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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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研ぎ澄まされた間

「見よ、これがその神を退けし最強の者の力だ」


 押されている状況を見て、シスターたちがタイミングを計り攻撃をしてくれたものの、白い尻尾で全て受けきってしまう。こうやって周りが自然と援護してくれるのも勇者の証と、なぜか攻撃を受けた方が言っていた。


白い尻尾は一本一本意志を持っているかのように動き、シスターたちの攻撃を凌ぐだけでなくし返してしまう。あまりにこちらが驚いているようにみえたのか、吉綱がやれて私がやれない訳がないだろうと言い放つ。


吉綱公を引き合いに出すと言うことは、彼が腕を増やした前の状態にも成れるということかと思った瞬間、尻尾が抜け白い狐の獣人に変化する。妲己はこちらを見つつ鼻を鳴らし首を傾けて微笑む。テオドールが余裕をもって下がったのも、彼女が準備万端出てくると分かっていたからだ。


一連の流れで唯一向こうの思い通りにならなかったことと言えば、ウィーゼルの父が村正を吉綱公に渡さなかったことだけだ。ふとそう考えた時、ウィーゼルの父親もテオドールによって刀になったことを思い出す。


まさかあれにも仕掛けがあるんじゃないだろうか、とその刀を握るウィーゼルを見た。白い獣人相手に必死の形相で戦っていたが、今のところ異常は見受けられない。あのテオドールが生成した刀だから、なにか仕掛けがあると考えた方が自然だ。


「……もう準備運動は済んだはずなのだが、な!」


 怒気の籠った言葉を吐きながら、素早い右振り下ろしと左薙ぎ払いの二連撃を放ってくる。右へ避けつつ相手の左を掻い潜り、こちらも負けずに斬り返したがあっさり捌かれた。相変わらず口元は微笑んでいるものの目が真剣みを帯びてくる。


一撃がさらに重く鋭くなりまともに受けては手が潰れるので、攻撃に対する意識よりも避け捌く意識へ重きを置きさらに集中した。


「ちょこまかと!」


 完全に攻撃を回避し始めた時、以前イサミさんに言われた攻撃と回避の間を作らないよう、流れるように攻撃することを試みる。これは入ると思ったところで一回目は反応され打撃を防がれ、二回目は蹴りを受け流され失敗した。


なにが足りない? スピードか? 読みか? 上手くいかないことの理由探しを始めそうになる。思考の迷路に入るのは不味いと思い、深く呼吸をしながら攻撃を避け捌き落ち着きを取り戻した。このままでは同じことの繰り返しになってしまうので、ここは攻撃が無理なら触れることにチャレンジしてみることはどうか、と考えチャレンジする。


先ほどから攻撃が当たらなくなった上に、攻撃ではなくただ触れるだけという行動に妲己は苛立ち始めた。気持ちが反映されたかのように彼女の攻撃は荒々しくなったものの、こちらは徐々に触れられる回数が増えていく。


何度目かの攻防を繰り返していた時、場に強い風が吹き通り過ぎる。


「なっ!?」


 攻撃してきた妲己の手首をなぜか掴めると感じ、見事掴むと同時に投げ飛ばすことに成功した。妲己は不意を突かれたようで、受け身を取れずそのまま背中を強打する。初めて流れるように攻撃することに成功し、嬉しさのあまり声を上げてしまった。


倒れている隙に止めを刺せばと気付いた頃には遅く、妲己は立ち上がり間合いを詰めてくる。今までは人間のような容姿をしていたが、狐に近い顔になり手の爪も長く伸びて扇子を捨て攻めてきた。


攻撃方法が変わってしまったので一からやり直しかと思ったものの、一度成功したことから気持ちが軽くなる。避けながら触れていき、ここだと思ったところで攻撃を加えたところ、今度は避けられずに攻撃が当たった。


掴んだ感覚を忘れないよう体に覚え込ませようとするも、相手が警戒し距離を取り始める。


「調子に乗らない方が良いんじゃないかしら? 私はまだ本来の力を出し切ってはいない」


 言葉とは裏腹にダメージが増えたことで焦りというか、恐怖を感じているように見えた。押し切れるかと一瞬思ったが本来の力と言われ、例の吸血と毒という言葉を思い出し様子を見る。触れて毒になるならとっくになっているだろうし、違和感を感じるだろうが違和感もない。


悪しき者である彼女の毒なら反応するかもと、念の為三鈷剣(さんこけん)の剣腹を手で触ってみたところ、ジュッと何かを焼くような音がした後で黒い液体が地面に垂れた。こちらの動きを見て歯を剥き出しにして妲己は睨んだ。


「お前がダメならあの連中から貰うだけだ!」


 そう叫ぶとシスターたちを脇に抱えた白い獣人が彼女の前に現れる。シスターやイサミさんまで捕らえてしまうとは、元は尻尾のあの獣人はどれだけ強いんだと困惑せざるを得ない。獣人は尻尾に戻ると彼女たちに巻き付き苦しそうな声を上げた。


「やはり勇者は油断ならん……いや、見下していた私のミスだと認める。こうなったらすべての力を吸収するのみよ!」


 言い終えた後で甲高い鳴き声を上げる。なにが起こるのかと警戒していたところ、瓦礫の下からこの国の人と思われる者たちが続々と飛び出てきた。空を埋め尽くすほど浮遊している彼らから、赤い紐のようなものが出て妲己に伸びる。


両手を広げながら空を見ている彼女に対し、攻撃を仕掛けようとしたが


―ジン、ステイだ。


 離れたところにいるウルクロウが思念を飛ばしてきた。まさか妲己の最終形態を見たいから待てというんじゃないだろうな、と視線を向け思念を飛ばし返したもののそっぽを向き無視する。なんなんだよと思っているうちに、赤い紐のようなものが妲己の手に到着してしまった。


「ふふふ……ようやく私は最大最強の力を手に入れることになる。お前を倒したあとはナギナミに戻って人間どもを皆殺しにし、私を頂点とした国を作るのだ!」

「寝言はもう一度死んでから言え!」


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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