月明かりに蠢く
「そういう見透かした態度がゲームをつまらなくするのですよ?」
彼の口振りからしてこちらの読みは当たっているらしい。シンラが先にそれとなく知らせてくれたお陰か、不思議と心構えは出来ている。元々家族などいなかった自分がまたただ一人になるだけだ。悲しいし辛いがお世話になった人々へ恩返しをするべく、戦いが終わっても生き残る人たちを鍛えることに専念していた。
テオドールたちが生み出した隠し玉の尻拭いをすることが、自分にとってのこの戦いの終わりになる。最終決戦には稽古をしている者はほとんど連れて行かないつもりだ。彼らと共に戦うのは次が最後なので敢えて時間をかけることにした。
「つまらなくしたのはお前たちだし、ゲームをしていると思っているのもお前たちだけだ。こちとら色々忙しくて優先順位を付けて動いている。相手にしてほしかったらそれなりの態度でくるんだな」
自分の思うようにいかないから煽りに来ただけかと思ったが、相手にしないと面倒そうだしストレッチを続けながら対応する。おっさんなのでストレッチに関してはどれだけ時間をかけてもいい。以前ならそこまでしなくても翌朝には元気いっぱいだったものの、皆の成長が著しく余裕で相手をするのも難しくなり始め、若干体の重さを感じるようになった。
こちらが厳しくなっているのは良い傾向であり、出来れば上がりきるまでレベルアップをしてから戦いに臨みたい。もうあちらから餌をぶら下げられたところで、こちらは焦ることはないだろう。これまでの三国を見ればわかるが、急いで向かったところでどうにもならない。
救えたとしても途方もない時間をかけた挙句、意識が戻るか精神が回復するか分からない、そんな人々を前にしてただただ無力を痛感するだけだ。ならばこちらの都合で攻めたところで、文句を言われる筋合いはない。
「そういうことでしたらこちらにも考えがありますねぇ」
「いつも考えてるだろう? 俺に対して嫌がらせしなかった覚えがあるのか?」
本題まで長いなと思いつい食い気味で返してしまったところ、テオドールは歯ぎしりをし始める。彼らの陣営的には隠し玉も完成しラの国で待ち構えているだけなのに、余裕が無いのはなぜだろうかといぶかしむ。どうみても彼の方が余裕が無いのは明白であり、そうなるとこちらは余計に時間をかけた方が有利になる、という答えに行きつく。
性格がひん曲がり絶望的に悪い彼を苦しめることが出来るとすれば、それは未知の隠し玉しかありえない。神を作り出したとして人間の指示に従うとは思えず、さらにそれが子供だとすれば彼の手に負えるはずがない、というのは容易に想像出来た。
いつの時代も自分たちの手に負えると思って作った物が、過ぎたものだったというのもよくある話である。この世界の神であるクロウですらやらないことを、及ばない者たちがやれば破滅するのは必定だ。
「どうあっても攻めてこないというなら、攻めたくなるようにしてやるまでだ。明日から毎日時間を問わず、戦いが終わるまでランダムにこの国を襲撃する」
内心皆の修行が進むのでラッキーと思ったものの、バレないよう睨みつけてみた。彼はこちらの表情にご満悦らしくようやく笑顔になる。自分の中で満足したのか、せいぜい楽しみにしていてくださいねと絶叫し去って行った。
正直一日の終わりで良かったと胸をなでおろす。清々しい朝にあれとの会話をしていたらと思う陰鬱な気持ちになる。今日の夜からと言われたらどうしようかと思ったが、来ないと見せかけて来そうな気がしたので、町へ戻り唯一無事だった教会の屋根の上で寝ることにした。
「いつから向こう側になったんだ?」
近くにあったボロボロの毛布を屋根に重ねて引き、月明かりを浴びながら寝そべっていると拳が飛んで来たので右手で受け止める。こんなところで襲撃してくるとしたら一人しかいない。目を開けると予測は当たり、司祭久し振りと目の前の人物に挨拶をした。
「なにやら襲撃イベントがあると聞いてね。わざわざ参戦に来たのさ」
「こっちに構っていて良いのか? 俺はもうシンラと戦う準備も連中が作り出した神と戦う準備も、両方とも出来ているが」
司祭は自分以上に強い相手を生み出すために騒乱を起こすべく、裏で暗躍し暗闇の夜明けに加担している。彼の願いは晴れてかない、元々目を付けていた異世界人ではなくこの星で生まれた男、暗闇の夜明け首領のシンラに倒された。
白蓮花モードを会得した自分だが、司祭をあっさり倒したシンラを倒せるかどうか今でも不安はある。命を懸けて変化した彼の輝きに対し、こちらも命を懸けて望まねばならないと覚悟していた。
「随分と短い期間で差を付けられたものだ」
「司祭の望みは叶った。戦うも避けるも勝手だけど、スの国での戦いは戻ることを考えない者たちだけが集う会場だ」
受け止めている拳の腕を押し逸らすと、そのまま突き飛ばして立ち上がる。司祭なら間違いなく戦うことを選ぶだろうが、見下ろしていた時とは違い挑戦者の立場である、ということを自覚していなければ立つことも叶わない。
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