シシリーへのプレゼント
「何だったのかなあの人」
「全然分からん。妖精だったんじゃないか?」
「あんな妖精居ないわよ! でも人間て感じじゃなかったのは確かよねあの人」
妖精であるシシリーのお墨付きなら間違いないと思うが……。もし仮にそうなら、今ある知識から導かれるのは暗闇の夜明けか竜神教の関係者だろう。覆気を知ってるから竜神教なんじゃないかな。
「ベアトリスどうしたの? 難しい顔して」
シシリーがベアトリスの方を見て首を傾げたので見ると、ベアトリスは顎に右手を当て難しい顔をしながら俯いていた。
「うーん、何かあの人と似たような恰好の人に会った覚えがある様な無いような? それとさっきの貴族の人も」
「え、そうなの? 顔は見てない感じ?」
「うん……見えなかった」
「夜に会ったの?」
「……あ、マゲユウルフだ」
ベアトリスが何時だったか記憶を漁る為にか視線を横へ移動させると直ぐに指さした。それを見るとマゲユウルフたちが草むらからこちらを見ている。敵意は無い様だし警戒していない訳では無いけど最初の時と少し違うようだ。
「多分嫌な感じが無くなったから見に来たんじゃないかしら。この子たちの森だから直ぐに気付くだろうし」
「そっか。これでヨシズミシープの柵に来ないでくれると倒さなくて済むんだけど」
「まぁ様子見しかないわね」
「そう言えばシシリーはヨシズミシープが襲われると何で困るの? 住処からここは遠いみたいだし」
「え!? あ、ああまぁその……い、色々あるのよ! 人間だけがあの子たちの毛を良いと思ってる訳じゃないのよ!? 元々自然に居たんだし!」
ベアトリスにツッコまれ慌てて釈明するシシリー。なるほどシシリーの身に着けている洋服とかデザインも凝ってるけど艶があって高級感もある。ヨシズミウールが使われているとしたら納得だ。
「まぁまぁ、こうして一緒に町を救ってくれたんだから皆気にしないでくれるよきっと」
「に、人間が使う量よりすっっごく少ないしぃ」
「それもそうだね。ていうかシシリーに今回のお礼に何かプレゼントしない? 裁縫道具とか」
「ホント!?」
ベアトリスの提案にシシリーはひらひらと空中を飛びながら舞い始める。俺たちはマゲユウルフたちが去ったのをしっかり確認してから牧場へ戻った。
「御帰り! 様子はどうだった?」
「マゲユウルフたちは山の奥の方へ去ったのを確認しました」
「そうか、ご苦労様! とても助かったよ。また是非頼む」
クライドさんから完了のサインを貰い、牧場を後にする。その足で町の中にある手芸店へ赴いた。シシリーは俺の鎧の隙間に隠れて商品を見て、良いものがあったら声を上げる手筈になっている。手芸店は女性方がとても多く、洋服の話に花を咲かせていた。
むさいおっさんが一人ではとても入れないが、ベアトリスが居てくれるので普通に入れるのが有難い。この世界で肌着はリーズナブルではなく結構な値段がするので、一着買ってボロボロになるまで着るのが通常だ。
なので洋服屋はあるものの、多くの国民は誕生日などで購入する以外は自宅で生地を買って服を作る人も多いと聞く。また産業として縫製工場が国営であり、例のヨシズミウールを使って作った洋服を他国へ輸出している。
「あっ」
店内をうろうろ見て回っていると、胸元から小さな声が上がったので直ぐに足を止めた。そこには綺麗な装飾の箱に入れられた針があった。子供用の小さめのやつで一号から五号まで針の太さが違うものが五本入っている。
価格を見ると百二十ゴールド。これは中々な代物だが、これからシシリーに色々世話になるだろうし得難い人物だと思うのでここは奮発しよう!
「すいません、これください」
「え!? あ、はい! ただいま!」
奥の方に居た店の女将さんに声を掛けると、驚いてカウンターから出てこちらに来た。流石に高級なものなので鉄の箱にガラスが付いた物の中に入っていて、しっかりした錠前が付いている。女将さんはエプロンのポケットに入っていた鍵を取り出しそれを差し込んで開け、針の箱を持ってカウンターへ戻る。
俺たちも付いて行きカウンターでお会計を済ませて手芸店を出る。一旦そのまま町を出て森に行き、誰もついて来てないのを確認してからシシリーに出て来てもらう。
「い、いいいい良いの!?」
「勿論。これからもよろしくな!」
そう言って掌に乗せてシシリーに渡す様に出すと、目を輝かせながらも宝箱に近付くように慎重に来た。俺はその様子が面白くて驚かす様に前に出してみたが怒られて指を蹴られてしまう。
「有難うね……大事にするわ!」
シシリーにとっては旅行用トランクを持つような感じの大きさの針箱を、両手で持ち飛び回った。暫くして気が済んだのか感謝の言葉を言うと、ゆっくり落とさないよう持ちながら移動し森の中へと消えて行った。シシリーを見送り、俺たちは再び町に戻りギルドに依頼書を出し報酬を受け取った。
ベアトリスは針箱のお金を自分も出すと言ったが、主に紋様関連の問題に対応して貰ったお礼だからと断る。その代わりにと甘味処でサガとカノンも加えて御馳走して貰った。
「おはようございます……」
翌日いつも通りの朝を終えて教会へ行くと、ティーオ司祭がとても苦い顔をして俺を待ち受けていた。対してシスターはニヤニヤしているのが気になる。俺は何があったのか問うと逆にティーオ司祭から昨日何があったのか問われ、例の人物との会話を思い出した。
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