テの国最終戦
「糞ッ! こうなったら仕方がない……あれらの回収は諦めて別のところで他の者たちを捕食する!」
攻撃を止め一旦距離を置いた後でそう言い、大きく息を吸い込むと腹部が膨張し狸の置物のような格好になる。明らかに何かを吐き出そうとしていたので、飛び掛かろうとしたが何かに足を取られた。見ると白い獣人の手が地面から生え掴んでいるのが見える。
「猛毒爆撃!」
口を大きく開け空へ紫色の球を吐き出しそう叫んだ。急いで三鈷剣を地面に突き刺して足を掴んでいた手の主を倒し、動きが取れるようになったのを確認して球を追うべく走り出した。
「私を忘れてもらっては困る!」
後ろから殺気が迫り直撃を避けるべく木の間を縫うように走る。バキバキ音がしており相手はなりふり構わず木を薙ぎ倒し、最短距離でこちらに向かっているのが分かった。球を追ってはいるものの、あれをどうしたら掻き消せるか案が浮かばない。
―蒸発させれば良いんじゃないの? 妲己は明らかに邪悪な存在で、あの技も無差別テロ攻撃だから邪悪そのものなんだし。
思念を飛ばしてきたウルクロウの提案に頷きはしたが、走りながら相棒であるシシリーにも意見を求める。彼女もあれを燃やして全て消し去るべきだと言った。加えて少しでも森に降りてしまえば動植物たちにも害が出るので、必ず食い止めて欲しいと頼まれ偽・火焔光背を召還し剣に気を宿す。
「邪魔をするな!」
「アンタこそ!」
シシリーは胸元から飛び出し後ろへ回り、妲己と口論して少し間があってから光が発生する。
―ジンは早くあれを消滅させてくれ。僕らは後から行くから。
左肩に乗っていたウルクロウは、そう思念を飛ばした後で肩から降りた。神が付いてくれるならシシリーも安全だろうと思い、頼むと思念を飛ばしながら地面を蹴って飛び上がる。
「大火焔!」
剣の切っ先を紫の球へ向け叫ぶと、先から縁が濃い炎が噴き出し球へ向かって突き進んだものの、あともう少しで直撃というところで球は破裂してしまった。万事休すかと思ったが炎は小さな飛沫すら残さぬよう空を広がり、じゅわっという音がした後で煙が発生し上空へ昇っていく。
「おのれぇええええええ!」
空を駆け上がってくる妲己を避け、そこから空中戦に突入する。正直炎を背負っている時にのみ空中戦が可能となるため得意では無かった。なんとか感覚を頼りに空を駆け妲己と切り結ぶ。やはり地面が足の裏にないことがネックとなっているのか、斬りつけても容易に弾かれてしまう。
「ジーーーン! 斬る時は勢いを付けて!」
―地面で斬るのとは別で考えるんだ。足で踏ん張るのではなく速度と腕力、それに体のひねりで叩き付けろ。
宙を浮ける先輩二人からの有難いアドバイスを参考に、空での戦い方を模索しながら攻防を繰り返していく。
「狐火よ!」
「大火焔!」
夕方にやっていたアニメのような大空中戦を展開しているのが、元はサラリーマンのおっさんだと言ったら誰が信じるだろうか。今の自分に苦笑していると妲己は歯を剥き出しにして噛みついてくる。
「なぜだ……なぜ最高の環境で蘇り力を手にした私がこうも追い込まれる!? なぜ一方的な展開にならない!? なぜただの人間が空中で戦えるのだ!」
計画通りだったはずが回復タンクを使い潰すまでに至った妲己は、こちらへではなく神様へ自分に対する理不尽を抗議しているように聞こえた。ズルいと言いたいのだろうがそれはこっちの台詞だ。ただ冒険者として生き、妻や仲間と楽しく生きることが出来ればそれでよかったのに、それを全てぶち壊すだけでは飽き足らず多くの者たちを巻き込んだ。
寧ろどうして理不尽な目に遭わないと思ったのかこっちが不思議に思う。どれだけ他人に理不尽を振りかざしても遭っても目的を達成する、そのために唾を吐いたのなら飲まずにやり遂げるべきだ、と自分は考えている。
一瞬シンラの寂しそうな笑みが過ぎり、剣を握る手に力がこもった。誰もが魔法を使える世の中にする為に自分さえも犠牲にして戦う。思想に共鳴し生き方に魅せられた者たちが、暗闇の夜明けに集い戦って来たはずだ。
今残る面子を見れば、なんのための集団なのか分からなくなりかけている。果たしてこの戦いは本当に彼の望んだ戦いなのだろうか。こないだ会った際に見た彼はパワーアップしていたものの、限界間近に見えた。
「妲己、お前の野望は分かった。だけど残念なことに時と場所が悪かったと思う」
「なんだと……?」
「お前はここから先に居てはいけない者なんだよ。ただ邪悪であるだけでは生き残れない」
「面白い、ならば誰なら居て良いと言うのだ!?」
「ただ一途に、自分を犠牲にしても求める者だけだ」
「ぬかせ!」
飛び掛かってきた妲己に対しこちらも剣腹を肩に乗せ突っ込む。相手は警戒してコースを変えたが、直ぐにそれを追い
「ウィーゼル!」
左腕に羂索が現れたので放ち妲己を縛り上げ、上空へ上がってから剣腹を叩きつけるように降下しつつ振り下ろす。妲己は羂索が解かれたものの、ダメージがあり身動きが取れず悲鳴を上げ落ちていく。
「ありがとう、ジン」
地上ではウィーゼルが刀の柄に手を掛け見上げている。
「止めろ! ……止めて玉藻! お母さんを殺さないでぇえええええ!」
「さようなら、お母さん」
命乞いをしながらも、ウィーゼルが間合いに入った途端に爪を伸ばした。危ないと思ったがウィーゼルはあっさりとそれを前へ出て避け、振り向くと妲己が地上に着地する前に上段斬りを浴びせる。ズズン、と地響きを上げながら白く巨大な狐は落ち、間を開けずに周囲を鮮血で染め上げた。
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