倒的に有利なのは変わらない。自分たちの護りを放棄してまで襲撃をしてこないだろう。
大将二人がいきなり突っ込んで来たから分からないよと言ったところ、少し間があったあとでクロウは笑い始める。ひとしきり笑ってから、神は元々わがままだがそれが子どもとなればなおさらだ、いい気味だよと楽しそうに言った。
―勘が良い君ならもう気付いているだろうが、彼らが生み出した神は君とアリーザの子どもとみて間違いない。
異世界人というだけでなく多くの加護を受けた者のDNAと、数奇な運命を辿る者のDNAという奇跡を呼ぶならこれしかない、という組み合わせだから自分でもそうすると語る。研究者としての意見を聞いて納得はするが嫌悪感しかない。
子どもという多くの奇跡と祝福を経て生まれてくる存在を、物のように扱い語るさまは自分の記憶にある両親に似ていた。最後に立ちはだかるのが蔑ろにされ物のように扱われる子どもとは、皮肉以外の何ものでもない。
―子どもであったとしても神に仕立て上げられているから、僕と同等くらいに強いはずだ。一度僕と戦っている君なら、それが如何に危険な存在か理解出来るだろう?
思い出すだけでも肝が冷えるあの戦いをまたするのか、と思うと気が重くなる。あの時いたクニウスたちはおらず、アルブラムの剣も遠くにあった。
勝ち目は薄いかもしれないが、多くの人々の支えがあってあの頃よりもだいぶ成長出来たはずだし、最後まで戦い抜く覚悟は出来ている。
「ジン! ご飯できたよ!」
ふいに声が飛び込んで来たので驚き長椅子から立ち上がり、辺りを見回すとベアトリスが後ろの方にいた。いつの間にかクロウによって元の状態に戻されていたらしく、犯人に視線を向けると寝てるふりをしている。
絞ってやろうかと思ったものの、体はウルのものなのでそうすることも出来ず、ベアトリスにも急かされたので諦めその場を後にした。
食堂に移動すると既に皆集まっていてとても賑やかだ。これが皆と共にする最後の朝食になるだろうと考え、なるべく一人一人と多く話そうと思いながら席に着く。
最後の戦いは想像以上に危険なものになるだろうけど、自分以外は必ず生きて返そうと誓いながら手を合わせる。
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