ゲマジューニ陛下
元凶二人は自分で集めた人材だろうにと言いたかったが、今さら言ったところでどうにもならないので止めた。もはや最悪が確定したと言っても過言ではないので、イエミアとテオドールをまとめて相手にしても勝てる、それくらいまでに短期間でレベルアップする必要がある。
恐らくだがイエミアを倒さないと師匠の洗脳も解けないだろうから、ラの国で出て来られると非常に不味い。クロウは素人が出られる最後の国と言っていたが、師匠が出てくるとなればそうもいかないだろう。
司祭も倒されたのでラの国では人数として数えられないだろうし、荒っぽいが焔祓風神拳を離れたところから打って、少しでも数を減らしてから乗り込もうと思った。こちらが向こうに比べてアドバンテージがあるとすれば、この世界から見れば異世界の神様である不動明王様が、幸運にもお力添えして下さっていることだ。
本来であれば真っ向勝負が基本ではあるものの、戦力差が激しく補給もままならないとなれば、この方法を取らざるを得ない。ヨシズミ国は復興に全力を尽くすだろうけど、その邪魔をしてこないとも限らないので早々時間も掛けられない。
地図の位置的にもスの国は丁度真下にあり、天然の要害があるとは言え敵の一国が減ったとしても、油断が出来ない状況にある。
「ジン様!」
考えているうちに城の受付を通り過ぎて来てしまい、声を掛けられ慌てて思い切り踏ん張って速度を落とした。戻って遅れて戻ってすいませんと謝罪したものの、こちらこそ何も出来ず申し訳ないと謝られてしまう。
陛下は無事ですかと尋ねたところ、お仲間や宰相閣下の御尽力で怪我一つなくご無事です、と教えてもらいホッとする。仲間が看病してもらってると聞いて来た伝え、面会を求めるとこちらへどうぞと先導してくれた。
いつも陛下たちと会う部屋に通され中に入ると、エレミアがソファに寝かされており顔や着ているものを見ただけで、満身創痍だと言うのが分かる。最後は一人で強敵を受け持ってくれたことに心の中で感謝をし、頭を下げてから中に入るとベアトリスとルキナだけでなく、王妃や王女それに陛下までいて驚いた。
「陛下、遅れてしまい申し訳ございません」
「お前に謝られることは何一つないどころか、こちらが謝らねばならん。お前の仲間を犠牲にして私は生き延びたのだからな」
かしずき謝罪すると陛下は膝を折り、こちらに対して謝罪し頭を下げる。陛下が無事であればこそヨシズミ国は存続できるのですと言うも、自分の無力さを痛感させられてばかりだと項垂れた。あの陛下がここまで落ち込むとはと思ったが、国民は災害に遭い心だけでなく体も疲弊している。
このままこの人まで心が折れてしまっては、誰が復興への旗手となるのか。立ち直らせるのは直ぐには無理でも、ここは走ってもらわねばならない。力強く呼びかけ背筋を無理やり伸ばしてもらい、そのあととつとつと説得してみよう。
「陛下!」
「ジン……」
「大きな声を出してしまい失礼を致しました。ですが今陛下の心が折れてしまっては、誰が傷付いた民を護り導くのでしょう。皆は陛下こそが柱であるからこそ身を挺してお守りし、諦めずに消火活動をしております。悔しい気持ちは理解致しますが、今はそれを吐露する時では御座いません。辛くともどうか背筋を伸ばして皆を導いてください。それは他の者には出来ない役目です」
すべてが終わって自分が生きていられたら、その時は共に辛かったことや悲しかったことを、朝まで語り合いましょうと付け加える。陛下はこちらの想いを汲んでくれ素早く立ち上がり、胸を張ると王族としての役目を果たそうと言って部屋を出て行った。
王妃と王女も陛下に続いて部屋を出て行き、それを見て先導してくれた兵士もこちらに一礼し後追っていく。陛下が無事だったことは本当に幸運で、失った場合は国民すべてを別の国に移送しなければ、混乱を納めきれないだろう。
「ジン」
「エレミア、すまない大きな声を出して」
陛下に檄を飛ばしたことで起こしてしまったようだ。急いで駆け寄り膝を付いて手を握ったが、手も傷だらけだったので急いで復気を発動する。少しずつ回復していき、やがて表情も和らいでいくと再度眠りに就いた。
気を感じた限りではなんとかこれでゆっくり眠れるはずだ。ベアトリスとルキナは泣きそうな顔をしていたので、二人を同時に抱きしめよく頑張ったと褒める。二人は声も出さずに泣きしがみ付く。色々な思いを抱えながら、それでも足を止めずに看病したりしてくれたことは、本当に感謝しかない。
初めてあった頃よりも本当に強くなったな、と二人に語り掛けると声を出して泣き始めた。この先二人には仇を討たせてやれないかもしれないが、それでも自分が褒めたことが少しでもプラスになってくれれば、と願いながら抱きしめる。
恐らく二人にしてやれることは、もうそう多くはない。相手の最後の切り札と戦えば無事では済まないし、生きていられたとしても五体満足でいられるかどうか。
「二人もそこのソファーで休みなさい。疲れていては皆の力にもなれないだろう?」
泣き止んだ二人を優しく諭しゆっくりとソファーに座らせた。でもといって外へ出ようとしてきたので、復気を二人に掛ければ回復効果でリラックスするかな、と思って掛けてみる。少しすると瞼がおり二人とも眠りに就いた。
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