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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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村雨

「吉綱公は以前であれば我々を嬉々として殺していたであろうに、殺さないどころか傷すらつけなかった。何やら本当に生まれ変わったような気がするでござる」


 残虐非道だったと言われる生前の吉綱公を知っている人からすれば、百八十度違う彼に驚くのも無理はない。蘇ってから初めて会ったがあの人は根っからの戦闘民族だ。籠の中に無理やり閉じ込めた場合暴発するのは当然だろう。


マテウスさんに随分と嬉しそうでござるなと言われ、慌てて両手で頬を軽く叩く。敵の多くは真っ直ぐ来ない上に犠牲者をいとわず攻めてくる。犠牲者も怪我人も出さず、言葉による果たし状を出してきた吉綱公の行動には驚いたが、戦うことを望まれて嬉しいと思ったのは初めてかもしれない。


「馬鹿なことを言わないで頂戴。アイツは死んでも生まれ変わっても同じ奴よ」


―その通りだ虫けら。ワシを高く評価する必要は無い。


 こちらの前に出て来て睨みながら言うウィーゼルに、同意する声が先の森から聞こえてきた。ウィーゼルが身を翻し構えると同時に他の皆も身構える。


―高く評価する必要は無いが、ワシの目的は理解しているはずだ。


 吉綱公は強い者と戦いたいという欲を満たすため、暗闇の夜明けに所属していた。自分が望む強敵として今回選ばれたが、どうしても吉綱公と戦いたい者がこちらにはいると説明したところ、森の中から誰かが出てくる。


「悪いが虫けらと遊んでやる気はない」


 見ると金色の陣羽織に袴を履き、顔と胴に隙間なく紋様が刻まれた吉綱公が立っていた。以前会った時とは別人の姿に驚いているこちらを見て、シンラと同じで魔法による強化の副作用だと説明してくれる。


強化の印ではなく副作用と聞いて驚き、魔法の専門家であるイサミさんやシスターそれにエレミアを見たが、首を横に振った。イエミアとテオドールによる渾身の強化だと言って手を上げ、少しすると地面から多くの手が生えてくる。


「余計な邪魔が入った時便利だからとこの魔法を習得させられた。一対一を拒むというなら、これで虫けらと一緒に排除するのみだ」


 吉綱公が手を前に突き出すと刀が現れ、柄を握り鞘から出すと鞘は消えた。地面から生えた手も同時に刀を握ったのを見て、彼の手とリンクしているのは間違いない。多くの手に集中して動かすのは至難の業だろうが、襲撃の際にシャイネン軍を無傷で倒したという戦果を挙げている。


自身が達人であるにもかかわらずさらなる強化をされている上に、この多数の手で攻撃をされては苦戦は必至だ。


「虫けらどももよく考えよ。この大陸にジン・サガラ側にさらなる強い者は見当たらない。ジン・サガラを倒した後はシンラや新入りと戦い、いずれはリベンに戻り強いと言われるノガミを討伐して回ろうか、と思っている。虫けらにとっては良い取引ではないか? 長生きできるぞ?」


 店頭販売みたいなノリで恐ろしいことを口走る元大和の将軍様。強い奴を探し回るのが目的なので、普通に暮らす人にはたしかに安全かもしれないと、他の兵士たちはざわつく。不穏な空気にマテウスさんが皆冷静になれと声を上げ、兵士たちは我に返り身構え直した。


吉綱公が一度襲撃した際に圧倒的な力の差を見せつけたからこそ、先ほどの発言は兵士たちの心に自然と受け入れられる。戦って勝てないなら誰だって戦いたくは無いし、生きて帰りたいのは誰も同じだった。


暗闇の夜明けとの戦いは兵士たちにとって今は他人事だ、というのも感じられる。なるべく被害を出さないようにと戦っていたが、戦争中という事実から多くの人を遠ざけてしまったのかもしれない。もしこちらが国にいない時に襲撃を受けたら戦えるのだろうか、と不安になってきた。


「ジン・サガラ、ワシは今はお前とだけ戦いたい。暗闇の夜明けとしても狙いはお前だけだ。あとの連中はお前がいなくなれば、瞬きをする間もなく今見たように首を差し出す。イエミアとテオドールの気分次第で殺されるのも知らずに」


 アの国とマの国の惨状を知っても尚、生き延びるために彼らは容易く自らに首輪をつける。元将軍の言葉が場に響き渡った。静まり返った場に続けて民などおよそ護るに値せず、都合の良い時だけ頭を下げる虫けらだと言い放つ。


「ご高説痛み入るわね。聞いてあげたんだから私と戦ってもらえるかしら?」

千子宇(せんごう)一族の姫よ、お前たちもあ奴らと変わらんのだと分っておろう? お主の刀とワシの刀を見ても思い出さんか?」


 ウィーゼルは一瞬体をびくっとさせる。ユー先生の言っていた村正がすり替えられて納められた、という噂に関係しているのだろうか。


「なにが言いたいのかしら?」

「言わなくともわかるよう、テオドールに村雨を地面に差すよう頼んだというのに」


 言い終わるのを待たずにウィーゼルは吉綱公に斬りかかった。片手であっさり斬撃を受け止めた後で力任せにウィーゼルを吹き飛ばす。離れたところに着地するのを見て、吉綱公はつまらなそうに鼻で笑う。


「つまらぬ欲で自らの仕事を放棄し、魔法に頼って刀を納めた恥知らずな一族の女よ。ワシが処刑されてさぞ気分が良かったであろう? お前たちが将軍を騙したこともなかったことにされたのだからな」


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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