ヤスヒサ王との対話を終えて
―なんらかの制限が具体的でない以上、姉が野上の炎をここから先は常に使ってくる可能性がある。僕がここに来たのも、その対策のために君にあるものを貸しに来たんだ
言葉が終わると突然上半身が熱を帯びてくる。ヤスヒサ王と会話している最中は肉体の感覚が無かったものの、徐々に感覚を取り戻した。火傷を負っていたはずの体はどこも痛さを感じず、さらに消耗した体力も回復しだしている。
「これはいったい」
―僕がこの世界で身に着けた、呪術法衣というものだよ。これなら野上の炎を無効にすることが可能だ。君の意思で身に纏うことも可能だけど、察知すれば自動的に身に纏うようになっている。
ヤスヒサ王曰く、顕現不動モードなどの不動明王様のお力の下に着れるようで、基本気にしなくて良いそうだ。感謝の言葉を述べようとしたが、気が遠のいていく。
―さらばだ相良仁君。次ぎ会う時は使命を終えた時だろう。色々こちらのことで迷惑をかけてすまないが、よろしく頼む
「ジン!?」
声に反応し目を開けると意識を失う前の景色が見えた。体の感触を確かめるべく手を握ったり足首を動かしてみたが、全く問題ないどころか全快している。ゆっくり起き上がり前を見ると司祭が師匠と戦い、シスターがイエミアと戦っていた。
「大丈夫!?」
「ああ、心配かけてすまない。もう大丈夫だ」
横で浮きつつ心配していたシシリーに答えると彼女は肩に着地する。自分の姿を確認して見たところ、無地に袖や襟などの端部分に金の刺繍がされた、初めて見る羽織を着ていた。恐らくこれが呪術法衣というものなのだろう。
さっそくヤスヒサ王からお貸し頂いた呪術法衣を試すべく、イエミアに近付いてく。シスターを攻撃しながらもこちらの動きを掴んでおり、青白い炎を宿した拳で彼女を強打し下がらせたあとで、こちらに向けてニヤつきながら炎を放ってくる。
「なんだと!?」
右手を突き出し炎を受け止めたが、前回のように燃え移ることなく消し去ることが出来た。様子を見てイエミアは驚愕し一歩下がる。シスターはその動きを見逃さずにイエミアへ殴り掛かった。
「死んでいたはずなのに生き返っただけでなく、なぜ炎を」
「ジンは奇跡の男だからな!」
また変な二つ名が出来ることだけは避けたいと考え、シスターの横へ移動する。彼女は奇跡の男が嫌ならラッキーマンとかどうだ、とさらに最悪な二つ名を提示して来た。ネーミングセンスをどうにかしてくれと言うも、シャイネンではネーミングセンスの神と言われていたと胸を張る。
後世どころか現世で笑われる可能性が高いなと考えていたところに、青白い炎が飛んで来たので拳で殴り弾き返した。
「どうやら奇跡とやらで跳ね返しているのではないようね」
飛んで来た炎を薙いで掻き消し、イエミアはこちらを睨む。ヤスヒサ王に会った話や呪術法衣を借りた話をすれば驚く、というのはわかるが何となく内緒にしようと思い、微笑むだけに留める。何も言わないこちらが気に食わないのか、舌打ちし連続して炎をこちらに放り投げてきた。
すべて殴って弾き返しつつ、自分は無効化出来てもノガミの血縁以外はそうではない、今後皆で戦う時は注意が必要だと気を引き締める。見れば辺りは木だけでなく雑草も枯れ、命を根こそぎ燃やし尽くしていた。
「そんなに野上の炎を連続して使って良いのか? まだノガミを一掃するスタートにも立っていないのに」
「……お前は確実に消す必要があるから使っているだけよ」
イエミアを見ると珍しく余裕のない顔をしており、さらに肩で息をしている。師匠を洗脳し戦力としたのは、イエミアの体では限界があるからかもしれない。一度死んだ人間の体を再利用するよりも、死んだ時に誰かに乗り移ればよかったのに、と思った。
口に出して指摘すると苦虫を嚙み潰したような顔をする。ヤスヒサ王が指摘したように、魂を乗り移らせるには回数制限があり、クロウはそれを黙って一、二回にしていたのではないだろうか。クロウと手を組んでいたにしては、彼がやられてとても喜んでいたので違和感があった。
無限は無いにしてもまさか一、二回しか出来ないと知れば、クロウが倒されて喜ぶのも頷ける。魔法石を用いて復活したのもそれが理由だとすれば辻褄が合った。こちらの考えを話してみたところ、アンタ本当になんなのよと心の底から嘆く。
「ジン・サガラ、お前のせいで私の計画は台無しだ。ノガミを一掃するための始まりの地として、動きを探られづらいヨシズミ国に目を付けたというのに」
イエミアは恨めしそうに言う。魂を生まれる前のイエミアに移したのも、魔術魔法の素養があるだけでなく、ヨシズミ国で上流階級だったことが要因らしい。生を受けたあとはヨシズミ国を調べつつ、魔術魔法の訓練を隠れて行ったそうだ。
戦力になればと妹であるエレミアに、夢の中などで魔術魔法を伝授したという。占いを利用し政権に食い込んだものの、ノガミを倒すにはこの大地の人間は弱すぎた。後の戦力とするべく子孫を残し、寿命が尽きた瞬間に別の人物へ移ろうとする。
「テオドールとはクロウを通じて協力関係にあった。死ぬ間際に連絡を入れたものの、私が望むスペックの体が見つからず年月が経ち、やっと用意されたのがアリーザだ」
アリーザさんは良家の御嬢様で、魔法魔術の才能があるだけでなく、肉体の強さもある理想の体だったそうだ。テオドールの仕業による病が発端で心臓発作を起こして亡くなり、確実に死んだと思われたアリーザさんの心臓を魔法石に変え、あとは乗り移るだけの状態にした。
イエミアは体に入ったものの、気が付けば魂はリベンに飛ばされていたという。死んだ人間は魂も出る、心臓を入れ替えればいけると言ったのはクロウだそうだ。
結局アリーザさんは元の人格のまま蘇生し、イエミアはペナルティを負ったのか乗り移りが出来なくなる。テオドールはクロウに連絡し、土葬されたイエミアの遺体を回収して若返らせて戻ったという。
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