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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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化けて出る者

「お互い恨みっこなしでよいな?」

「もちろんよ」


 改めて確認し合い、いよいよ始まるかと思ったのも束の間、いつの間にか互いに立っていた位置が入れ替わり刀を納めている。


「ふん……虫けらにしては良い太刀筋だった」


 刀の柄から手を離しゆっくり背筋を伸ばした吉綱公は、背を向けたままウィーゼルを讃えた後でゆっくりと膝を付き倒れた。ウィーゼルは倒れた音を聞いてからこちらを向き深々と頭を下げる。勝者と敗者、生者と死者の違いはあれど、互いに最後は尊重し合えたことは救いなのかもしれない。


―実に面白くない勝負ね……そう思わない? 勇者様。


 初めて聞く女性の声がどこかから聞こえ、心底呆れたような感じで言った。もう勇者はその名に相応しい男に渡すんだけどなと思いつつ、気を広げ探るもどこにも反応が無い。明らかにこちらの状況を見ているのは言葉からも分かったので、魔法石が爆発するかもしれないから逃げた方が良いと忠告する。


―魔法石が爆発するの? 初めて聞いたけのだけれど、これってそんなに危険なものなのねぇ。


 魔法石をこれと言ったのを聞き、この場にある魔法石を埋め込まれていた吉綱公の体を見た。


「皆、今直ぐ離れて!」


 ウィーゼルは何かに気付いたのか、声を上げながら必死の形相でこちらに走ってくる。皆にも逃げろと声を掛け、離れたところにいたシシリーとウルクロウを回収し、遠目で見えるくらいの位置まで距離を取った。


横にいたウィーゼルにどうしたのかと尋ねるも、先ほどまで居たところを睨みながら震えるだけで答えない。どこか怪我でもしたのか聞こうとした瞬間、強い光が場を包み急いで目を閉じる。


鏡桜花(かがみおうか )!」

「つまらない技ね。でも今は正しい」


 防御するために放ったウィーゼルの技を、つまらないが正しいと先ほどから聞こえてきている声が言った。彼女の技を知っているということは知人なのだろうか。


白刃偽獣(はくばぎじゅう )!」

「それは不正解よ」


 まだ光が収まらないので見えないが、ウィーゼルの攻撃が声の主に向かって行ったものの、ギン! という金属音がした後でこちらに返ってくるのが音で分かる。目が塞がった状態では避けれないメンバーもおり、このままではダメージを受けてしまう。


なんとかしなくてはと考え、剣圧を感じる方へ向け目を閉じたまま焔祓風神拳(ぜんふつふうじんけん)を放つ。


「なるほど、これが噂の……。さすが勇者様ね」


 先ほどから聞こえる声の主は感嘆の声を上げた。直撃かと思ったが、焔祓風神拳(ぜんふつふうじんけん)はウィーゼルが放った剣圧をかき消したのみで、その先にいる人物の気は減っていないように感じる。


気を広げてしっかり捉えてみたがやはり減ってはおらず、強大で禍々しい気はテオドールやイエミアと同種な感じがした。


「玉藻以外は初めまして。ナギナミの大妖怪、妲己と申します。以後お見知りおきを」


 光が完全に収まり目を開けると、先の方に十二単を着た人物が見える。距離があるはずなのに近くに感じるほどの圧を放っており、自ら大妖怪と名乗るのも頷けた。彼女が言う玉藻とはウィーゼルの本名だと思い出し視線を向けたが、こちらを見ずに前を睨み続け斬りかからんと柄に手を掛けている。


その手は震えており、怒っているのかそれとも恐怖を感じているのか判断が付かない。なるべく気負い過ぎないように、彼女の前に出て妲己を見えないようにした。こちらの行動を見て男のように声を上げて人笑いした後で、ちょっと待ってねと言って倒れている吉綱公の頭を片手で掴んだ。


何をするのかと様子を窺っていたら、手の数も増え筋肉質な吉綱公を軽々と持ち上げただけでなく、彼の首筋に噛みつき音を立てて吸い始める。あっという間に吉綱公は空気の抜けた浮き輪のようになり、壮大なゲップを吐きながら彼を放り捨てた。


お待たせしてごめんなさい、じゃあ始めましょうかというが、目的が分からず先ず暗闇の夜明けの一員かと尋ねてみる。するとこちらの問いがよほど可笑しかったのか、甲高い声を上げてヒステリックに笑い始めた。


暗闇の夜明けには、ああいうズレた人でないと入れないのかと思い呆れていたところ、ウィーゼルが叫びながら妲己と名乗る人物へ向け白刃偽獣(はくばぎじゅう )を放つ。妲己は笑いながらくるりと舞い、どこかから出した大きな扇子を広げて白刃偽獣(はくばぎじゅう )を弾いた。


こちらも再度それをかき消し、今度こそは直撃させようと力を込め狙いを定め焔祓風神拳(ぜんふつふうじんけん)を放つ。


技を見て口角を限界まで引き上げて笑みを浮かべると同時に、頬に髭が現れ瞳孔は縦長になり白目が赤く染まる。背後に白い九つの尾が現れ、さらにもう一本大きな扇子を出して広げて二回転した後で、扇子を地面に突き刺す。


「魑魅魍魎の舞!」


突き刺した場所からこちらへ向けて地割れが出き、そこから画図百鬼夜行に出てくるようなおぞましい化け物たちが、我先にと這い出てきた。なにか技でも放つのかと思いきや、焔祓風神拳(ぜんふつふうじんけん)に身を投げ出し軌道を逸らそうとして来る。


風に不動明王様の焔を乗せた技なので止められるはずがなかったが、妲己は地割れへ飛び込み難を逃れた。彼女は通過したのを確認した後で、危なかったと呑気に言いつつ出てくる。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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