町での最後の朝を迎える
「賑やかだなぁ」
教会に着いて食事の支度をしていたところ、外から賑やかな声が聞こえてくる。なにか良い知らせでも舞い込んで来たのだろうかと思いながらも、それならこちらが対応しなくとも問題無いので、のんびり料理を続けることにした。
最初に気付いたノーブルは気になって仕方がないのか、窓の外をチラチラ見ながら調理していて危ないので、見てくるように頼むことにする。
「先生!」
そう時間も経たずにノーブルが血相を変えて戻って来た。どうやら敵が襲撃してきたものの、今兵士がなぜか不在なためこちらで対処しましょうと提案して来る。
先ほどまでの声は悲鳴には聞こえなかったのにおかしいな、とは思ったが今は敵を討伐するのが先だと考え皆で教会を出た。
ノーブルの案内で町外れまで移動したが、誰もおらず敵も見当たらない。どういうことかと彼に聞いたところ、教会を出てすぐに町の人からここにモンスターが出たと聞き、急いで知らせたと答える。
何かの罠かと思い気を広げてみたけど特に異常はなかった。ノーブルを見ると責任を感じているらしく、慌てながら周囲を捜索している。
ここのところずっと襲撃に敏感になっていたので、彼が確かめずに報告し飛び出したのは自分の責任でもあった。
襲撃が無いのならそれでよかったじゃないか、帰ってご飯を食べようと告げる。それでも粘ろうとするノーブルに対し、タクノとイサミさんがなだめてくれ皆で教会へ引き上げた。
「やぁジン! 遅かったな!」
皆で道を歩いていたが町の人が誰一人おらず、ひょっとして別の場所で襲撃があったのかもと焦り早足になる。あと少しで教会というところまで来ると近くで煌々と灯りが付いており、怪我人が運ばれて来たのかと考え足を更に早め近付く。
見れば教会の前には人だかりが出来ていて、こちらが来たのに気付くと彼らは手を挙げた。いまいち状況を飲み込めず戸惑っていたが、町長が奥から近付きながら笑顔で手を上げ声を掛けてくる。
何が起こったのか状況の説明を求めたところ、なんと激励会を開催しようと皆で話していたという。物資は被災中とあって乏しかったものの、シャイネンに事情を話し提供をお願いすると、快く応じてくれたらしい。
個人的には後のことを考えて物資を大事にして欲しかったが、他の皆には多くの人に激励してもらい辛い時の支えにしてもらおう、そう考え有難く参加させてもらうことにした。
「いやぁこうしているとゴブリンを退けた時のことを思い出すなぁ!」
町長はお酒に強いはずだが雰囲気に酔ったのか上機嫌である。娘のイーシャさんを前線に送り自分は残るのだから、酔わずにはいられないのかもしれない。
近くにいた奥様からは激励され、どうか祖母と娘をお願いしますと頼まれた。さすがにイーシャさんの横には強い叔母が居ますよとも言えず、出来る限りのことはしますと答えるに留める。
他の皆を見ると町の人たちから声を掛けられ話に花が咲いていた。自分は昼間十分話したので教会へ戻り、準備していた料理を完成させ激励会に出し皆に味わってもらう。
激励会は夜更けすぎまで行われ、片付けをしながら襲撃に備えていたものの、今日は一度も襲撃が行われなかった。
テオドールやイエミアが気を遣ったとは思えず、あちらも最後の準備をしているのだろうと考えつつ、激励会を終えた後でゆっくりと眠りに就く。
翌朝目覚め調理場に向かうとシスターが準備を始めており、急いで駆け寄り手伝いを始める。もっと寝ていても良いのにと言われたが、倒れた時に十分眠ったよと答えると笑った。
「いよいよ最後の戦いになるな」
いつものシスターらしからぬしんみりしたトーンだったので、師匠を取り戻し全員無事でここに帰ってこよう、と元気な声で言ってみる。普段なら元気よくそうだな! と言って合わせてくれるものの、彼女は黙って野菜を切ったまま押し黙った。
「ジンは本当にそう思っているのか?」
言いたいことがあるようだけど、無理に問うのを止め支度に集中していたところで、ふいに切る音が止みそう聞かれる。もちろんそう思っているよと答えたが、こちらを向いて言えるかとたずねてきた。
師匠を助けたいと思っているし、自分を覗いて全員無事でここに帰ってくる、そのためにこれまで時間を割いて準備をしてきており嘘偽りはない。
シスターの方を見ながらもう一度同じことを言って微笑む。彼女は納得したのか微笑みながら頷き、なにか言おうと仕掛けたところで皆が起きてくる。
賑やかになり言いかけた言葉を飲み込むと、シスターは皆と楽しそうに話し始めた。
―最後の戦いだっていうのに賑やかだねぇ
シスターたちにゆっくりしててと調理場を追い出され、一人聖堂の長椅子に座っていたところ、クロウから声を掛けられる。最後の戦いだからテンションが上がってるんだよと言うも、緊張感が無いだけだよと言い切った。
沈んだ空気のまま行くよりはいいと思うけどと返したが、そんなに気楽な相手じゃないのはわかっているはずだ、といつも以上に強く言ってくる。
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