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シンラ、再度現る

「そこか!」

「いい加減森を荒らすのは止めろ! お前らの信仰してたものは森を破壊しろって説いてたのか!?」


 岩を粉砕しレイメイとジロウとの距離を詰める。あと一歩と言う所でまたしても氷柱が複数飛んで来た。肩に居るシシリーが耳を斜め右後方に引っ張ってくれたので、その方向にバックステップして事なきを得る。


―気を付けろ二人とも。ソイツは何か憑いている―


「え!?」

「な、何かって何じゃ」


 見えない声に言われてレイメイは動きを止めて驚きの表情を見せ、ジロウはビクッとして単眼を見開いたままになる。これはチャンスなのではなかろうか。視線をシシリーに送ると彼女もこちらを見てニヤリとした。悪戯は妖精の得意分野だ。ここは先生にお任せしよう。


「アーーーー」


 シシリーの透き通るような高音が森に響き渡る。それに対してレイメイとジロウはビクリとして体と杖を跳ね上げた。一人と一本は別々の方向をキョロキョロしだす。彼女たちの頭の上から葉っぱがひらひらと舞い降りて来て、素早く移動して避けるも葉っぱは追い掛けてくる。


―な、何をしているのだお前たち。アイツを倒すのだ―


 見えない声も動揺しているのか声のトーンが上がった気がする。そもそもコイツはシンラなのか? 何か違和感を感じて来たんだが。シシリーが彼女たちを追い掛けている間に、さっき氷柱が飛んで来た方向へ草むらに身を隠しながら移動する。


―己……何処へ行った!?―


 どうやら有難い展開になったようで、相手はこちらの姿を見失ったようだ。だがそう長い時間持たないだろうから、何とか早いうちに姿だけでも確認しないと。そう考えなるべく音を立てないよう膝を地面に着きながらハイハイをするように移動する。


―そこか!―


 氷柱が飛んで来たがそれは隣の草むらに突き刺さった。姿を隠すのはここまでにしようと立ち上がり姿を見せる。視線の先にワインレッドのローブを着てフードを深くかぶっている人物が居た。見た目はシンラだがあの時感じた威圧感が若干弱く感じるのは距離の所為だろうか。


「やっと出て来たな虫けらめ」

「一寸の虫にも五分の魂って言葉を知らんのか? ……いや知らんか」


「なにをごちゃごちゃと……喰らえ!」


 右手をこちらに突き出し光らせると円が現れその中を光る文字が走り出す。氷柱が出てくると察し俺は的を絞らせないようジグザグに動きながら距離を詰める。向こうの魔法は底なしなのか次々と氷柱をこちらへ向けて放つ。


「このっ!」


 移動し続け避け続けた結果、流石に体力の消耗が激しくいつもなら躓かないような地面の盛り上がりに躓いてしまう。咄嗟に盾を下ろして前に出し、氷柱から身を護るのを試みた。


「チィッ! 何故貴様がそれを持っている!?」


 何とか氷柱を全て防ぎ切り素早く立ち上がると、何故かシンラは後退っていた。そんなに驚く物なのだろうかこの盾は。自分の手で滅ぼした騎士団だから今更良心の呵責に耐えられなくなったとか?


「ほらほらお前が滅ぼした不死鳥騎士団の盾だぞ!」

「やはり貴様それを知っているのか! そうと分かればこんなところに長居は無用!」


「逃がすか!」

「安心しろ。事が済めば貴様も必ず殺す。そうでなければ不味いのでな」


 シンラは捨て台詞を吐いて地面の中に沈んで行った。この盾を俺が持っていて不死鳥騎士団の話を知っていると何の問題がるのだろう。それに盾に驚いたのは良心の呵責などではなく氷柱を防いだからっぽいが、普通の盾では防げないのだろうか。


「ああああ!」


 人が色々考えようとしてたところに男女の悲鳴と言うか雄叫びが飛び込んで来て妨害される。声の方向を見ると、レイメイとジロウがこちらに向かって走って来た。勿論後ろに居るのは上機嫌のシシリー大先生。


レイメイとジロウは俺の背中に隠れようとしたが、コイツらに背後を取られるのは怖すぎるので振り向いて肩を掴む。俺は落ち着けと言おうと思ったが、ここはシシリー大先生の悪戯に乗ろうかと考えた。


「お前たち、聞こえるのか……?」

「な、何が!?」


「意味ありげにいうなボケ!」


 無表情で口だけ動かしながらレイメイたちを見る。そして目を見開き小刻みに震えながら


「先日取りつかれたんだ……!」

「何によ!」


「何なのだ!」

「不死鳥騎士団の幽霊に……! この盾を持ったら手から外れないんだ……そして毎日夢に見る。”助けて……! レイメイとジロウに会いたい……!”って」


 震えを止めず、目も見開いたまま両掌を見るべく俯く。間を開けてから再度前を向き、顔を歪めるながら白目を剥いてみせる。それと同時にシシリー大先生の


―タスケテ……コロサナイデ……ー


 と言う素敵な合わせ技により、レイメイとジロウは絶叫する。そして掴んでいた俺の手を振り払い、一目散に森の奥へと消えて行った。それをシシリーと満足した表情で見送る。サムズアップして見せるとシシリーはその親指に自分の手をあてた。


会話を聞いた限りゴブリンを召喚したのはあの二人では無い様だし、この国を攻めている理由も知りたい。ただ倒すだけなら出来るかもしれないが、あの二人はまだ会話が成立しそうだから出来れば生かしたまま捕らえたい。


俺に何か憑いているという種を一つ蒔いて植え付けたので、次回もこの手を使って捕らえるのを試みようと考えている。向こうから仕向けてくれて助かったし、シシリーの悪戯心が爆発した御蔭だ。肩に座りながら満足げな表情のシシリーを見て微笑む。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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