暗闇の中で
もはや返事をすることも出来ず、体も満身創痍で意識が遠のいていく。アリーザさんを助けることも出来ず、自らの失策によって転生人生も終わりを告げるのか。
―まだその時に非ず
不動明王様かと思いきや、初めて聞く声がする。いったい誰が呼びかけているのだろう。
―君はまだ役目を果たし終えてはいない
役目……自分がこの世界に来たのは、先生が人生のやり直しが出来るようにと取り計らってくれたからだ。なにか役目を持ってこの世界に来たのではない。
―役目を持ってきたのではなく、この地で得たのだ。大地の守護者を継承しただろう?
不動明王様のお力を得るに時に、大地の守護者と呼ばれていたのを思い出す。継承したとすれば大変情けない姿をさらしてしまった。不動明王様に合わせる顔も無い。
―この世界に特殊な方法で来た君だからこそ、不動明王様もお力をお貸しくださったのだろう。クロウの手引きできた場合は、永続のチート機能が付与されるから邪魔になるだろうし。
「クロウのことも知っているとなるとあなたは別の神様ですか?」
―神様なんてとんでもない! 神様だったら君に迷惑をかけずにアレの野望を食い止めていたさ
「アレとはクロウですか?」
―イエミアこと春原來音だよ
「イエミアの本名を知ってるってことは神なのでは?」
―違う違う。神様以外にも知ってる人間が一人だけ居るはずだ、もう死んでるけど
神様以外でイエミアの本名を知っている、もう死んでる人間で考えた時、それはもうただ一人しかいない。
―そう、君の考えた通りだ。僕は君の異世界における先輩で、先代の大地の守護者だよ
異世界の先輩で且つ先代の大地の守護者と言えばヤスヒサ王ただ一人だ。死にかけたことで偉大なる英雄、人間教の神でもあるヤスヒサ王と話す機会が得られたらしく、なんとも不思議な気分になる。
―わざと言ってるのか知らないが、僕は死んで神様に祀り上げられるなんて不快でしかない。以後止めてくれ
謝罪しつつ会えてとても光栄だと伝え、子孫の皆さんにはお世話になってますとお礼を述べた。どういう人だったのかその姿を一目見たかったが、残念なことに死にかけているからか目が開けられない。
―僕から君を助けろと言ったわけではないので礼は不要だよ。寧ろ道を誤った子孫が君に迷惑をかけたのだから、感謝するとすれば僕の方だし。
道を誤った子孫は恐らくミサキさんのことだろう。死して子孫たちの苦境を知っていても、何も出来ないのだから苦しいのだろうな、と察し生きている人間が相対しなければならないことなのでと気遣う。
本来現世はそうあるべきだが、死んでいた人間が絡んでいるので自分もまだまだ安らかに眠れない、とヤスヒサ王は話す。今回こうして来たのも、イエミアの力の件があってだそうだ。
―春原來音の青白い炎は呪術の炎だ。野上家が代々受け継いで来た呪力そのものだから、血縁でもない限り消せない。姉の場合子孫たちよりも当然ながら純度が高い。
「今回シスター……ヤスヒサ王のお孫さんにに消してもらいました」
―消せたのではなく死亡が確定したら消えただけだよ。あの子には血縁なので燃え移らなかっただけだ
それを聞いて絶句する。自分以外でもヤスヒサ王の血縁でなければ死ぬしかないなんて、凄まじい技だと思った。同時にイエミアはそんな凄い即死に近い技を持っていたのに、これまで使用してこなかったのはなぜだろう、という疑問も浮かんでくる。
―姉に関しては少々複雑だ。彼女を一度倒してわかったが、クロウに協力する代わりに魂だけでも活動できる力を得ているようだ。但し何れ裏切るだろうという姉の腹の中を、クロウも読んでいて回数制限付きみたいだけど
ヤスヒサ王曰く、最初の体でヤスヒサ王に倒された後に、生まれる前の赤ん坊に乗り移ったという。新しくイエミアとして人生を送り死に至ったものの、なぜか魂を動かさずにイエミアとして蘇ったらしい。
彼女に固執する理由は何かあるのでしょうかと問いかけるも、あいにく神様ではないので分からないと話した。謎は残るがその力は健在であり、即死技を使用して来たとなればそれはこの世界の力を逸脱しており、バランスが崩れた結果介入を可能にしたともいう。
―先祖代々野上が長い間掛けて繋いできた力だからこそ、相手を即死に追い込むほどの威力がある。ただ野上とは関係ない異世界の人間を通して力を使うのだから、なんらかの制限があるのは間違いない
不動明王様の力で防げないのかと問うも、使用者が悪だとしても力は悪ではないし、野上家として神社仏閣にも縁があったから無理だそうだ。ヤスヒサ王が不動明王様から力をお借りできたのも、そういった経緯があると教えてくれる。
結果として不動明王様との縁がこの星にも出来、実はリベン近郊にヤスヒサ王が彫った不動明王像が安置され、今も見守って下さっているという。自分もなぜ不動明王様のお力を借りられたのか、ヤスヒサ王の話を聞いてその一端が理解できた。
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