未来に種を蒔きたいおじさん
「そろそろ視界も戻り始めてきたろうし、攻撃して来てはどうだ?」
どれくらいまで素早い攻撃に対応出来るのか試したくて、ついつい回避のみずっと行ってしまったと反省する。あの時と変わらず一方的に鍛えてもらってしまっては悪いので、こちらからも攻撃することにした。
間合いを詰めたと同時にライデンは腕を交差させる。最初にこちらが受けた時の再現かと思いながら、あの時の彼と同じように拳を思い切り腕へ叩きつけた。ゴン、という音が周囲に響き渡ったが一歩も後退させられない。
さすが最強の竜人と感心したものの、当の本人は納得いかないのか首を傾げる。
「うーん……お前は人間族の殻を破ったとは言え、こんなに強くなれるものなのかと思ってな。ヤスヒサ王が近いのだろうが、あいにく手合わせの機会に恵まれなかったので何とも言えん。だがティーオは次生きて会えたら褒めてやりたい! よくぞ俺の楽しい時間を作ってくれたと」
この世界の神様によってチートされました、とは嬉しそうな顔をしているライデンには言えず、空笑いで誤魔化した。彼に手招きされ攻撃を再開したが、当たるタイミングなのに綺麗に避けられてしまい、一度も直撃を与えられない。
まさかそんなに簡単に当てられるとは思っていまい? と言われ、チート能力が正しく修正されてもこちらが余裕を持てないなんて、クロウも凄い種族を誕生させたなと笑ってしまう。彼の上に竜族という最強の種族が居ると言うのだから驚きだ。
竜族たちを退けたヤスヒサ王と比べられるのは過大評価だと言うと、それは俺が決めることだと言い放つ。こちらとしては比較とかよりも限られた時間の中で、自分の実力を確かめることの方が大切である。
今度こそ一撃をと気合を入れ直しライデンへ攻撃を仕掛けた。昼を過ぎ夕方を過ぎても一撃も入れられず気持ちだけが焦る。夜になると彼も反撃をし始め難易度は上がり続けた。このままでは当てられもしないが当てることも出来ずに終わる。
最終決戦へ挑む前のこの大切な修行で、ライデンに不意打ちでしか当てられず終わるのだけは避けたかった。甘い考えかもしれないが、チート能力の補正を受けパワーアップしたからには、仲間をいけるところまで連れて行き経験させ生きて帰したかった。
テオドールたちの起こした戦いを勝ち抜いても、この星に生きる人々にはプラスになることはほぼない。天災としか言いようがないけど、それだけで終わらせずにこの星の誰かに未来への種を蒔きたい、と考えている。
負ければ絶望しかなく勝利しても得るものはなにもない、こんな最低な戦いを勝利し生存した経験は大きいものとなるだろう。最強の竜人相手に一撃も入れられないようでは、そんなものは夢のまた夢だ。
自分の望みや希望は正直厳しいことは承知している。だからこそ種まきへのこだわりは持ちたい。恐らく大地の守護者としての使命も、テオドールたちを倒せば御終いになる。例え自分には何一つ残らなくても、後ろに続く人たちに未来の光を渡したかった。
おっさんらしい考え方だなとは思うものの、事実おっさんだし最後はおっさんらしく終わってもいいだろう。先生が魔法によって繋いでくれた命を、先生の生徒として異世界ではあれど胸を張れる結果をもって、価値があったと示したい。
元々集中していたがより深く集中していき、司祭との戦いで初めて出現した超回避へと入る。あの時とは少し違い、避けて返してがスムーズに出来るようになっていた。攻撃をぶつける時に倒したいとか倒れろとか思ったりするが、良いのか悪いのか心の中は無そのものになり始める。
次の日の朝を迎えようとした時、攻防のスピードが上がりライデンの次の行動がはっきりと見え、拳が伸び切る前に手を当て潰せた。蹴り、体当たり、翼打ち、すべてを出切る前に手で押さえ彼の攻撃に迷いが生まれていく。
修行の始まりから色々考えていたし、一撃当てたいと焦りもあったものの、気付けば何も無くなっていた。例えるなら寝起き直後の、起きているのにここに無い感じに似ている。迷うライデンはそれでも攻撃を止めなかったので、すべての攻撃の先手を打ってみた。
「な、なんだそれは……!?」
ようやく攻撃の手を止め距離を取ったライデンは、こちらを指さして驚いている。何だろうと思い自分の掌を上に向けて俯いてみたところ、なんと白い湯気のような気を身に纏っていた。破邪顕正モードが解除され呪術法衣のみ纏っており、これはもしかしてヤスヒサ王の力の一つなのだろうか。
―煩悩滅して仏の心に近くなる、白蓮花の心
久し振りに不動明王様の声を聴きこれが新たな力なんだと知る。白蓮花の心、白蓮花モードと言ったところだろうか。基礎能力も上がったがさらなるモードも発動し、修行の必要が出て来たなと思い身構えるも、
「お終いだお終い」
と言ってライデンは竜人状態を解除して腰に手を当て笑った。まだなにも終わってないがというこちらに対し、俺の中では今回の戦いは終わったと言う。
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