稽古が続く中で
そう言えばこの技の名前とかあるのだろうか
―穢れることのない白
こちらの問いに素早く答えてくれる不動明王様素敵だなぁと思いつつ、拳を引きながら突っ込んで来たシスターを見た。彼女の目は黒目が赤くなり瞳孔が盾に開いている。恐らくこれは竜人族の力を発揮しているという現れなのだろう。
「くらえ!」
技名もなにもなく勢いよく赤い気を纏った拳を突き出して来た。こんなもの素で受けたら間違いなく即死してたに違いない。
「穢れることのない白!」
不動明王様に教えて頂いた名を叫びつつ気を両手に集め、蓮の花を模った気が花びらを広げ拳を受け止める。衝突と同時に衝撃波が起こり遅れて風が起こった。シスターは何度も押し込もうとして来たが、気で出来た蓮の花は揺れもせず受け止める。
粘りに粘ったもののこれ以上は無駄だと悟ったのか、彼女はバックステップしてから腰に手を当てて声を上げて笑った。しばらくすると参った参ったと言ってイサミさんを向き、手を上げ近付いて行くとタッチする。
どうやら交代のようで次はイサミさんとの稽古が始まった。ヤスヒサ王とエルフ出身の母を持つ彼女は化勁に長けているため、こちらから攻撃を仕掛けることにする。彼女の防御力が高いとは思えず直撃すると怪我しかねないと感じ、軽く押す程度に留めることにした。
しばらくこちらが一方的に攻め軽く押し続けていたものの、動きやクセを読んだのか徐々に押すことが出来なくなり、イサミさんも投げを試みてくる。シスターもあの一発で納得したが、時間をかければ打ち合いに持ち込めたのは間違いないだろう。
シスターも司祭と兄妹だから強いのは当然であり、これまで本気で戦うと言うことが出来ていなかったもしれない。なんとか修行相手になれれば良いなと思いつつ、イサミさんとの攻防は速度を上げつつフェイントを混ぜ、技の達人ならではの戦いへと変化していた。
白蓮花モードを会得するにあたり、攻防を意識せずあるがままに受けて返すような心持になっており、イサミさんとの稽古は彼女の技量を受けて返している。最初は劣っていたが徐々に同じレベルに引き上げられ、得るものが多い稽古となった。
「ありがとうございました。ジン殿がここまで凄くなるとは思ってもいませんでしたが、これで私も本気で稽古できる相手が出来て嬉しいです」
イサミさんは手を止め距離を取るとそう言って礼をする。大変勉強になりましたとこちらも言って頭を下げた。次の稽古に向けて白蓮花モードを解いたものの、皆から解かないで相手をしてくれと言われ、どうしたものか考えたが望むならともう一度移行する。
ウィーゼルを始めルキナたちも待ってましたとばかりに、これまで出してこなかった魔法などを駆使して思い切り攻めて来た。こちらが気を遣っていたように、彼女らも気を遣われていたのかと思いつつ、皆の本気と向き合いながら稽古をする。
楽しくて集中している間にあっという間に夜になり、皆も疲れて来たように見えたため切り上げることにした。翌日からは稽古のみに集中することにする。もうそれほど時間が無いので、出来る限り皆のレベルアップに専念したかった。
稽古に専念し始めて三日ほど経った日の昼に、ノーブルとエレミアが顔を出してくれる。二人とも経過は良好だったがまだ無理は出来ず、見ているだけだが終わりまで見守ってくれた。特にノーブルは怪我をしていることを心底悔しがる。
魔法があるのに不思議だなと思い、魔法でさっと全快させればいいと告げたもの、シスターからそれはやらない方が良いと言われた。治癒魔法と言えど、結局は個人個人に備わっている代謝を強引に促進させるだけらしい。
人間族の細胞にも限界があり、無理やり回復を早めても前借しているだけになると彼女は言う。寿命を縮めてしまいかねないらしく、使用する側にも知識が求められる故に使用者を限定しているとも付け加える。
知識が無いくせに勝手なことを言って申し訳ないと謝罪し、ノーブルにはゆっくり休んで治すよう指示した。
「随分とのんびりしたものですなぁ!」
ノーブルたちが様子を見に来てくれた日から二日ほど経った夜、ストレッチをしていると聞きたくもない声が鉱山事務所で聞こえた。開戦のお知らせかとたずねると眉をひそめ、なぜそんなに余裕なのかと問われる。
余裕などからっきしないが、今行ったところでこちらに勝ち目がないからだと答えた。するとテオドールは歯ぎしりし始める。相変わらず他人を不快にさせることに全力だなぁと呆れたが、何しに来たのか聞かないと危険なので、ストレッチをしながら待つことにした。
「あなたはさっさとラの国を攻めるべきです」
「いつからお前は俺の軍師になったんだ?」
こちらが求めている回答ではないので、即答して返すとしかめっ面をする。最早読み合いもクソも無い、互いに全力を出し合いぶつかるだけだ。急いだところで結果は変わらないし、そういう結果にしたお前たちに焦らされる覚えはない、ときっぱりと言い切ると唾を吐いた。
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