蜃気楼を追うものと故郷を眺めるもの
彼にも異世界人の血が流れてはいるが、異世界人がいることで星のバランスが崩れ、ひょっとしたら未来を捻じ曲げたかもしれないと思った。敵にも味方にも強烈な異世界人が居ることで、ノーブルは勇者となれず藻掻いていた。
今後の世界のために最終決戦の場までは連れて行き、少し経験させた後で後退させる予定でいる。人外たちが居なくなった後の世界にこそ、ノーブルのような勇者は必要だと思っていた。
汗臭く泥臭い姿こそ人の胸を打ち世を動かす力となる。おっさんぽいなとは思うが、自分が人気が無いのが何よりの証拠だった。畏怖され頼りにされはするが人が集まるのは彼の場所である。
まだ日数が浅いにもかかわらずこの国でも存在感を示していた。異世界に来て色々恵まれはしたが、どこの世界でも生まれ持ったものがある。
生まれた頃から大人以上の強さがあった司祭、生まれた頃から愛され育まれたノーブル。同じノガミでヤスヒサ王の血を引いていても、対照的な二人を見ると才能と同じくらい環境や気質も大切だなと思った。
色々な人の助力を得て強くとも、ただ一人想う人すら救えない自分からしても彼は眩しすぎる。そういった意味では司祭と同じなのかもしれない。
自分と違うとすれば司祭はまだ戻れる場所がある、教徒たちに心を砕いていた頃に戻れたら、ノーブルのようになれる可能性があるのだ。
気付いた瞬間、師匠たち家族にまとめて恩返する機会が巡って来たんじゃないか、と思い至った。彼に対して気付きを与えるにはどうしたらいいかと考えた時に、以前こちらがやられたように全力を出させたうえで叩き潰せば、強さ以外に求めるものが見えるのではないかと考える。
ならばもっと煽らなければと思い、どんな台詞が彼の逆鱗に触れるか考え始めが、やはりシンラの件以外無いだろう。以前の彼とは違う異質で強大な力は、命と引き換えにして手に入れたものだ。
生死の際に居ない司祭では、あの力には到底敵わない。きっと彼もそのことにはなんとなく気付いていると思い、シンラの件に触れれば確実に刺さると確信した。
「君に何が分かる? 急に強くなったからって良い気にならないでもらいたい」
「強くならざるを得ないからな、この戦いの後片付けをするには。ハッキリ言うが司祭は最後の戦いには来ない方が良い。シンラも情けを掛けられる状況ではない」
狙い通りこちらの言葉は彼の逆鱗に触れたらしく、目は赤く染まり縦長の瞳孔が開き体から気が炎のように吹き出す。変身するかと思いきやそのままこちらに攻撃を仕掛けてくる。まだ手加減してくれるらしいと思い笑ってしまった。
癇に障ったのか猛攻を仕掛けて来るも、教会が危ないと考え町の外へ移動しながら避ける。こちらには周りを気にする余裕がある、というのを理解すれば変身一択だと思うがまだしないようだ。素早く大きく後ろへ飛び退き塀を超え森へ戦いの場を移す。
先に変身して余裕を見せるのもありかとも考えたものの、それよりはこのままで戦い業を煮やして変身させた方が、より効き目があるだろうと考えそのままにした。
外殻装着していなくとも司祭は強いのは間違いないものの、シンラの強さには遠く及ばない。シンラに敗れてもジンには負けていない、そう思っているから出し惜しみしているのだろうか。避けながら軽く攻撃を当てて行き、今のままでは無理だと言うことを教えていく。
こちらも通常状態のままだが、白蓮花モードを会得したことで底上げされている。怒りも憎しみも悲しみも無く、向かって来る感情に対しても取り合わず、攻撃されているという現象を無効化するというのは共通だった。
攻撃と防御の流れももはや切れ目が無くなり、イサミさんとの稽古で高速化にも成功している。司祭との差は家族がいるかどうか以外はほぼ無くなった。司祭には神と戦う前にその大切さを思い出してほしい。
家族というのは時に重たく消し去りたいものかもしれないが、時に見えない力で魂を大地につないでくれる。昔の偉人かなにかが言っていた、重荷を背負って遠い道を行くのが人生だという言葉を思い出す。
自分のようにすべて失った者と司祭は違う。背負う喜びというのもある、という考えに至れるようになってほしいと願った。
「他のことを考える余裕があるようだね」
「司祭のお陰で」
速度もパワーもさらに増したがそれでも驚くことはない。どうあっても昔のこちらのイメージに囚われ曲げないようだ。ならばとこちらは攻撃を多めにするようシフトしていく。司祭は防戦一方となり、あっという間に町の塀まで来てしまったので慌てて後退する。
こうまでしても外殻装着をしない彼に対しどうしたものかと考えた。何か理由があるのかもしれないと思い、なぜ変身しないのかと問うもうるさいの一言で一蹴されてしまう。このままでは埒が明かないと考え、致し方ないが顕現不動モードへ移行する。
左手首に羂索を出し司祭へ向けて放ち縛り上げ、そのまま山の方へ思い切り放り投げた。叩き付けられる前に踏ん張り浮遊したところへ、飛び蹴りを食らわせ山へ叩きつける。受け身を取ったがそのまま飛び跳ね距離を取った。
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